「おすすめのお店を教えていただけませんか?」

そういうご質問をちょうだいすることがままあります。
困ります(笑)。
「どの辺りでお店をお探しですか?」とまず伺います。

「いいお店ならば、どこにでも飛んで行きますから
 場所は頓着いたしません」

また困ります。
ボクだって時間とお金を持て余していたら
行きたいお店がいくつか、
この地球というおいしい惑星の上にはあって、
けれど本当にワザワザ、
「とある一軒のレストランで食事をするコト」
を目的の旅をするだけの価値のあるお店はあるか、
と言われると、かなり微妙なところであります。

「勤め先の近所でいいお店ってないでしょうか?」

そう聞かれるとやっとボクの頭の中の
「おいしいお店リスト」の扉が開き始めるのですけれど、
それでまだまだ「全開!」というわけにはいかない。
ウィークデーは毎日のようにいるエリアですから、
気に入っていただければ何度も通っていただけて、
「おなじみさんになるたのしみ」を
味わっていただくこともできるでしょう。
けれど同時に、「誰と一緒に行くのだろう?」と、
次の疑問が頭をもたげる。
お一人様でもたのしいランチ。
仕事帰りに一人で利用のしがいある店。
それならいくらでも頭に思い浮かぶのだけど、
それだとレストランをたのしむコトの一番大きな部分‥‥、
同じテーブル、同じ空間を共有している人たちと
シアワセを一緒に作り、
分け合うというステキを味わうコトができない。
だからちょっともったいない。

「どのエリアにお住まいですか?」

と、この質問にお答えいただくと、頭の中はフル回転。
「おなじみさんになりがいのあるお店」を
お答えすることができるようになる。






普通のレストランは
お客様に叱られないように営業している。
良いレストランは、
お客様に褒めていただける魅力がある。
ステキなレストランは、
お客様にもう一度来ていただくように努力する。
そして、素晴らしいレストランは
沢山のおなじみさんに恵まれている。
せっかくだったら、素晴らしいレストランになれるように
頑張りましょうネ‥‥、と
お店を開業しようとする人たちにはお教えします。

おなじみさんを獲得するために
何にこだわればいいのでしょうか?
サービスをよくすればいいのでしょうか。
料理をとびきりおいしくすればいいのでしょうか。
いやいや、そうじゃないですよね。
お客様の顔や名前を覚えるコトができればいい。
でもそんなコトって、何か工夫やテクニック、
あるいは生まれながらの才能が必要なんじゃないですか?
‥‥、そう大抵の人はいいます。

そんなことはない。
何度も何度も、来てくれるようにすればいいだけ。
毎日、寄ってくれる人なら
そのうち、必ず顔を覚えるようになるでしょう。
一年に一度しか来ないお客様の名前を覚えようとするから、
コトがひたすら面倒になる。
だからまず、あなたがお店を作ろうとしている場所の周りに
どんな人がいるかを調べてみましょう。

歩ける距離にいるところから来るお客様は、
毎日だって来てくれる。
車で15分くらいの距離なら一週間に1回程度。
車で1時間を超えるとワンシーズンに1回くらい、
特別のときにしか来てくれないというのが
外食産業の人たちが使う「距離と来店頻度」の指標。

毎日やって来てくれるお客様は
おなじみさんになってくれやすいけど、
そうしたお客様だけを相手にしていると、
商圏の規模が小さくなっちゃう。
だからそういうお店は小さなお店。
しかも毎日来てもお客様の負担にならない
手軽な値段の商品で、
お客様をおもてなししなくちゃいけなくなる。
近所の人に愛されている喫茶店のようなお店が、
大抵、小さなお店であるのはこういう理由。

商圏を大きく設定すればするほど
対象とできるお客様の数は増えてくるけれど、
ワザワザ来てもらうために
料理やサービスに特徴をつけなくちゃいけなくなる。
いろんな人のいろんな期待に応えなくてはならなって、
はじめてお店をあける人には
ハードルが高くなっていくのです。
ほどよい規模のレストランで、
ほどよい期待感に応えるコトでお店を増やした。
それがファミリーレストランという存在でした。






車で15分くらいの移動距離。
家から家族と一緒に、
週に1回くらいやってくる人たちを笑顔でもてなす。
ファミリーレストランの最盛期。
優秀な店長はお馴染みのお客様の顔を覚える。
そして、その方々が好んで座るテーブルや、
いつもお召し上がりになる料理を
ひとつでも多く覚えるコトに
情熱をもやしていたモノでありました。

今となっては遠い昔の思い出ばなし。
お客様から期待されないお店は切ない。
期待に応えるコトを忘れたお店は哀れ。
ファミリーレストランの御三家と呼ばれた
すかいらーく、デニーズにロイヤルホスト。
その3軒が同じ街道沿いに並んでお店を開店しても、
どのお店もがシッカリお客様を集めて繁盛できていた。
それぞれがそれぞれ特徴を持っていたから。
サンドイッチのような軽食を
気軽に食べるのならばデニーズ。
ハンバーグをお箸で食べるのだったらすかいらーくだし、
良いサービスを受けたければ
ちょっと高いけどロイヤルホストで‥‥、と。

けれどそのうち、それぞれが意識しあって
みんな同じようになっていく。
特徴をなくしたお店が唯一すがる
最後の砦が「安売り」で、
それでファミリーレストランは、
お客様の顔を覚えるコトを忘れた。
お客様に期待されないお店は切ない‥‥、
その典型的事例であります。

さて来週。
どんなお店を贔屓にすればいいのかどうか。
おなじみさんになりがいのある、
お店の見極め方をちょっと説明してみましょう。
飲食店を成功させる法則を、
お客様のサイドにたって読み解けばとても簡単。
また来週。


2012-02-07-THU
 

 
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ほぼ日刊イトイ新聞 - おいしい店とのつきあい方。