大きな鏡の前でひとりで食事をしてみる。

意外な発見にビックリします。
グラスを持ち上げ水をのむとき、
グラスの下を持ち過ぎて不安定にみえてしまうコト。
ナイフで何かを切るときに、
思わず舌なめずりしてしまうことがたまにあるコト。
お皿に対して左に体が傾く。
だから体の真ん中にお皿をおくより、
ちょっと左にズラしておいた方がキレイに食べられるコト。
どれも知らずに身についたクセで、
意識しないとわからないコト。

ボクと今まで食事をしていた人は
こうしたボクの姿を見ていたんだなぁ‥‥、って。
レストランで働いている人たちは、
ボクのこうしたクセを見ながら
サービスしてくれていたのかもしれないなぁ。
自分だけが知らなかったいろんなコトを、
こうしてチェックするコトって勉強になる。
レストランは公の場所。
たとえひとりで行ったとしても、
そこには他のお客様がいて、
たとえお客様がひとりもそこにいなくても、
お店の人がボクのコトを見てるんだ。
その人たちが不快に思わず。
その人たちをたのしくさせる食べる姿を
心がけなくちゃとボクは思った。

ダイニングパートナー。
互いの食べ方。
互いのクセを見守りアドバイスをしあえる食事友達を、
そのとき作ろうと思いました。
今までボクが生まれ育った国とは違った街にきて、
さてボクはレストランでどんな印象をもたれているのか。
一緒に食事をたのしむ友達もいいけれど、
レストランで好印象を持ってもらえるように
互いを磨き合えるようなパートナー。
2人いればいいでしょう。
ひとりはあなたが食事にいってたのしませたい
恋人に近い年齢、性別。
もうひとりはあなたと同じ年令、性別。
つまりあなたの鏡になってくれそうなパートナー。
どちらかひとりを選びなさい‥‥、と言われれば
まず、あなたの鏡。
マナー教室では学べぬ、
あなたらしい楽しみ方を一緒にみつける。
しかもたのしく食事をしながら‥‥。




ひとりのときでも目の前に、
ダイニングパートナーがいると思えばいいのですよね。

ひとりで食べると、
どうしても食べる速度がはやくなっちゃう。
誰かと一緒に食べると会話がたのしくて、ユックリ食べる。
レストランで、料理と格闘しているとき。
人は誰もがシアワセで、自分らしくてたのしく見える。
しかも誰かと一緒に食事をしているときは、
テーブルの上の空気自体がシアワセそうで、
そのシアワセな空気に紛れて
細かなマナー間違いや、
ほんの少しの無礼くらいなら周りの人も、
お店の人も、多めにみてもくれるのですネ。

けれど料理が片付いて、テーブルの上に何もないとき。
イライラしたり、沈黙したり。
退屈そうに腕組みしたり、気づかず無作法をしてしまう。
だからなるべく、ユックリ食べる。
そしてひとくちごとに感想を言う。
口にだしていっては
ちょっと変な人にしか見えないですから、ココロの中で。
目の前にダイニングパートナーがいると思えば、
それも自然にできようもの。

それでもいつかはお皿が下がる。
次の料理を提供するために、
テーブルの上を一旦さみしくさせなきゃいけない。
名残惜しげにお店の人に、
「おいしかった」と感想をいい、
次の料理はどんな料理か聞いてみるのもいいでしょう。
空っぽになったテーブルを前にひとりで退屈しない、
一番簡単な方法は次の料理に思いを馳せて、
あれやこれやと創造力を働かせるコト。
そしてその傍らにワインのひとつもあれば最高。
そのときの座り姿がハンサムだったら言うコトなしです。
頭を垂れて貧乏臭く見えぬよう。
背中を曲げて、胃弱に見えたりしないよう。
背筋を伸ばして胸をはり、
おいしい料理を作ってください‥‥、
お腹も元気でもりもり沢山食べますよ。
そんな意思表示が自然にできれば、
ステキなお客様のできあがり。

それにしても座り姿というコトに関して
西洋の人たちの上半身のがっしりとして迫力のあるコト。
ニューヨークに来てビックリします。
考えてみれば日本の着物。
なで肩で胸が薄い方が儚くキレイに見える。
男性用の和服でさえ、
肩がはって胸があまりに分厚いと
着こなし自体がむつかしくなる。
けれど洋服。
とくに正装。
分厚い胸があればこそのデザインで、
女性のドレスは背中がシャンとしてないと
キレイにみえない。
ボクはまず、フィットネスクラブに
入会しなくちゃと思ったほどで、
今でも背中をしゃんとさせるのを心がけてる。
ステキなおひとりさまは、
見られ上手じゃなくちゃいけないというコトなのです。
勉強です。






さてあと数日でクリスマス。
今年は2001年の年末のコトを思い出します。
実はその年の12月。
20日前後の数日間を、
ボクはニューヨークで過ごしていました。
当時、手がけていた投資案件の
9月の下旬に本来するべき打ち合わせ。
それが、不幸な出来事で延期になって
年も押し迫った真冬のミーティングとなったのです。
街は沈んでいるのだろう‥‥。
そう思ってやってきて、確かにホテルはガラガラでした。
観光客が激減し、デパートなんかもどこかひっそり。
何度か訪れたコトがある中国料理のおいしい店に
フラッと入り、
今年のクリスマスは
さみしいクリスマスになるんですかね?
と、お店の人につぶやいた。

ありがたいコトに、
うちのお店は例年以上に
予約を頂戴してるんですよ‥‥、と。

クリスマスは外食よりも
家で友人を招いて祝うコトが多いアメリカで、
けれど沈んだ街をちょっとでも明るくしたいネ‥‥、
とその年、ニューヨークの人たちは
こぞって外食をしたのだという。
レストランで食事をするのはたしかに贅沢。
しかしその贅沢は、
レストランで働く人をシアワセにするステキな贅沢。
しかも同じお店に集まる
みんなが互いをシアワセにしあうコトができる贅沢。
だからなるべく外食しようよ‥‥、
とそんなムードが街を包んで、
いつもの馴染みのお店で
ホリデーディナーをしようと思う人が増えたのでしょう。
ステキなコト‥‥、ってそのとき思った。

そして今年のクリスマス。
こうして今年も逢えるコトができるシアワセを
ひとりでも多くの人と分かち合えるよう。
ご無沙汰していたオキニイリの店に、
友達誘って今年はちょっと贅沢を、
ボクはしようと思っています。
みなさんのクリスマスが、
良きクリスマスになりますように。
そして来週、今年最後のまとめです。




2011-12-22-THU


© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN