オバマ大統領の就任演説を観ながら 冷泉彰彦さんに、なにかと訊く フルテキスト版。

第8回 対立のまんなかにいる人

糸井 ぼく、前回のブッシュさんのときには、
就任式を観た覚えがないんですよ。
冷泉 まぁ、そうですよね。
糸井 もちろん、その前も、その前の前も。

冷泉さんは毎回観てると思うんですけど、
これまでの就任式と
どのような「ちがい」がありましたか?
冷泉 やっぱり、今回は「特別」でしたよね。

で、それは、なぜかと言ったら
話してきたように、
やっぱり「人種の問題」が大きいです。
糸井 政治って、本当は「政治嫌いな人」が
やるべきといいますか‥‥。

なんというか、「やりたくない人」が
「どうやるか」を考えるのが、
豊かなんじゃないかなって思うんです。
冷泉 ええ、おっしゃるとおりですね。
糸井 そういう意味で、オバマさんって
「好きじゃないけど、やるんだよ」って人に、
見えたんですよね、なんとなく。
冷泉 そうかもしれません。
糸井 さっきのドキュメンタリーで観たんですが、
若いときのオバマさんって
たとえば、ハーバードの学生のときに、
なにか伝統のある
法律の専門誌の編集長になったりするんだけど、
いつでも「仲裁役」にいるんですよ。
冷泉 ああ‥‥なるほど。
糸井 つねに「対立のまんなか」にいる。
冷泉 うん、うん。
糸井 ご自身、ケニアと白人のハーフですけど、
「まんなかにいる人」って
何らかの利益や党派やグループに、
簡単には与することはできないでしょう?
冷泉 おっしゃるとおりですね。
糸井 なんか、生まれながらにして、
なかなか
キツい場所にいるなぁと思ったんです。
冷泉 なるほど。
糸井 と同時に、どの場面でも、
「好きじゃないのに、任されてる」みたいな
雰囲気があったんですよね。

野心でギラギラしてないから
そう思うのかもしれないけど。
冷泉 さっき、百戦錬磨の上院議員のなかで
堂々としてたと言いましたけど‥‥
調整役だったんですよ、オバマさんって。
糸井 へぇ、上院議員としても?
‥‥おもしろいなぁ。
冷泉 ニュース報道なんかを見ていると
長老議員から、
しかも、民主党じゃなくて、
相手方の共和党の長老議員たちから
可愛がられてたみたいですね。
糸井 ほぉー‥‥。
冷泉 それと、もうひとつ、特徴的なのは‥‥。
糸井 ええ。
冷泉 今回、オバマを大統領に押し上げた理由は
さまざま語られると思うんですけど、
とても大きかったのが
インターネットの使いかただと、思います。
糸井 ほう、インターネット。
冷泉 ものすごく「きめ細やか」だったんですよね。
糸井 それは‥‥具体的にいうと?
冷泉 まあ、メルマガの配信とかはもう、
ふつうにあるんですけど、
オバマさんのホームページに行くと
郵便番号の登録があるんです。
糸井 ええ。
冷泉 郵便番号を登録して以降、
そのオバマのホームページを訪れると、
「何月何日、
 あなたのお宅から何マイルのところで、
 ミニ集会が開催されます」とか
自動的に表示されたりするんですよね。
糸井 へぇー‥‥。
冷泉 あるいは、何月何日、どこどこで、あと3人、
ビラ撒きのボランティアを募ってます‥‥とか。
糸井 なるほど。
冷泉 実際には、その集会に行かないまでも、
なんとなく、
自分も一枚かんでるような気分に
させられちゃうんですよ。
糸井 テレビニュースか何かで見たんですけど、
マケイン陣営は
大口の献金が多かったのに対して、
オバマさんのほうは
数十ドル単位の小口献金が主だったって。
冷泉 はい。
糸井 大口の人たちの場合は
なかなか「もう一回」が難しいのに対して、
オバマの献金者たちは
もう一回、お願いしますっていうと
「はいはい、50ドル」って‥‥。

そのちいさな積み重ねが
ものすごい差になったって言ってました。
冷泉 おっしゃるとおりですね。
糸井 すごく、今の時代らしいなぁと思ったんです。

少ないエリートが大きな力を動かすんじゃなく、
アリが群がるみたいに、
入力も出力も、
ひとつひとつはちいさな単位のものが集まって、
大きな力を持つようになってる。
冷泉 なるほど、うん。
糸井 民主主義の本来的なかたちが
できあがりつつあるのかもしれないなぁって、
そんなことを、思いましたですね。

‥‥ええーと、もう4時ですか。
<つづきます>
2009-02-25-WED
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