社長に学べ!

女性は街へ出ていった

安森 たしかに、われわれ「男」が組み立ててきた
社会ってやつは、合理的で効率的ですよね。
糸井 反面「よけいなこと」がしづらい。
安森 でもね、会社の組織論的な話をすると、
「よけいなこと」のような、
緩衝地帯のような部門をつくっておいたほうが、
会社全体の効率は上がるんですよ。
糸井 へぇ‥‥合理的なだけでも、ダメなんだ。
安森

つまり、どういうことかというと、
「異質なもの」が混じり合っていたほうが
会社全体としては、うまく動く。

経験から言えますけれど、これは事実です。
糸井 どんな場面で、そう実感したんですか?
安森 少しずつ、会社がなんとかなってきて、
自分のペースでまわりが見れるようになるとね、
ちょっと言葉は悪いんだけど、
「組織としてのムダ、人としてのムダ」が、
やたらと、目についてくるんです。
糸井 あの部門は非効率的ではないか! ‥‥とか?
安森

でもね、そういう「ムダ」を排除しちゃうと‥‥。

つまり、緩衝材的なセクションや
人がいなくなっちゃうと、
社内がね、なんかギクシャクしちゃうんです。

そこで、『釣りバカ日誌』なんだよね。
糸井 ああ‥‥ハマちゃん。
安森

あれ見てるとさ、「ハマちゃん」ってのは、
直属の上司にとっては、ケムたい存在なわけ。

でも、それよりさらに上の役職から見ると
何やってんだか、わからないけど、
「いると、なんかうまくいきそうだな」って思える
存在なんだよね。
糸井 ぼくも、「あいつ、呼ぼうぜ」って
言われる人が理想だと、
よく言ってるんですけど‥‥ハマちゃんって、それだ。
安森

そうそう。それともうひとつ。

ロフトというお店を、ぼくは最初、
「金太郎あめ」みたいにしようと思ってたんです。
糸井 どこを切っても同じ店‥‥ってこと?
安森 どこに行っても同じ「売り場」、
どこに行っても同じ「サービス」、
どこに行っても同じ「人材」‥‥のお店。
糸井 そうなんですか。
安森 「チェーンオペレーション」とか
「科学的管理方法」とかっていってね、当時は。
糸井 もてはやされてたわけですね。
安森 でもね、曲がりなりにもロフトが回り出して
自分の手を離れてきたら‥‥まちがいだとわかった。
糸井 金太郎あめじゃなかったんですか。
安森

ぜんぜん、ちがってた。

少なくとも、お店っていうのは、
科学的に管理するマニュアルをつくったところで、
ポンポン増やせるものじゃないし、
ましてや、
うまくいくようなもんじゃないってわかった。
糸井 ‥‥なるほど。
安森 そのことをね、新宿三越のなかに出店した
ロフトで痛感するわけですよ。
糸井 ええ、あのお店のことは覚えてます。
安森 それに加えて、会社の社長というのは、
いいことのひとつやふたつ、
言わなきゃならんと思っているもんなんです。
糸井 つまり、株主にたいして。
安森

そう、経営のトップとしてね。

株主と約束した「数字」を
つくりださなければならないわけです、
どうにかして。
糸井 ええ、ええ。
安森 そうするとね、なんだかさ、
だんだん、おかしくなってくるんだよな‥‥。
糸井 わかる気がしますよ。
安森

そもそも、ぼくたちは、
何のために「小売り」をはじめたのか。

それはやっぱり
「お客さんをよろこばせるために」
だったはずなんですよ。

まちがっても、
なにかに都合のいい「数字をつくる」ために、
じゃないだろう‥‥って。
糸井 うん。
安森 そのころね、運よく‥‥といっていいのか、
ともかくも当社、
とてつもなく大幅に利益を割ってしまった。
糸井 ほう‥‥。
安森 それまで「20億円」の利益を出してたのが、
「7億円」にまで、落ちちゃったんです。
糸井 それは‥‥すごい。
安森

ちょっと前から危機感はあったんです。

既存店の売上は前年を割り込んでたけど、
その穴を、
辛うじて「新店の売上」がカバーしてた。

でもね、その、新宿三越に出したお店で
ドボーン‥‥とね。
糸井 ははあ‥‥。
安森 そのときに、
「もしかしたらオレ、
 やりかたをまちがえてたかも」って。
糸井 どのように?
安森 つまり、「いまの売り場」を大事にせず、
なんでオレは
新しいことばっかりやってんだ‥‥ってね。
糸井 なるほど。
安森

いまのお客さまを、もっと大事にしなきゃ。
もう一度、スタートラインに立とうと思ったんです。

今あるお店を、改めて見直そうって、ね。
糸井 三越の新宿店も、閉めたんですよね。
安森 そう、で、ちょっと話が遠回りしたんだけど、
そのときに痛感したのが、
組織を「金太郎あめ」にしてしまうと、
管理しやすい反面、
失敗の代償も大きいということなんです。
糸井 ああ、いっぺんに機能不全に陥るわけだ。
安森 そう、すべてが、ひとつの要因で。
糸井 そうか、そうか。
安森 ところが「金太郎あめ」的でない意見とか、
「ハマちゃん」的な人が混じると‥‥。
糸井 なるほど、「全滅しない」んだ。
安森 そう、どっかが生き延びる。
<続きます!>
2008-08-14-THU
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