PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙77 HIV4 感染経路その3

こんにちは。

HIVの感染経路についての話が続いていますが
今日はその3回目です。

3 お母さんから子供へ。

生後間もない頃から
よく風邪をこじらせる赤ちゃんがいました。

とてもひどい肺炎で
何度も入院を繰り返すので
特別な原因があるのではないかと疑われて
その子はいろいろな検査を受けました。

その結果、外から侵入してくる
感染の原因となる細菌やウイルスと戦う、
いわば体の兵隊のようなリンパ球が
その子は極端に少ないことがわかり、
また、その原因は
HIVであることがわかりました。

その子のお母さんも
妊娠中から体調を崩すことが多くて、
産後も病気がちでした。

子供の感染の原因は
恐らくお母さんだろう、と思われたので
お母さんの血液を調べました。

お母さんもHIV陽性でした。

お母さんにとって、HIV感染の可能性としては
お父さんしか考えられませんでした。

お父さんの血液も調べられ、
HIV陽性とわかりました。

この御夫婦は、
ごくごく普通の日本人の若いカップルです。
前回までの感染経路ので御紹介したような
HIV感染のリスクの高い行為があったわけでもなく、
ただ、お父さんの昔の恋人が早くに亡くなった、
ということだけしかわかっていません。

お母さんから子供へ
世代を超えた感染が起こりうるHIVは
その完全な治療法が確立していないことから
現在、世界規模の大問題となってきています。

前置きが長くなってしまいましたが
今日は、HIVがどうやって
お母さんから子供へうつるのか、ということについて
お伝えしようと思います。

お母さんがHIVに感染していても
その子供がすべて感染するというわけではなくて、
その可能性は調査によってばらつきはありますが
15%から35%くらいだろうと考えられています。

また、お母さんの体の中のHIVの量が多いほど
子供への感染の危険は高まる、と考えられていて
妊娠中もHIVの治療薬を飲みつづけることが大切です。

HIVがお母さんから子供に感染する機会は
大きく分けると3回あります。

まず、妊娠中。
これは胎盤から胎児へHIVが感染していきます。
この時期にお母さんのHIV感染が明らかであれば、
HIVの治療薬を続けることで
子供への感染の危険を
「ある程度」減らすことができる、ということが
多くの臨床研究で明らかになってきています。

次に、出産時。
赤ちゃんはお母さんの産道を通って生まれてくるので
このとき、HIVを含んだお母さんの血に
直接触れてしまいます。
ですから、HIVに感染しているお母さんは
子供への感染の可能性を少しでも減らすために
帝王切開が望ましい、と考えられています。

最後に、授乳。
おっぱいにもHIVは含まれています。
お母さんのおっぱいを飲みつづけることで、
子供はHIVに感染する危険があります。

お母さんがHIVの治療薬を飲んでいれば、
授乳による子供へのHIV感染を
防ぐことができるのか、ということについては
まだ、はっきりとした臨床研究結果は出ていません。

このため、HIV陽性のお母さん方には
できるだけ授乳をしないようにお願いしています。

国連の統計では
1999年に新たにHIVに感染した子供は
約62万人と推定されています。

HIVに感染した親から生まれた子供は、
その子が大きくなる前に
親が死んでしまうことが多いので
栄養や教育、経済的な面で
厳しい環境に置かれてしまいます。

さらに、その子自身もHIVに感染していれば
親と同じように
さまざまなHIVに関わる感染症を起こして、
若いうちに亡くなってしまうことが多いのです。

お母さんから子供へのHIVの感染は
感染者の多い国にとって
文字通り国の存亡の危機、となりかねません。

アメリカの小児科学会(American Academy of
Pediatrics)では
すべての妊婦に対して
HIV感染の危険性と治療の必要性について知ってもらい
HIV検査を受けてもらうよう、呼びかけていますし、
日本でも、最近は妊娠がわかった時点で
HIVの検査を勧めるところが多くなってきているようです。



というわけで、3回にわたって御紹介してきました、
HIV感染の経路についてはこれでおしまいです。

次回、何をお伝えするかについては
これから考えます。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-01-20-SAT

BACK
戻る