よりみち
パン!セ
中学生以上すべての人たちへ。
キミたちに、
伝えたいこと。




今日の、ひとことパン!セ

数学ができるようになるかどうかは,
あたりまえのことをバカにせず,
省略(しようりやく)せずに,
順番(じゆんばん)に書く練習ができるかどうか,
にかかっています。
そして,それは,
数学に限(かぎ)ったことではありません。
かっこいい判決文(はんけつぶん)を書く,
おいしいおせち料理をつくる,
イチローみたいな選手になる,
法隆寺(ほうりゆうじ)の五重塔(ごじゆうのとう)を建(た)てる,
映画(えいが)「となりのトトロ」を作るなど,
「意味あるほとんどすべてのこと」に共通(きようつう)する
基本的(きほんてき)な性質(せいしつ)です。

新井紀子『ハッピーになれる算数』より

新井紀子さんの話は、すごくわかりやすい。
だから、お会いすると、
頭も心もいつもきゅっとクリアになる。
「あたりまえのことをバカにせず、
 省略せずに、順番に」。
そう、数学にかぎらず、
これを守らなかったりするから、
なにごとも混乱するのだ。それなのに。
「『数学』と聞いただけで、
 つい視線が宙に泳ぐ……でしょ?」
この本のこの帯文は、最初から決めていた。
でも、「でしょ?」なんてだれに強要したかったのかな。
泳ぐのは私だ。そしてとなりにいる編集者の視線も
泳いでいる。泳ぐ人はきっとこの世にたくさんいて、
みんなが数学の話題を避けている。
電卓がありゃいいじゃん。
言いながらそんなことホントは思っていない。
なんでそんなになっちゃったのか。
新井先生ごめんなさい。
いつからか私は、
数学のことがイヤでイヤでしかたありませんでした。
数学系の男子(なんじゃそりゃ)は、
みんなかっこいい人ばかりなのに。
理数系の人とつきあったらどんなかなー
なんてことばっかり考えてました。
だからそっと、本を出そうと思っていたら、当然、
「あはは、なに言ってるの。まずここにある問題、
 解いて。中学の数学がわかってたら解けるから。
 プロセスもちゃんと見せてね」。
あとにひけません。ごまかせません。
だから解こうとしました。壊滅的でした。なにも書けない。
頭が真っ白。
中学生のときの自分を思い出しました。数学の授業。
板書の瞬間に、友人とくだらない手紙の交換してました。
でもって、お菓子も食べてました。
‥‥そんなんだから、解答を間違えるなんてものじゃない。
取り組むことすらできない。
数学はダメダメよ〜、と
思いすぎるあまり、目の前にあるものが
なにひとつ目に入ってこない。こりゃ、編集者交代だなー。
新井先生がいいました。
「ああ、あなたのような人に向けて書きますから。
 いいサンプルが近くにあってよかったわあ、
 なんて合理的!! だから最後までがんばってね〜」
そしてこの本ができました。この本は、
つい泳いでしまう、あなたのために、きっとあります。
そして少しだけ、身の回りの混乱も、
収まること請け合いです。
新井先生、ありがとうございます。

(編集担当 清水)





その4
できないことをするのはやめようと思っていたから。
糸井 「結局自分の書けることしか書けないから」
というところに行きついたとしても、
ぼくは、まだ怖いんです。
つまり「自分の書けること」は、
たかが知れていると思うから。
「ぼくは何者でもないんじゃないだろうか」
という気持ちが、強くあるんです。

清水さんは、たしか当時、
日本語について書けるかどうか、
訊きに来てくださったんですよね?
清水 そうでしたね。
糸井 じつは、ぼくはいままでに
「子ども相手に日本語を」という題目で、
仕事をしたことがあるんです。
それが、ちょっと
つらい経験だったんですよ(笑)。
清水 そのときに、糸井さんは
なにをなさったんですか?
糸井 日本語を扱うテーマでしたから、
詩を題材にしました。
詩というものは石ころを並べるようなものなので、
子どもたちに、実際に
石ころを並べさせることにしたんです。

でも、うまくいかなかった。
子どもにとっては、
石ころを並べることは
石ころを並べることにすぎなかった。

石ころにも「いい」「悪い」があるから
並べ替えたりするはずなんだけど、
そこからなにかを感じ取ることは
そうとうむずかしいことだったんですよね。
それをぼくは子どもにやらせてしまった。

逆にその企画のスタッフは、
何を意図してどう手ごたえがあったかを
いちいち言葉にして訊きたがるから
困りました。
終わってから何日もつらかった。
清水 はははは。
いや、せつないお話ですね。
糸井 そんな経験があって、
できないことをするのは、もうやめようと思った。
そんなタイミングに、清水さんが
このシリーズを発明したんです。
清水 発明したわけじゃないですけど、
なるほど(笑)。
ちょうどそういうときだったんですね。
糸井 ちょうど、悪く、ね。
この「よりみちパン!セ」に
著者として関わるには、
一年かけたら答えが出るのかもしれない、
とも思ったし、
ほかの仕事をいっさいしないで
取り組んだらどうかな、とさえ思いました。
やりたかったんだよね、きっと。
でも、それでも無理だと思いました。
そのくらい、すごいシリーズなんですよ、これは。

(ふたりのはなしは、つづきます)

2006-01-17-TUE




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