原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第6回 お金に対する主観と客観
糸井 これまで原田さんが話してきた
イベントだったり、
マネジメントだったり商品の話って
全部お金がからむことですよね。
原田さんって絶えずお金の海の中にいる、
そういう存在だと思うんです。
原田 えぇ。
だからお金のことっていうのは
つねに考えてきたつもりです。
その例として、僕はマクドナルドに入ってきて、
最初にやったことが
営業の報酬システムを導入することだったんですね。
売った人、売らなかった人で
ちゃんとインセンティブがつくようなシステムを
社内に確立したんです。
糸井 はい。
原田 それで社長賞みたいなものがあって
金一封が入った封筒を配ったりするんですよ。
ふつうの会社だったらその封筒には
会社名だとか社長の名前が入っているんだろうけど
うちはそうじゃないんです。
糸井 なんて書いてあるんです?
原田 「お客様」って書いてあるんです。
「誰がそのお金をくれたのか?
 社長じゃないよ、お客様だよ」
そこをきちんと認識させることを
まず最初に社員へのメッセージにしましたね。
糸井 それはもう、お金をどう考えるか、ということに
モロに直結してますよね。
原田 えぇ、そうなんです。
もうひとつ徹底してやったのが、
お金の使いかたと使い道。

やはりヒト、モノ、カネという3つの経営資源を
どういうふうに配分していくかにかかっている。
新たに生まれるキャッシュフローを
より大きくするために配分することこそ
経営だと思います。
糸井 なるほど。
原田 ただ、そこでちょっと特殊なのは、
マクドナルドの場合、商品によって、
通常とはまったく違うお金の使い方を
考えなければいけないんですよ。
糸井 ほぅ。
原田 単純なところで言うとふつうは
キャッシュフローを大きくするために
「広告宣伝費」というお金を商品に使います。
でも、世の中には広告宣伝費がゼロでも
キャッシュフローを
ずっと大きくしていける商品があるんです。
糸井 何も言わずに売れている商品ですね。
マクドナルドだと……なんだろう。
原田 ビッグマック※1なんです。

※1 言わずとしれたマクドナルドの看板メニュー。
バンズ(パン)は3層、パテ(ハンバーグ)は2枚。
味の決め手は秘伝の「ビッグマックソース」。

糸井 ビッグマックってそういう商品なんだ!
原田 そうです。
永遠に売れていて、
それでいて広告宣伝費ゼロですから。
糸井 それはスゴイ商品ですよね。
原田 えぇ、うちで一番の親孝行です。
こういう商品をキャッシュ・カウと言います。
糸井 キャッシュ・カウ……。
牛ですか?
原田 お金を生み出す牛です。
このキャッシュ・カウを軸に
どういうお金を使うか考えないといけないんです。
このキャッシュ・カウのような商品を
ほかにも作るのか?
それとも、いまのキャッシュ・カウを
もっとお金を産む牛に育てるのか?
お金の使い道と優先順位が大事なんです。
糸井 なるほどー。
親孝行な牛は大事にもされる(笑)。
原田 そうですそうです。
100円マックシリーズ※2
メイドフォーユー※3もすべては
キャッシュ・カウである
ビッグマックに集約するようにした
考えかたなんです。

※2 100円で購入できる商品。
オーソドックスなハンバーガーや
ホットアップルパイなど
単品のメニューが数種類揃っている。

※3 注文を受けてから調理するシステム。
無駄を省き、出来たての商品を提供できる。

糸井 原田さんがいま挙げてくれた例って
会社が使うお金、いわば
すごく大きなお金の話ですよね。
いっぽうで、
お客さんが払ってくれるのは小さなお金。
でも、どっちも大事なお金じゃないですか。
原田さんの中で小さいお金と大きいお金、
意識すべき種類のお金がふたつありますよね?
原田 もちろんです。
糸井さんにお越しいただいた
横浜でのイベントで私のプレゼンテーションは
「1年間のお客様の数は15億人。
 その15億人のお客様からあと1円いただいたら
 15億円利益は上がる」というものでした。
糸井 はい。
原田 その続きはこうです。
「そのかわり1円をうっかりすると、
 15億円失ってしまう。
 その1円の大切さをよく考える必要がある」と。
糸井 たしかにそのとおりですね。
原田 でもそのいっぽうで
「スプーンを使って風呂桶をいっぱいにするような
 チマチマしたこと考えるな。
 でかいことやれ」というスケールの話をしたり。
糸井 やっぱり大きいお金と小さいお金、
その両方が原田さんの中に混在してますね。
原田 お金って大きい小さいに限らず、
どちらも大事なんです。
糸井 もうひとつ言うと、お金って
客観性と主観性の両方が混じってきますよね。
自分が10000円落としたら
「10000円落とした!」って大騒ぎする。
でも、誰かが10000円落としても
大変だとは思うけど
自分のときほどの感情はわかないですよ。
いちいちそこに感情をわかしてたら
5000億円の話なんてできないですもん。
原田 やっぱり自分のお金と
会社のお金の差って大きいですよ。
だって、うちの人間もちょっとしたイベントやると
「数千万円かかります」って言うわけです。
糸井 しかも平気な顔して、ね。
原田 そうそう。
平気で数千万円とか言う。
数千万って家一軒ですよ。
商品ひとつの数時間の発表会に数千万かい、と。
自分だったら数千万つかうなんて
とんでもなく真剣に考えることでしょ?
だから、僕は会社のお金にしても
主観的な視点で使わないといけないんじゃないかな、
って思います。
糸井 悪い例を挙げると
アメリカの強欲な経営者たちが1000億単位のお金を
上のほうの人間で山分けしよう、
みたいなことをやる。
あれって、会社のお金を
自分のお金だと思っている人がやることですよね。
原田 上場が目的のベンチャー企業とかですよね。
投資してもらって株価を上げて、
その瞬間に売り抜けてしまったり……。
それは、ひどい話だと思います。
だから僕は
「商売っていうのは価値を創出して
 それをお客様に提言して
 買っていただくことで対価を得る。
 価値と対価、この循環しかない」って
社員にずっと言ってるんです。
糸井 うん、そうだと思います。
原田 だから
「価値を上げずに値上げをしちゃいけない。
 値を上げるなら価値も上げろ」という意識で
ずっとやってきてます。
価値を上げるための投資、
これがいちばん大事なんです。

(つづきます)

2010-08-23-MON

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