『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
第3回 男は「泣き声」に決着させる?
糸井 脚本は「あて書き」ですよね、当然。
※あて書き=演じる役者の特性を想定して脚本を書くこと
西川 ぜんぜん違うんです。
糸井 違うんですか?
それはまた、すごい(笑)。
西川 伊野の役は、標準語でセリフを書いてましたし。
「あて書き」というのを
そもそもあんまりやらないんですよ。
糸井 そうだったんですかぁ。
西川 最初は40代前半くらいの設定で書いてたんです。
まだ人生に迷いがあって、
あともう一回、軌道修正できるんじゃないか
っていうような年齢の男性で書いてたんですよ。
標準語で書いてますから、
当然、鶴瓶さんのことは浮かばないんです。
で、誰にやってもらおうかと、
もう本当に、困って困って、困り果てたうえで
出されたキャスティングが‥‥
糸井 鶴瓶さん。

(C)2009『Dear Doctor』製作委員会
西川 そうですね。
糸井 鶴瓶さんとは『スジナシ』っていう
テレビの番組ですこしお付き合いを
深めた覚えがあるんですけど、
あの人の芝居っていつでも、こう、
「悲しく悲しく」持ってくんですよね。
西川 『スジナシ』を見ていると、そうですね。
糸井 そうなんですよ。
で、鼻にかかった泣き声になって
盛り上げを作るんですよ。
西川 まったくそのとおり。
もう浮かびますもん、その芝居が今。
糸井 「こんなことになってもうて
 俺かて困っとるやないか、解決できへんし」
っていう状況に持ってって、
相手によって、そこから変わっていくんですよ。
西川 うん、うん、うん。
糸井 だから、困ったら、泣き声になる。
西川 (笑)
糸井 いつもそうなんです。
西川 本当そうですね、言われてみれば(笑)。
糸井 いっつも、そう。
西川 確かに(笑)。
なんか、ものすごく困ってますよね、いつも。
糸井 困ってます。
それが鶴瓶さんにとっては
いちばん安心できる場所なんでしょうね。
西川 はい、はい。
糸井 ぼくはそういう鶴瓶さんを見てたものだから、
「ずるいよ」っていうか、
「もうひとつメニュー出してよ」
という気持ちがずっとあったんです。
つまり、(明石家)さんまさんの要素だって
出せるはずなんで。
西川 あー、そうですよね。
糸井 「悪いやつだ」と思われるくらいの
明るいやつ、みたいな。
それはぜったいにできるはずなのに。
西川 はい。
糸井 実際、世間話のときにはやってるんですよ。
子どもの頃こんなに悪かった、みたいな話は。
西川 そうなんだ(笑)。
糸井 「こいつ悪いな」ってところを持っているのに、
大勢の視線がワーッと注がれると、
かならず「悲しいところ」に行っちゃう。
「そんなんいうたかて、
 しょうがないやないですかぁ」って。
西川 (笑)
糸井 これは鶴瓶さん批判じゃなくてね(笑)。
実は、男はみんな、
そういうところがあるんですよ。
「泣き声に決着させる」というのは、
男のひとつのパターンなんです。
西川 ‥‥おもしろいですねえ。
それ、ご本人に言われたことあるんですか。
糸井 ないです。
そんな話をする
タイミングないじゃないですか(笑)。
西川 そのままお伝えしてもいいですか、今度。
糸井 はい。
もうね、楽屋とかでは、
しょうもないエロの話をしてるのに。
西川 喜々としてますよね、そういうときは(笑)。
糸井 もうね‥‥もう、バカ(笑)。
西川 (笑)
糸井 そう。
だから、そういう悪いところと、
あの悲しそうなところが両方、
この映画の役では、出てますよね。
だからすばらしいんです。
西川 ありがとうございます。
糸井 この、伊野っていう男は、
大きな嘘をついているから、
告白をしょっちゅうしたがるじゃないですか。
西川 そう。
告白のタイミングを失っている男の話です。
糸井 鶴瓶さんだよねえ(笑)。
西川 そうやって考えると、おもしろいですね。
どこまでもオープンな感じじゃないですか、
鶴瓶さんって。
糸井 うん、そうですね。
西川 いったいどこまでつっこめば
閉じるのかっていう、
人の挑戦をどこまでも受けて立って、
どんどん開いていくんだけど、
最後の1枚だけは、
どこに扉があるのかわからないままに
終わるっていう‥‥
そういうタイプの人ですよね。
糸井 ああ、それは‥‥
自分もちょっと、そういうところがあるのかも。
西川 あ、そうなんですか。
糸井 いわば「人生の陽動作戦」みたいな(笑)。
西川 陽動作戦ですか(笑)。
糸井 どんどん自分を開いて見せてね、
「だいたい脱ぎましたから」って(笑)。
西川 (笑)
糸井 「でも、よく見たら、
 なんかちっちゃいの着てるじゃん」って。
西川 それです(笑)。
糸井 「あ、気がついた?」っていう。
でも、西川さんも小説書いたりなさってるし、
映画もそうだけど、
「作者」をやってるときって、
みんなそうですよね、だいたいが。
最後の扉を開けないでしょ?
鶴瓶さんのことをいろいろ言えないんです。
西川 まあ‥‥そうですねえ、確かに。

(つづきます)

2009-09-03-THU


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