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第7回 足りなかったらそのときにつくろう。

岩田 今回、宮本さんは『ピクミン3』を
「構造がすっきりしている」と表現しましたけど、
そこに至るまでの過程には
どんなことがあったんでしょうか。
宮本 あの、このゲームって、
「こういうことをやってみたら
 おもしろくなるかどうか、
 ちょっと試してみたい」ということが多くて、
それを試してみたらおもしろかった、
ということからはじまって、
また、つぎの要素と組み合わせたらどうなるか?
というような積み重ねでできているんですよ。
糸井 つまり、「試してみる」の積み重ね。
宮本 はい。
やっぱり、いろんな条件で
ものが組み上がっていくと、
あることの結果が、どう有機的に組み合わさるかって
予想がつかないですよね。
そういう「おもしろいかどうかわからない」ことを
つくって確認する。
ぼくは「実験」って呼んでて、
それを試すことを推奨してます。
糸井 それは、実際に、つくりかけのゲームのなかに
ゲームの仕様として入れてみるような
試し方なんですか?
宮本 ええ、最初の基本構造は、
ちょっとまとめてつくってみたし、
そのあとはそうやって試してたんです。
で、それをくり返すなかで、
予想していた以上のおもしろさが生まれたら
すごくうれしいわけですよ。
そういった実験とか挑戦が
『ピクミン3』ではうまくできたような気がします。
ふつうは、準備した材料が多すぎて、
こんなにきちんと試しきれないんですよ。
複雑すぎて、試したけれど、
結果がよくわからない、となることが多くて。
糸井 ああ、なるほど。
宮本 つくっててもできあがらないゲームって、
だいたい、そういうところで迷走してるんです。
アイディア出して、スケッチ描いて、
どんどん材料が増えていって、
「どうなるのか?」「おもしろいのか?」
ということがよくわからなくなっていく。
糸井 うん、うん。
宮本 ふだん、そういう状態になると
ぼくはディレクターに
「一回、ゲームの全体図を描いて、
 準備したネタをそこにぜんぶ貼ってみたら」
って言うんですよ。
たとえば『マリオ』なら、4×8のコースを描いて、
準備したネタをカードに書いて、
そこに貼っていってみ、と。
そうすると、余ってくるんですよ、カードが。
糸井 ああー。
宮本 で、「ほらね」って。
「過剰でしょ?」っていうことになる。
やっぱり、心配なので、つくるほうは
いっぱい考えてしまうんですよ。
でも、アイディアとスケッチを増やすだけだと、
おもしろいかどうかがどんどんわからなくなるんです。
わからないと、またカードを増やす‥‥。
糸井 それでカードがさらに余っちゃうんだね。
でも、岩田さんみたいな人がいるとさ、
余らせないで、なんとか貼っちゃったりするよね。
宮本 そう(笑)。
岩田 (笑)
宮本 まぁ、でも、だいたいの感じでいうと、
3割余るくらいがちょうどいいんです。
糸井 全体図にアイディアのカードを貼っていって、
準備したものの3割が余るくらい。
宮本 根拠はないけど、そのくらいです。
隙間を詰めたら、もっと入るかもな、
っていうくらいがいいんですけど、
たいがいは、もう、倍ぐらいカードを準備したりする。
『ピクミン3』の場合は
それを最小限で抑えながらいろいろ試してみる、
ということができたような気がします。
糸井 アイディアを「最小限で抑える」っていうのは
どういうことですか。
宮本 たとえば、『ピクミン』の新作をつくるってなったら、
新しい敵生物って、ほしいですよね?
糸井 出てきてほしいですね。
宮本 新しいゲームですから、当然、ほしいですよね。
でも、前に出てきた敵にも出てほしい。
すると、『ピクミン』の新作の、
全体の敵の数っていうのは、
前の敵と新しい敵を足した数になりますよね。
その総数がどのくらいになればいいのか、
っていうのは、ぼくにもわからない。
だから「あんまりつくるなよ」って言うんです。
前に出てきた敵も、新しい敵も、
出てくる以上は1ヵ所に出るだけじゃなくて、
いくつかの場所に応用したい。
そうすると、新旧の敵の組み合わせが
あちこちでどんどん起こってくるので、
ゲームがどんどん膨大になっていく。
昔のゲームにくらべたら、
簡単に倍くらいになってしまう。
糸井 うーん、そうですねぇ。
宮本 だから、『ピクミン3』は、印象でいうと、
「足りなかったらつくろう」
ぐらいのペースでつくっていったんです。
糸井 はーー、その考えはいいねぇ。
「足りなかったら、つくればいい」。
宮本 そういう考えが、比較的、
今回のチームのなかに浸透してて。
だから、これからネットをつかって
あたらしいミッションやマップを
少しずつ足していこうかと思ってます。
糸井 「足りなかったらそのときにつくろう」っていうのと
「たっぷり用意しておいたから、
 これをつかってつくっていこう」っていうのでは、
自由にやるか、型にはめるか、っていう意味で
大きな違いがありますよね。
宮本 ぜんぜん違います。
糸井 ぜんぜん違いますよね。
宮本 会社の組織とかもちょっと似たところがあって。
糸井 ああ、そうだそうだ。
宮本 あとから「もうちょっとほしい」って言うのは
ちょっとした禁句みたいになっていて、
「必要になるなら最初に言っとけ」
っていう仕組みなんですよね、
いまの一般的な会社の組織自体が。
糸井 その通りですね。
岩田 組織の運営自体が、最初に予算をもらって、
その予算で計画を立てて、
その範囲内でやりなさい、っていう。
宮本 そうそうそう(笑)。
岩田 まぁ、ふつうはそうなりますよね。
任天堂は、必要に応じて、いろいろ対応しますけど。
糸井 やっぱり、ほんとは、通ってきた道筋によって、
文脈みたいなものができて、
その文脈にあるからこそ、
なにかが必要になったり
要らなくなったりするんだよね。
ところが「最初に構造図を出せ」って言われたら
最初にぜんぶ見越して用意しなきゃいけない。
それはやっぱり無理があるよ。
しかも、最初に準備する構造図の最後には
「必ず大当たりします」って書かなきゃいけない。
宮本 そう。
糸井 そんなことできるわけないよね。
宮本 で、大当たりするためには
「これも要りますよね?」っていう感じで
どんどん材料を準備することになる。
糸井 そうなると最初にたくさん用意しますよね。
宮本 ええ。これなかったらさみしいでしょ、って、
みんながいろいろ持ち寄ってくるわけで。
そうすると複雑になるし、骨組みは見えなくなるし、
もう、室町時代の人には、
おもしろさがわからなくなるっていう(笑)。
糸井 そうですよね。
逆に、動きのなかで、考えているうちに
必要になってくるものっていうのは、
認められづらいというか。
宮本 そうですね。
途中で新しく材料が必要になったりすると、
だいたい「ずさんだ」とか言われて。
糸井 そうそうそう(笑)。
(続きます)
2013-07-23-TUE