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ほぼにちわ、シェフです。
和菓子の虎屋さんがギャラリーを持っているなんて
ご存知でしたか? ぼくは知りませんでした。

ある日のこと、虎屋で「虎屋文庫」という
研究機関の、研究主査をなさっているという
今村規子さんから、「ほぼ日」宛てにメールをもらいました。
なになに、虎屋本店には
「虎屋ギャラリー」というものがあって、
「ほぼ日」のみなさんはどうも和菓子が好きらしいので、
ぜひいちど、遊びにいらっしゃいませんか‥‥と。
行きます行きます、和菓子大好き!
青山から赤坂はわりと近くだし
(青山通りを散歩がてらまっすぐ行けば着いちゃう)、
いちど、覗かせてもらおう! ということで
さっそくこのギャラリーに、遊びに行ってまいりました!



虎屋さんは、室町時代後期に創業したという
老舗の和菓子店です。創業480年。ものすごいことです。
和菓子の世界でゆるぎないブランドを確立した名店、
と言ってもいいかもしれません。
ここの羊羹や最中は、言わずと知れたご進物の一級品。
虎の絵の書かれた紙ぶくろは、
それだけでなんだか「ありがたい!」くらいです。

虎屋さんというのは、もともとは京都にあり、
後陽成天皇の在位中(1586〜1611)に
朝廷にお菓子を納めはじめたそうです。
参勤交代で京都に立ち寄る大名も
ここのお菓子を地元に持ち帰ったと言われています。
そして明治になって東京遷都とともに東京にも出店、
いまはパリにも進出しているほか、
六本木ヒルズや表参道ヒルズにカフェをだすなど
精力的な活動をなさっています。
(ちなみに「虎屋」というだけあり
 虎の保護活動もしているそうです。)

そんな歴史を持つ虎屋さんには
昭和48年に創立された
「虎屋文庫」という研究機関があります。
7人のスタッフがいて、
虎屋歴代の古文書や古器物を収集するほか、
和菓子に関する資料を集めたり調査したりしています。
その成果を展示するのが「虎屋ギャラリー」。
和菓子の楽しく奥深い世界を知ってほしいと、
年に2回の企画展示を行なっている、
というわけなのでした。



「虎屋ギャラリー」の入り口は、
赤坂の本店ビル、お店の右側にありました。
うわぁ、いままで、前を通っても、
気付かなかったなあ‥‥。
いまは「和菓子百珍展」という
展示会をやっているところです。



 さぁさぁ皆様お立会い。
 文豪・森鴎外の好物「饅頭茶漬け」に、
 あざらし形の落雁、
 笑顔であられを投げ合う行事を
 とくとご覧あれ。
 鰻の蒲焼そっくりの「かばやき餅」や、
 「ゴルフ最中」誕生秘話など、
 一風変わった菓子やエピソード満載の
 おかしな展示会、賑々しく開幕!

ということで、つまりは
「いろいろ“珍”な和菓子」を集めてみよう、
という展示会です。
さて、今村さんの案内で、
「ほぼ日」紙上で一部分再現をしてみましょう!


▲飴売渦松(あめうりうずまつ)
 文久元年(1861)一英斎芳艶画


まずは入り口でこんな看板に出迎えられました。
これ、江戸期の飴売りの様子だそうですが、
やけに色男だなあと思ったら、
「飴売りに扮した市村羽左衛門」だそうで、
つまりは歌舞伎役者を描いた錦絵なんですね。
着物の渦が飴売りのトレードマークだったようで、
三味線をひくと鐘を鳴らす人形で
客引きをするすがた、だそうです。
飴ひとつでも、江戸時代はこんなふうに
たのしく売られていたんだそうです。


▲江戸期の饅頭屋の看板

饅頭屋がなぜ馬なのかと思ったら、
ただのだじゃれだそうです。
つまり「あら、うまし!(美味し)」。
うそみたいだけど、ほんとうらしいです。


▲饅頭卵

展示会のタイトルになっている「百珍」というのは
江戸期に流行した料理本のシリーズ名。
ひとつの食材について百種類の調理法を紹介する、
という、コンセプトが先にある本だそうで、
それだけに「そりゃ無理!」っていうような
珍品も混じるとか。
この「饅頭卵」も、ゆで卵の黄身を外して
あんこをつめて、あらビックリ! というお菓子。
おいしいのかどうかはどうやら二の次だったみたいです。


▲鯨餅

これは鯨の皮に見立てた餅だそうで
虎屋の古文書『御菓子之畫圖』(1707)を
ひもといてつくってみたということでした。
あ、こういう見本は、虎屋の職人さんが
じっさいにつくった、本物を展示しています。

ところでそういう古文書や記録ですが、
第2次世界大戦で、
東京が空襲で焼け野原になったときも、
奇跡的に焼け残ったものだそうです。
こういうことから
「虎屋には、火伏の神様がついている」
って言われているらしいです。


▲お節料理を見立てた菓子


▲春の詠(ながめ)=巻きずし形の餅菓子

これらはいずれも「見立ての菓子」と呼ばれるもの。
大正期の文献『数物御菓子見本帖』などに
掲載されているものだということです。


▲かばやき餅

こちらは文政2年(1819)の
『嵯峨霊仏開帳志』(名古屋市博物館蔵)に見られるもので、
名古屋の西蓮寺で売られたときには
蒲焼屋にそっくりの店をつくって売られたんだそうです。
やるな、江戸期の人!

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▲あざらしの落雁

こちらも名古屋です。天保4年(1833)に名古屋で
あざらしが捕獲され、見せ物になったことがあり、
見物人相手のおみやげとしてつくられたのがあざらし落雁。
『名陽見聞図会』(財団法人東洋文庫蔵)の絵をもとに
現代の職人さんが木型を起こして
つくってみたのだそうですよ。
小指の先くらいのかわいいものです。
こういう「あてこんだ」商売って
昔っから、あったんですねー。


▲浜つと

「浜からの土産」という意味の和菓子で、
虎屋の大正期の文献からつくったそうです。
蛤の殻に、琥珀羹(寒天菓子)が盛られ、
そのなかに羽根を膨らませたスズメ(脹雀)が
封じ込められています。
「雀、海中に入りて蛤となる」という俗信を
かたちにしたもの。
ううむ、たしかに“珍”なる菓子ですね。
こういうの考えてつくるのって、
さぞや楽しい仕事だったんだろうなあと想像します。


▲ホールインワン(ゴルフ最中)

ゴルフボール形の最中です。
これ、じつは、いまも虎屋で売られているのです。
大正期に、三菱財閥の総帥の岩崎小弥太の夫人が
パーティーのお土産として虎屋に依頼したのがはじまり。
当時はゴルフは上流階級のものであり、
ボール自体も非常に高価だったために、
みんな「わあっ!」と一瞬喜び、
あとで「ほんものじゃないんだ」とガッカリしながらも
たのしいお土産になったということでした。
(あとで買って食べてみました。すごくおいしかったです。)


▲犬の子(いんのこ)大本山總持寺祖院提供

これは、2〜3月に開かれるお寺の「涅槃会」という行事で
撒かれる「犬の子」という、どうぶつ形のお菓子です。
家の新築のときに屋根からお餅を撒いたり、
節分のときの豆まきなど、
「たべものを撒く」という行事は、
いまの日本にも残っていますが、
こんなふうに手づくりの凝った形の
お菓子を撒くところもあるんですねー。


▲牛の舌餅

『紀伊国名所図会』に見られる、蛭子神社のお祭り。
屋根の上から巨大な餅、その名も牛の舌餅を投げ、
下で待ちかまえる人々がそれを奪いあう、
というものだとか。
それを実物大で再現(ただし、餅は布製)した
コーナーでした。


▲饅頭茶漬け

これが森鴎外が好んで食べたという饅頭茶漬け。
葬式饅頭の4分の1を、ゴハンにのっけて、
煎茶をかけたもの‥‥だそうです。
一瞬「げっ」と思っちゃったんですが、
考えてみたら牡丹餅(おはぎ)は、
糯米にあんこですよね。
ぜんざいやお汁粉は、あんこが熱いですよね。
そして甘いものには、煎茶はよく合いますよね。
ならば、これも、あんがい大丈夫かも‥‥?
虎屋文庫の今村さんによれば
「あっさりしていて、あんがいいけます」。
はい、こんどこういう饅頭を手に入れたら、
森鴎外をしのんで、やってみたいと思いました。

さてさて、「せまいんですけれど」と
今村さんはおっしゃいますけれど、
虎屋ギャラリー、たしかにちいさなスペースながら、
見るものはいっぱいあるのです。
上で紹介したのは、これでも今回の展示の、
たぶん3分の1くらい。
ということで、「虎屋ギャラリー」、
機会があったら、ぜひ遊びにいってみてくださいね。
もちろん帰りにはビルの地下にある
「虎屋菓寮」でお茶と和菓子をいただいて
(夏はかき氷とかもあります)、
羊羹や最中をおみやげに買って帰るといいと思いますよー。

虎屋文庫の研究主査・今村規子さん、
虎屋のみなさま、どうもありがとうございました!
ぜひまたなにか一緒におもしろいことをいたしましょう。

(レポート:シェフ&モギコ)

虎屋文庫
〒107-8401
東京都港区赤坂4-9-22
電話:03-3408-2402(平日9:00〜17:30)
FAX:03-3408-4561
地下鉄赤坂見附駅A出口より徒歩約7分

【第68回 「和菓子百珍」展 その2】
2007年5月18日〜6月17日
10:00〜17:30
入場無料・会期中無休

とらや赤坂本店
電話:03-3408-4121
FAX:03-3401-6694
平日8:30〜20:00
土曜・日曜・祝日8:30〜18:00
年中無休

虎屋菓寮
平日11:00 〜19:00(オーダーストップ18:30)
土・日・祝日11:00 〜17:30(オーダーストップ17:00)
 
2007-05-31-THU
 
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