第2回 悪い奴じゃなさそうだから。

みうら
糸井さんがカセットを聞いてくれた日から
ぼくは、呼ばれてもいないのに、
とりあえず大学終わったらスーッと‥‥
糸井
毎日、事務所に来たよね。
みうら
社員のようにして、フツーにいました。
石井から
「どうやら俺、会社のトイレ流し忘れたから
 みうら、悪いけど流してきて」
と言われて、
代理で原宿の事務所まで流しに行ったこともあります。
糸井
あいつ、何回か流し忘れてるんだよね。
みうら
「糸井さんに見られるのが嫌だから」
という理由でしたね。
糸井
まぁ、ほかの社員もいたから、
その人に見られるのも嫌だったんだろうね。
固有名詞のついた「あれ」ほど
嫌なものはないから。
みうら
友達のぼくがやる仕事だと思って(笑)。
糸井
でも、みうらはそのころ、一応
就職活動もしてましたよね。
みうら
はい、してました。
糸井
キャラクターであてようと思って、
サンリオを受けたりしてたよ。
みうら
はい、サンリオのパンフレットを見ていたら、
あの会社のデザイナーはみんな
キノコの形の部屋の中でデザインしていたんです。
メルヘンいっぱいの部屋で、ヒゲ面の人が
デザインしてる写真が載ってて、
あ、これはどうかしてる、
ぼくに向いてるんじゃないかな! と思って
受けにいったんです。

当時、ぼくは『ガロ』に牛の漫画を描いていました。
「これからサンリオに望むことは?」
と面接で訊かれたので
「牛グッズを出したいと思ってます」
と答えたら、
「あ、それは自分でやってください」
とあっさり言われて、それで‥‥
糸井
落ちた。
みうら
ええ、もちろん落ちました。
糸井
ほかには受けなかった?
みうら
シンコーミュージックを受けました。
シンコーミュージックは、
「ミュージック・ライフ」というロック雑誌を
発行していたので、
雑誌をタダでもらえるんじゃないかな!
と思って、入りたかったんです。
ところが面接で、
ちょうどシンコーミュージックが
ヘビーメタルのファッション店をやろうとしている、
という話をされました。
「髪も長いし、どうですか」
と誘われて、さすがにそっちはちょっと‥‥。
糸井
ヘビメタじゃないから。
みうら
そうですね。
ぼくはハードロックのほうでしたから。
糸井
でも、もしそのときショップ店員になってたら、
なんだかぜんぜん違うところからさ、つまり、
急に「ゆず」みたいな、
えらいたいへんな、いいことになったかもしれないよ?
みうら
そうですか?
やればよかったですかね?
糸井
うん。
みうらがゆずだったら、と思ったら、
俺もなんか、鼻が高いよ。
みうら
(笑)
糸井
でも、そしたら、
うちへは来ないか。
みうら
そうなんです。
ヘビメタのカッコっていうのもね(笑)。
糸井
結局は、何もできない奴が
うちへ来るんですよ。
みうら
ええ、そうだと思います。
ぼくがそうでしたから。
糸井
何かを懸命にやるのは嫌い、
何かできたとしても、
「うん、やってたんですけどね」という程度。
そういう人がぼくを見て、
「それでもなんとかなるんだろうな」
と思う。
みうら
はい、そう思ったんですよ。
すごくそう思ったんです。
糸井さん、背も高いし(笑)。
糸井
背は関係ないだろう。
みうら
ぼく、糸井さんが
背が高いのが意外だったんですね。
糸井
それは人からよく言われるよ。
みうら
だけどある日、事務所からみんなで
外に出たとき、
糸井さんだけ頭がいっこ、出てたんですね。
「あ、すごい」
「ついていける!」
と思った。
迷っても見えるから、ついていける。
糸井
旗の代わりに(笑)。
みうら
でも、社員でもないし、
ついていきようもありませんでしたけどね。
糸井
でも、みうらはすでに漫画は描いてたかな?
みうら
はい、描いてました。
「ガロ」に持ち込みを1年以上してた頃でした。
で、ついに掲載してくれるって
当時の編集長の渡辺和博さんに
おっしゃっていただいたんですが。

ぼくはそれをすごく楽しみにしてて、
「次の号に載るよ!」
って、オカンや友達みんなに言ったのに、
載ってなかったんです。
みんなに「載ってないじゃん」って言われて
すごく悔しかった。
で、翌朝いちばんでガロ編集部に行って
「載ってない!」ってカンカンに怒りました。
糸井
それは、1億人が言えるじゃん。
みうら
(笑)。1億人が認めるほど
載ってないですからね(笑)、
そしたら、編集長の渡辺さんが
「じゃああなた、自費出版でもすれば?」
とおっしゃいました。
チラッと見たら、ぼくの漫画に
すでに写植が貼ってありました。
ほかの作家さんのページ数が
多くなってしまったとかで、ぼくの漫画は
次号に回そうということになっていたらしいんです。
「でも、自分で本出せば?」
そう言われて、
もう後に退けなくなって‥‥その足で
糸井さんとこに持っていったんです。
糸井
ああ‥‥そうだったね。
みうら
そしたら、糸井さんは
その場で渡辺さんに電話してくれた。
「俺の知ってる奴なんだよ。
 漫画はつまんないけど、
 悪い奴じゃなさそうだから、載せてやれば?」
そのひと言でぼくはデビューしたんです。
糸井
昭和って、なんていいかげんな時代だろう。
みうら
ぼくはそのとき、
コネ使うことを覚えたんです(笑)。