かつての日本は、繊維産業が盛んでした。
たとえば生糸(絹)は明治42年に、
綿織物は昭和9年に、それぞれ
世界一の輸出量を誇っていました。
日本の高い技術によってつくられた
高品質の繊維製品が、
それぞれの時代に、いろいろな国で、
高く評価されてきたのです。
残念ながら、令和のいま、
日本の繊維産業は
世界のトップランナーではありません。
けれども、技術は残っているんです、あちこちに。
そして、おおぜいいるんです、
往時のすばらしい技術を継承しようという
情熱をもった人が、いろいろな産地に。
このプロジェクトでは、
そんな日本各地の産地と人を追いかけて
紹介をするとともに、
いっしょに「あたらしい繊維製品」をつくることを
目的としています。
このプロジェクトがはじまったきっかけとこれから、
そして日本の繊維の産地への思いの丈を、
「ほぼ日」の“布好き”な
「/縫う/織る/編む/」プロジェクトチームが、
ぞんぶんに語りました。
参加者プロフィール
金子 縫
金子 縫
2021年から「ほぼ日」の商品事業部で
「〈O2〉」「つきのみせ」
「marikomikuni」など
アパレルの企画・生産管理を担当。
初就職からずっとアパレル一筋20年、
「ほぼ日」に来る前はセレクトショップの会社で
下着やルームウェアの
商品計画などを担当していたこともあり、
このプロジェクトの中心人物ながら、
「コンテンツをつくる仕事」は、ほぼ、はじめて。
名前の「縫」(ぬい)は本名、
好きなものは裁縫、布、服地と断言。
スターウォーズも好き。
渡辺 やえ
渡辺 やえ
「ほぼ日」古株乗組員。2005年入社。
商品事業部に籍を置き、
「ほぼ日手帳」や「やさしいタオル」
「BIWACOTTON」などの工業製品系から、
「アトリエシムラ」「うちの土鍋の宇宙。」
「MITTAN」「tretre」
「そろそろ、いいもの。」などの手仕事系まで
さまざまなコンテンツに携わる。
最近力を注いでいるのは、
そういうこととはまた別の「MOTHERプロジェクト」。
自他ともに認める猪突猛進型のOTAKU気質で、
ゲーム、マンガ、歌舞伎など、多方面に詳しく、
どせいさんとピカチュウが大好き。
オーディオも家具も陶磁器も、
好きになったものや、好きな人が好きなものには、
専門書まで読んで勉強し専門家なみの知識をもつが、
「カメラとクルマだけは、モノにならなかった」。
モノを集めすぎて、女性誌で受けた自宅取材で
「汚部屋度満点」という名誉を授かったが、
あくまでもモノが多すぎるだけで、
じぶんなりの整理整頓はできているという。
山川 路子
山川路子
「ほぼ日」デザイナー。2007年入社。
編み物が好きで、自分が着る冬のニットの多くはお手製。
三國万理子さんを師と仰ぎ、「Miknits」を立ち上げ、
プロジェクトリーダーを10年以上にわたりつとめている。
デザイナーながら、情熱的で冷静な編集者的視点をもち、
伊藤まさこさんの「weeksdays」や
イセキアヤコさんのジュエリー、
なかしましほさんの「OYATSU」プロジェクトなどにも
企画立案から参加している。
私生活では双子(プリンセスブーム中の女児)の母。
酒井 菜生
酒井菜生
「ほぼ日」商品事業部所属。2019年入社。
中・高はフランスで教育を受けたという帰国子女。
渡辺やえと組み生産管理を担当することが多く、
やえの商品愛ゆえの
暴走に近い仕事ぶりをコントロールできる
唯一の存在とも言われ、なにかと頼られている。
その表情はつねにクールかつ
アルカイックスマイル。
お寺(名刹らしい)の娘という出自ゆえか。
「熱量」を伝えたい。
- このプロジェクト、
最初は縫さんとわたしの、
個人的な趣味というか、
社内サークルみたいなかたちで始まったんですよ。
「産地をめぐる旅をする仲間」というか。
- そうだったんですか。
- 「あそこの産地がすごいらしい」と聞けば、
休みの日に見学に行きましょうよ、
みたいな感じでしたね。
- 縫さんは、たしかアパレルのご出身ですよね。
産地には、もともと、詳しかったんですか。
- そうですね。
「あの産地がすごい」ということは、
情報として知っていましたし、
仕事で訪れたこともありました。
それで「わたしが今気になっているブランド、
生地屋、産地」のリストを、
やえさんと共有したんです。
- アイドルの情報を交換するみたいに。
- ほんと、そう。それが面白くて!
それで、ひょっとして縫さんは、
「ほぼ日」でこういうことがしたいんじゃないかな、
って思ったんです。
すばらしいけれど埋もれがちな産地と
それを知らないままでいるお客さまを、
「ほぼ日」が商品コンテンツを通してつなぐ、
ということですね。
それは自分もすごく興味があることで。
- そうだったんですね。
私はもうただ楽しくて産地への旅に出て。
まさか「ほぼ日」のコンテンツになるなんて、
思ってませんでした。
- うんうんうん。
最初に行ったのはどこだったんですか?
- 尾州(びしゅう)です。
- そう、尾州って、
日本一の毛織物の産地なんですけど、
それがもう、
ものすごーくおもしろかったんです!
- 「ものすごーく」どころか
「とてつもなく」おもしろかった!
とある工場を訪ねたんですが、そこの人が、
手織りでしかできないようなことを、
機械で設計して、生産ができるんですよ。
その技術があまりにもすごくて、
聞けば、名だたるブランドが使っているとか。
それを知ったら、もう、メラメラと、
「ほぼ日で、こういうものを商品化したい!」って
思っちゃいました。
- やえさんぽい(笑)。
縫さん、驚いたでしょう。
- ハイ。こんなすごいもので何を?! って。
でも、私もやえさんと話すうちに、
そうか、こういうものが商品化できたら、
日本の繊維産業の凄さであるとか、
いまも残る産地のこと、技術のことを、
「モノにのせて」届けられるかもしれない、と。
- なんとかしてその生地でプロダクトをつくりたいと
いきなり交渉したんですけど、
たくさんはつくれない規模のところに
あまりに多くの注文が来ているそうで、
「ほぼ日」が入る余地はなかったんですよ。
でも、そのことが、さらに火をつけて。
- 「ほかのところでも、できるんじゃないか」
って、やえさん、言いそう。
- まさしく(笑)。
それで「縫さん、ほかにも、知らない?」って。
- そうしたら、出てくる、出てくる。
あそこにこんな工場がありますよ、とか、
あの地域ではこういうことをしていますよ、って、
もう、いてもたってもいられない情報が。
- 日本各地に?
- そうなんです。
生地産地には、若手の方々が立ち上げた
サークルがあったりして、
うちの産地を盛り上げるぞ、
っていう熱量がすごいんですよ。
そういうところを、やえさんに紹介しました。
- すごい、縫さんの知識。
- 私、これまでずっとアパレルの仕事を
やってきたんですけど、
いいものを作ろうとすると、
やっぱり生地が重要で。
国産の生地って、ほんとにクオリティが高いんです。
それで日本の繊維産地を調べていたんです。
繊維の産地には、
とてつもない個性と技術が残っている。
とてつもない個性と技術が残っている。
- 実際に産地に行ってみると、
わかることってありますよね。
洋服になる布、生地の産地のことって、
考えてみればこれまでよく知らなかったなぁ。
- 産地の人とか職人さんって、寡黙というか、
自分たちがやっていることやつくったものを、
わざわざアピールしないんですよね。
だからなのかな、あまり知られてない。
- 繊維系の産業って本当に昔からある業態なので、
考え方とか仕組みが古いところもあるのかな。
商社や問屋に卸すことが仕事みたいな
機屋さん(はたや=反物をつくる家)って、
昔はいっぱいあったと思うんですよね。
それだけで経済が回っていた。
でもいろいろ状況が変わってきて、
いつの間にか産地の規模が縮小してしまった。
だからなおさら、情報がわたしたちまで
届かないと思うんです。
- 産地の生地っていうのは、何が特別なんだろう。
心惹かれるところは何なんだろう。
- やっぱり、信じられないような高い技術です。
想像を超えた技術っていうのかな。
色とか織り模様とかデザインとか、
そういう美的センスとはまた別の‥‥。
- 気になります。
- この機械のこの歯車をこっちに付け替えたら、
こんな生地が織れるぞ、
みたいな、エンジニア的な部分があって。
- 「こうやったら、もっといい布ができるかも」って
常に模索しているんですね。
- そうです、そうです。
それって、すごいじゃないですか、
普通じゃ考えつかないというか。
- 機械自体から変えてしまうわけですよね。
コンピュータで言えば
プログラムを書き換えるようなこと。
それは‥‥想像を超えてますよね。
- 「そこだったんだ!」って、思いました。
美的な意匠も大切だけど、その前の段階の技術ありき。
いまとなっては珍しいくらい古い機械があって、
それをうまくあつかえる人がいて、
さらに、それを維持するだけじゃなくて、
改造というか、自分で考えて手を加えることを、
しようと思うし、やりたいし、
それが楽しくてしょうがない、
っていう人たちがいるんです。
機械でつくってるけど、
手仕事に近い感覚なんだなって思いました。
そのぶん「ゆっくり」なんですけれど。
- もちろん、スピード重視の大量生産が
悪いとは全然言わないんですよ。
たとえば、長く使っても歪まないとか、
均一で、クレームが少ないものができ、
その良さはあるわけです。
でも今回のことは、それとは真逆で、
着ているうちに風合いが変わってきたり、
体に馴染んてくるようなものができる。
そういう良さなんです。
思ったんですよ、
数はたくさんつくれないし、
ものすごく手間がかかるし、
いわば生産効率が悪いようなものの中に、
素晴らしいものがあるんだなって。
- うんうんうん。
- それって「ほぼ日」っぽいものですよね、すごく。
大量生産品と、作品の、間。
- そう、その、間。
本当にね、「ほぼ日」っぽいでしょう?
やるべきでしょ? ふふふ。
- そっか、そういう産地が、
日本各地に、たくさんあるんでしょうね。
- そして今、繊維の産地って、
続けていけるかどうか、っていう
むずかしいタイミングになってるところが本当に多くて。
でも素晴らしいものづくりをしているところ、
産地はまだたくさんあるので、いろいろ取材して、
ご紹介していきたいんです。
- いろいろ行きたいですね。
繊維の産地の日本地図がつくりたい。
- その気ですけれども、私は!
プロジェクト第一弾は
「遠州」からはじめます。
「遠州」からはじめます。
- このコンテンツは、各産地と組んでの
商品化を道しるべにしますよね。
その第一弾の産地が‥‥。
- 「遠州」です。
- 静岡の? 浜松というか。
- そうです、その遠州。
- なぜ、遠州に?
- 去年の春くらいに、やえさんと、
「またどこか産地に行きましょう」と話をしていて。
そしてたまたまインスタで
綿織物の産地をめぐる「浜松・遠州バスツアー」を
見つけたんです。
- すごい。楽しそう。
そんなツアー、誰が主催しているんですか。
- それが宮浦晋哉さんというかたなんです。
- 宮浦さんはこのプロジェクトにおいて
最重要と言ってもいい人物です。
これからもコンテンツに登場しますよ!
- どんなかたなんですか。
- ご説明します。
宮浦さんは1987年千葉県生まれ。
- 30代のかたなんですね。
- お若いんです。
なんと年間200社の繊維工場を回り‥‥。
- 200社!
- それで宮浦さんは、
日本のものづくりの発展を考えて、提案する
会社「糸編」(いとへん)をつくるんです。
いわば、繊維産業を俯瞰して見るプロ。
だから私たちがぼんやりと、いろんな面白い産地と
組んでのモノづくりをしたいなと思ったときに、
まず宮浦さんに会ってみよう、って思ったんですよ。
「お話、聞かせてください」って。
- ちょうど宮浦さんは、
繊維・ファッション業界での人材育成を目指す
「産地の学校」をなさっていて。
- 「産地の学校」? 面白そうですね。
- そうでしょう?! 私もそう思ったんです。
繊維産業について、
またテキスタイルとはどういうものかについて、
都内で先生から総合的に学ぶことができる場で、
12講で専門的な知識を得ていくんですが、
座学だけに終わらないよう、受講者を
「工場と直接商談ができる」レベルまで
持って行くんですって。
- カルチャーとしての講座ではなくって、
実学として学ぶところなんですね。
- まさしく「アカデミックよりストリート」と
宮浦さんはおっしゃっていて。
そういうところがすごくいいなあって思っていました。
また、都内での講座のほかに、
浜松で「遠州産地の学校」を開いていて、
ここではもっと具体的に
工場といっしょに学んでいくんですが、
さすがに学校に行くのは難しい。
その単発版のようなツアーもあって、
それが「浜松・遠州バスツアー」でした。
けれども、行きたいと思いつつ参加できなくて。
それで「じゃあ、自分たちで行こうか」って、
やえさんと二人、遠州に行くことにしたんです。
- え? いきなり?
- ‥‥というわけでもなかったんです。
私、最初に入った会社の本社が浜松で、
浜松に住んでいたこともあって、土地勘がありました。
- 縫さん、
「私の推しは遠州です」って言ってましたよね。
- そうなんです(笑)。
それで、宮浦さんに、遠州に行ってきますと話したら、
「僕、アテンドしますよ」って、
宮浦さんがツアコンを引き受けてくださって、
見学をするのにおすすめの工場や
この人に会ったらいいですよ、
ということを教えてくださったうえ、
引率で回ってくれたんです。
- ええーっ? 個人的に?! すごいですね。
- そこで出会うんです、
HUIS(ハウス)というブランドのかたがたに。
- 初めてお会いして、お話を伺っているうちに、
ああ、この人たちは、
生地を広めたくて服をつくっているんだ、
地場産業としての布を廃れさせず、
もっと発展させたいっていう強い気持ちがあって、
その手段の一つとして「服」を選んでる。
遠州織物っていう産地に対する想いが
洋服から感じられるんですよね。
だからフリーサイズで、
日常的に着倒せるような
デザインなんだとわかりました。
こういう方には、
「ほぼ日」で出会ったことがなかった。
- うんうんうん。
- しかも、生地がめちゃくちゃよかった、本当に。
ウェブだとわからずにいたんですが、
実際、服を見たら、
「ええっ? こんないい生地なの?」
ってびっくりして。
- うんうん、そうですね。
- だんだん縮小していく産地をたくさん見ているなかで、
産地によって事情はそれぞれ違うと思うけれど、
HUISさんの、浜松のことでいえば、
ここには、飛び抜けて「生き延びる」っていう
強さがあるように思えたんですよね。
産地の生き延び方の一つとして
「あっ、そういうのもあるんだ」と思って。
- 服のブランドとして産地に寄り添う感じですね。
- だからHUISさんのラインナップを
最初に紹介しようって思ったんです。
それゆえに「遠州から始めます」なんですよ。
ここまで来てプロジェクトとして立ち上げるため、
デザインと商品管理の担当が必要ということで、
ふたりにも声をかけたんです。
- そういうことだったんですね。
- 光栄です。
- がんばりましょう!
- 大前提として、生地をしっかり紹介したいですね。
- とにかくたくさんの人に着てもらって、
布が気持ちいい! って思ってもらいたいですね。
- はい、それが最大の目的です。
「この生地が推しなんです!」って(笑)。
わたしたちの熱量、すこしはお伝えできたでしょうか。
次回からは、ここでも話題になった
糸編の宮浦晋哉さんを迎えてのお話をお届けします。
どうぞおたのしみに!
2024-04-02-TUE