糸井重里は「ほぼ日」をはじめてから、
コピーの手法や技術についての話を
積極的に伝えようとはしてきませんでした。
でもやっぱり、一時代を築き上げた
広告コピーの話はじっくり聞いてみたい!
そんな機会をずっとうかがっていたら、
「前橋BOOK FES」の新聞広告で
糸井さんがひさしぶりにコピーを書くことに。
ほぼ日の編集者であるぼく(平野)は、
コピーライター出身なので興味津々です。
新聞広告を振り返りながら教わりました。
糸井さん、あのコピーってどう書いたんですか?

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6 変則7段「じょうもうくん」。

糸井
最後のおまけとして、
イベントが終わってから出た広告ですが、
これにはぼくたちも驚かされましたね。
――
みうらじゅんさんとの
トークイベントから生まれた4コマ漫画
『じょうもうくん』が実現しました!

上毛新聞で11月12日に掲載された広告(クリックすると拡大画像が別ウインドウで開きます) 上毛新聞で11月12日に掲載された広告(クリックすると拡大画像が別ウインドウで開きます)

糸井
いまならではのことだから、おもしろいですねえ。
たしかにそのトークイベントで、
ぼくはみうらじゅんを騙しました。
――
みうらさんを騙した(笑)
糸井
いろんなことでからかっていたけど、
みうらはいつまでも覚えていたんだよね。
「じょうもうくん」ってタイトルまで覚えていた。
みうらが信じちゃったのは悪かったなと思って、
トーク中に訂正したんじゃなかったかな。
会場には上毛新聞の方、
どなたかいらっしゃったんですか。
上毛新聞
我々は外のブースにいたのですが、
トークイベントの会場に
うちの記者とカメラマンがおりまして。

糸井
そうか、社内のかたがいらっしゃったんですね。
上毛新聞
トークイベントが終わってから
そのカメラマンが我々のもとに戻って来て、
「大変なことが起きた!」と。
一同
(笑)
上毛新聞
「すごく上毛のことを言っていただいてます!」
という報告をもらったんです。
その彼がとても興奮していたのもあって、
あまり上手に説明できなくて(笑)。
糸井
いいですねぇ。
上毛新聞
その後でYouTubeに上がった動画を拝見しまして、
我々も「これは大変だ」となりました。
全社員に「このYouTubeを見てくれ」と回覧をして、
社内もおおいに湧きましたね。
「『じょうもうくん』は本当に出るのか?」と。
これは先手を打っておかねばと思って、
上毛新聞のTwitterで
「広告スペースをご用意してお待ちしております」
というふうに、既成事実として
その日の晩のうちにツイートしたんです。
糸井
いやあ、勇気づけられました。
これは一種の企業広告ですよね。
つまり、この紙面全体が企業広告で、
上毛新聞がどういう姿勢で、
みなさまの新聞をつくっているかがよくわかるし、
この対応力も見事に証明しましたし。
――
これは上毛新聞さんに聞きたかったことで、
最後のおまけの広告では
通常の5段のバージョンと7段のバージョンで
2種類のデータを提出していましたよね。
この変則の7段を採用いただいたことって、
ものすごい英断なのではと思いまして。
上毛新聞
2パターンのデータをいただいたときには、
正直「ちょっとむずかしいかな」という
第一印象から入ったんです。
ですが両方をプリントアウトをしてみますと、
どうしても変形の方がよかったんですよね。
もしかして我々が試されているように感じまして。
一同
(笑)
上毛新聞
「上毛新聞はどっちを選ぶんだ?」というふうに、
突き付けられているように感じたんです。
これは内幕のお話ですが、
じつはこの広告で使っている面は、
本来なら変形に対応できる面ではなかったんです。
広告代理店さんからオファーがあっても、
「こういうのはできない」とお断りをしていまして。
――
ふつうであれば、無理ですよね。
上毛新聞
ただ、最初に「じょうもうくん」の話が出た
YouTubeをみんなに共有していたこともあって、
「こういうデザインが来て、変形でやりたい」
という話を持っていったら、
意外とスムーズに話が通ったんです。
――
へえーっ!
上毛新聞
これもびっくりしたんですけど、
社内も「やろう!」というムードだったので。
もっと難航すると思ったんですけど、
ゲラを両方見せると、みんな「こっちだ」となって。
じつは、自分たちのいる広告関連部署が
いちばんの難関だったんですよね。
いままで断ってきた経緯はあったのですが、
最後の最後に「NO」と言うのは‥‥、
ちょっと我々のプライドが許さない。
――
5段だったとしても、
また掲出してくださること自体が
ありがたいお話だと思うんですけど、
変形の7段だといろいろな調整も必要ですよね。
上毛新聞
ある部署からは
「変形をやるときはもっと早く言ってくれ」
と言われたのですが、
「いや、じつはこういう状況で」と伝えたら、
「それじゃあしょうがない」と言われました。
糸井
その辺りは前橋の人の気運ですね。
本当に、そういう地域性なんですよ。
「それならやらなきゃいけないんじゃないか」って。
なんて言うんでしょう。
前橋の人には軽はずみなところがあって。
一同
(笑)

糸井
正直に言うとぼくは、
5段のデザインで出てもいいやと思っていたんです。
ただ、みうらが意外と大きく描いてきたのもあって、
この絵を小さくすると、
いっぱい描き込んであるのが読みづらくなるんです。
デザインをした廣瀬さんも、
それがもったいないなあと判断して、
ダメ元で勝手に7段を作ったんですよね。
ぼくは「5段を提出するんだけど、
話のタネにもなるし7段もいっしょに入れておこう」
という話をしていたんですよ。
だからこれは試したんじゃないんです。
選んでもらった結果、5段になったらなったで
ぼくらからしたら全然悪くないんだから。
と思ったら、根回しが効いていたんですね(笑)。
上毛新聞
「もうここまで来たら、最後まで全力で行こう」
という気持ちでしたね。
見比べると、どうしても大きい方がいいですし。
糸井
それはそうなんですよね。
これはちょっと新聞広告界でも
初めてのことなんじゃないでしょうか。
――
そもそもイベントが終わった後に、
「ありがとね」っていう広告を出すことも
珍しいことですよね。
糸井
その理由はわりとわかっていて、
誰も儲けないからなんですよね。
イベントは終わっちゃったんだから、
ぼくらが得をするとかでもないし、
上毛新聞が媒体料を稼げるとかでもない。
誰も得していないはずなんです。
このおまけの1回はみんなで損するイベント。
つまり「ポトラッチ」、贈与のイベントなんです。
思えば、この贈与する考え方も
気仙沼とのお付き合いがヒントになっています。
――
あ、ここでも気仙沼が。
糸井
これまで何回も話していることですけど、
被災した年の9月か10月かに気仙沼に行って、
避難している親戚の家の庭先で、
バーベキューに誘ってもらったんです。
ただ、ぼくらは地元の人の食べ物を
奪ってしまうことが気がかりでしたね。
ただ、せっかく誘ってくれたのを
無下にするわけにもいかなくて行くんです。
ホルモン焼きとかを焼いて
「食べて、食べて!」って言われるんだけど、
ぼくらからしたらやっぱり
「いやあ、やっぱり食べにくい」と思うんです。
でも気仙沼の彼らからしたら
「ご馳走したくてしょうがなかったんだよ」と。
――
なるほど‥‥。
糸井
つまり、外から来た人にご馳走するまでも含めて、
「元気になる」ってことなんですよね。
人って、もらうだけでは生きていけないんです。
「人にご馳走したりあげたりするっていうことが
やりたかったんだから、やらせてくれ」って。
ぼくは現場でそのことばを聞いたから、
これからはそれを覚えておこうと思いました。
それからは、ご馳走をしてもらえるように
ぼくらは手伝うっていうのがテーマになったんです。
この前橋の話でも、ぼくらはぼくらで
かなり持ち出しもしながら運営していたけれど、
持ち出しできる幸せは当然あるわけです。
今度は、前橋の人が外から来た人に
ご馳走してくれるようになるといいですよね。
だって、外から来る人は旅費を使って、
本を持って、泊まる人は泊まっているから。
最低でも3万円ずつは使っていますよね。
――
しかもホテルがどこも埋まっていて、
予約が取れなかったって聞きましたよね。
糸井
だから「伊香保から来たんです」とか、
「伊香保も高い旅館しか空いてません」とかね。
でも、みんな文句を言わずに、
泊まれないから日帰りにするだとか、
2日とも来ればいいんだとか、
いろんなことを言ってくれました。
前橋の人からしたら、
駅からの道が遠くてしょうがないと思っているけど、
来た人は「遠い」なんて、誰ひとり言わないの。

一同
(笑)
糸井
みんな、自分の車で動いているから
地元の人たちは歩かない距離ですよね。
東京から来た人たちが
あの距離を平気で歩けるっていうのも、
ある種の文化衝突だったんじゃないかな。
――
東京の人って、けっこう歩きますよね。
糸井
歩く、歩く。実際、たいした距離じゃないし。
前橋に前乗りしたときに、
駅前の温泉施設まで歩いて行ったけど、
前橋にいた頃なら遠いと思っていたんです。
今はもう全然、何とも思わない。
そういう「遠いでしょう?」みたいな話も、
「寒いでしょう?」と同じように
全部がネタになる話なんですよね。
――
話しのネタは探せばいっぱいですね。
糸井
「何もないけど、ようこそ」っていうのは、
親切さだとか人柄でカバーするしかありません。
その話は広告の中にも入れられました。
このおまけの回では「よかったね」って話だけど、
「運だよね」っていうのも入っていました。
天気がよかったのも運だし、
そのおかげで助かったことはあったはずです。
今回、運のおかげで助かったような部分は
反省会でちゃんと直しておく必要は
あるなあと思うんですよね。
で、広告の話に戻りますけど、
状況に合わせてクリエイティブが変化していく。
いま何が聴きたいか、何を言いたいかってことを、
マーケティングじゃなくて、
心と心の問題として広告を打たないといけない。
マーケティング的な言い方をすれば、
この広告を打ったことで
どれだけの人があの場所に足を運んでくれたとか、
手伝ってくれたとか数字に出るものなんでしょうけど、
それをカウントしてもしょうがなくて、
見ている姿が想像できればいいんです。
テレビ欄とかお葬式の記事を見ようとして
新聞を開いた人がこのブルーの紙面を見たときに、
「上毛新聞、なんか変なことしてる」って、
たぶん驚いてくれたと思うんですよね。
写真じゃなくてこういう形でのカラーって、
やっぱりちょっと特徴があったわけだし。

(つづきます)

2023-02-26-SUN

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