会社をつくるということは。お金と、投資と、どう生きるか、の話。

みなさんもご周知のとおり、
今年の3月16日に「株式会社 ほぼ日」は
東証ジャスダックに上場いたしました。
そんなお祝いムードも
すっかり落ち着いた9月某日、
みずほ証券の今泉泰彦会長
東京証券取引所の岩永守幸常務
おふたりをオフィスにお招きして、
糸井重里とおしゃべりしていただきました。
はじめは「株の買い方」や「投資の心得」など、
現実的なことを話すつもりだったのですが、
いざ3人で集まってみると、
話のテーマは思った以上に深い方向へ‥‥。
お金のこと、経済のこと、
いまだから話せる上場のことなど、
思わず「へぇー」や「なるほどー」という
エピソードがたくさんとびだしましたよ。
全6回、どうぞ気楽におたのしみください。

04

お金の話が苦手な日本人。

2017-10-29-SUN

糸井
日本人は投資が苦手とありましたが、
お金の話も苦手なんですよね。
今泉
苦手ですね。
お金に関心はあるんだけど、
話題にしないところがあります。
糸井
ぼくも自分のその性質に
気づいたときがあって、
ほぼ日がはじまってすぐのころに、
“お金儲けの神様”と呼ばれている
邱永漢さんと対談をしたんです。
それは1冊の本にもなって、
そのときのタイトルが
お金をちゃんと考えることから
逃げまわっていたぼくらへ

というものでした。
岩永
おもしろいタイトルですね。
糸井
それまでのぼくは、
ちゃんとお金のことを
見つめることさえしてなかったんです。
「お金には興味がない」ということを、
どこか自分のアイデンティティに
していたんだと思います。
だから、それからは
「お金には興味があるけど、
お金がいちばんだとは思わない」
という立場でいるようにしました。
岩永
大事ではあるけど、いちばんではない。
糸井
そうです。だって、
従業員のいる会社のリーダーが
「俺、お金のことかんがえてないから」
なんていってたら、
給料なんてわたせません(笑)。
岩永
そのとおりだと思います。
いまや大人だけじゃなく、
子どもたちにもはやい時期から、
ちゃんとお金の教育を
するべきだと思うんですよね。
糸井
ちなみに岩永さんは、
お子さんはいらっしゃいますか?
岩永
はい、3人います。
糸井
お子さんには、
どんなお金の教育をされるんですか?
岩永
え、ぼくですか?
糸井
はい。
今泉
それは興味があります。
岩永
いやぁ、それがなかなか‥‥。
ついこの間も、
大学生になる次男が
ジムに入会したとかで、
クレジットカード機能がついた
会員証をつくったんですね。
糸井
ほう。
岩永
クレジット機能があるので、
次男はそのジムの会計を、
分割支払いにしたそうなんです。
なので彼に、
「クレジット会社に何%の金利を
支払っているか知ってるの?」
って聞くと
「知らない」っていうんです。
糸井
ああ、なるほど。
岩永
「お金を分割で払うということは、
お金を借りてるってことだから、
借りるときには“借り賃”がいるぞ」って、
そういう話をしたばかりだったんです。
つまり「分割支払い」の意味も
よくわかってなかったんですよね。
糸井
ということは、
これまで岩永さんご自身が、
子どもたちにお金のことを
直接教えるということは‥‥。
岩永
うーん‥‥。
あんまりなかったような気がしますね。
糸井
今泉さんのところは、どうですか。
今泉
ええ、うちもですか(笑)。
糸井
たとえば、
奥さまとお金の話はされますか。
今泉
いやぁ、うちの家内は
あまりお金のことを口にしないようにと、
そういう育てられ方をしたようで‥‥。
糸井
あまりいわないようにと。
今泉
家内とお金の話をするとしたら、
お金の出入りのこと、
家計管理のことですかね。
どう増やしていくかというのは、
その次の話になりますから。
糸井
お金のつかいかたは、
増やすのと同じぐらい、
すごく大事なことです。
今泉
お金を増やすことが、
お金の話のすべてではなくて、
いわゆる健全な「金銭感覚」というのが、
非常に重要じゃないかなと。
糸井
‥‥で、ご自身はいかがですか?
今泉
いやぁ、それが、
あんまりできていない(笑)。
岩永
(笑)。
糸井
なぜなんでしょう(笑)。
だって、お金のことでいえば、
まさに頂点にいらっしゃるような
おふたりでもそうなわけですから。
今泉
いやぁ、まあ、そうですね。
岩永
はははは。
糸井
たとえばの話、
日本が中東にあるような、
もっと緊張感のある国だとしたら、
どうやって資産を守るとか、
なにをもって逃げるとか、
そういうことを
もっと真剣に家族や子どもに
伝えたりするのかもしれないですね。
岩永
あー、そうですね。
台湾の方が海外資産とか、
子どもへの教育費を惜しまないのも、
そういうことなんでしょうね。
糸井
ああ、そうか。
そういえば邱永漢さんも、
台湾生まれですね。
岩永
彼らにとっては、
お金の話は切実だと思います。
急に国がなくなることだって、
ありえるわけですから。
糸井
そういう話を聞いて、
「日本は平和でよかった」で
終わらせるんじゃなくて、
他の国への思いやりもこめて、
「お金のことをかんがえるのは、
大人として責務だから」って
かんがえるほうが楽かもしれないですね。
岩永
ああ、それはありますね。
糸井
いま急に思い出したことがあって、
じつは、ぼくも奥さんとは
お金の話をほとんどしないんです。
でも、はじめてお金のことで
「ちょっと相談があるんだけど」
といったことがあったんです。
岩永
それは気になります。
糸井
それは東北の震災があったときに、
大きい金額を寄付しようと思ったときで。
それでもし「反対」っていわれたら、
その理由も聞いてみたかったんです。
で、彼女を呼んで
「これくらい寄付しようと思うんだけど」
っていったら
「うん、いいんじゃない」って。
岩永
あっさりと。
糸井
あっさりと。しかも
「だったら、わたしも同じだけ寄付する」
っていったんです。
岩永
へぇー、すごい。
糸井
ずっといっしょにいて、
そんなふうにお金の話を
したのもはじめてだったんですが、
そのとき彼女のことが、
もっとわかった気がしたんです。
今泉
ああ、なるほど。
もともとの金銭感覚は知ってたけど、
もっと深いところで一致したんですね。
糸井
そうなんです。
お金のことをどう思って
生きている人なのか、
そのときわかった気がしたんです。
そこからいろんなことを考えるのが、
ものすごく楽になりました。

お金の話ってその人の思想が
反映されると思うんです。
イデオロギーじゃないけど、
思想ではあるわけで、
そこは自分で自分に問いかける必要が、
あるんじゃないかなって思いましたね。
(つづきます)

今泉泰彦

みずほ証券株式会社 取締役会長。
1956年生まれ。
1980年、東京大学経済学部卒業後、入社。
株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員、
株式会社みずほ銀行取締役副頭取などを歴任後、
2014年に「みずほ証券株式会社」の
取締役副社長兼副社長執行役員 法人営業統括副社長、
2016年に取締役会長に就任。
現在に至る。

岩永守幸

株式会社東京証券取引所 取締役 常務執行役員。
1961年生まれ。
1984年、慶應義塾大学卒業後、東京証券取引所入社。
90年米国ロチェスター大学でMBA所得。
東証と大証の経営統合後に発足したJPXにおいて、
CFOとしてグループ財務戦略の策定や
組織運営におけるコスト適正化を推進。
現在は、マーケット部門の責任者として
市場運営を総括すると共に、
投資者層拡大の責任者も務めている。