ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第4回 ヴィーナスは地上にいる。
糸井 平均すると、1年アルバム1枚のペースですか。
中島 そんなもんです。
糸井 楽曲提供もあるでしょ。
それが年に2曲か3曲?
中島 いや、1曲あるかないか‥‥。
糸井 アルバムが10曲入りだとしたら、
毎月1曲の割合ですね。
中島 形になるのはね。
糸井 そうか。漫画家に比べたら仕事してないですね。
中島 あちらは週刊ですものね。
糸井 ということは、
ぼくの勝手な印象なのかなあ、
中島みゆき多産系説は。
でも、そう思ってしまった理由は説明できるんです。
それはね、全曲どれもしっかり聴いてて
頭に残ってるから。
飛ばし聴きはしてませんから。
中島 光栄です。
糸井 鼻歌でもみゆきさんの歌をくちずさむし。
♪縦の糸はあ〜なた〜♪
(「糸」という歌です)とか。
中島 わたしの歌はブレス(息継ぎ)の場所が
ないと言われがちだから、
歌うの大変じゃないですか。
もしかして肺活量が多いのでは?
素潜りが20分とかできたりして?
糸井 ぼくのは、鼻歌ですからね。
誰に聴かせるわけでもないし‥‥。
ブレスがないんですか。
中島 自分じゃ、
そんなこと思わないんですけれどもね、
歌い手さんに渡したときに、
「どこで息するんですか?」
って。いやどこでって、
好きなとこでどうぞって言うんですけれども、
大抵もっとブレスの場所が
休符としていっぱい入ってることが多いんだそうです。
糸井 カラオケでみゆきさんと同じように
歌おうと思うとつらいでしょうね。
中島 酔ってたらよけいつらいでしょうね。
「宙船(そらふね)」なんか歌えないかも(笑)。
糸井 あ、でも、一般の曲よりも
息継ぎもしないで歌い切るってことは、
1曲にかける体力も多くなるわけだから、
1曲のありがたみが増すのかな(笑)。
ニューアルバムの
『I Love You, 答えてくれ』にしても、
どの曲も濃かったし。
暴れん坊の子分どもを
大勢連れてきたというか。
中島 そうですか(笑)。
糸井 そう。だから、今回のアルバムは
中国の兵馬俑みたいなものですよ。
中島 あら、失礼ね(笑)。
糸井 「お前たち行くよ!」みたいなさ。
中島 ははは、まあ、ある意味そうかもね。
糸井 襲撃されたかのような迫力が。
中島 たまにゃお雛様も混じってたでしょ。
よくよく見ると、こんなところに
こんな可愛らしいのもいた、みたいな。
糸井 そうですね、ちっちゃくて可愛らしいものも。
同じ人が作ったとは思えないくらい。
中島 いろんな子がいるんですよねー。
糸井 そうそう、お会いしたら、
聞いてみたいことがいくつかあって。
中島 へえ。なんなりと。
糸井 「地上の星」の歌詞の
♪草原のペガサス、街角のヴィーナス♪、
ぼくが詩人なら、あの一行を書けたら
大笑いしてると思うんです(笑)。
中島 笑うんですか? へっ? 何ちゅうって?
糸井 ある種の快感というか。
中島 はあ!
糸井 人はそれをわたしと一緒に、
楽しくだまされてくれるんじゃないかな、
っていう喜びを、
わーっと感じると思うんですよ。
ぼくなら。
中島 はいはい。
糸井 で、みゆき様は?
中島 ははは、何ですかいきなり様って(笑)。怖いわ。
糸井 空と地面をね、ひっくり返しにしたところで
できてるといえばできてるんだけど、
ああいう立て続けの比喩、
やったー! みたいな、
ニンマリだか、
高笑いだかっていうのはないですか?
中島 ‥‥‥‥(熟考)。
糸井 街角のヴィーナスって、
ヴィーナスは天にいるものだから
街角にはいないじゃないですか。
中島 あら、そうですか?
糸井 本人に言ったら、
あ、わたしかもって言う人はいるかもしませんが。
中島 いや、ヴィーナスに見えるときってあるんですよ。
やっぱりね、惚れて見ればヴィーナスですよ。
糸井 ってことは、みゆき様にとってヴィーナスって、
やっぱり天上じゃなくて地上にあるものなんですね。
中島 そうそう。だからそこを通りかかってる
お姉さんが素敵だなって惚れちゃえば、
ヴィーナスに見えるでしょ。
糸井 そうかあ。ヴィーナスっていうのは、
この世にいないようなすばらしいもの、
っていう理念ですよね。
でもそれはお互いにヴィーナスと
認め合っての関係があったり、
ヴィーナスかもしれないという
瞬間があったりするってことで、
それに対してみゆきさんが、
それでいいじゃないって言ってる感じ。
中島 はいはい。
糸井 だからそれを書けたときには、
うれしいんだろうなあって思うんですよ。
 

(つづきます!)

2007-09-11-TUE
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