「元気でいよう。」 ──これから、うたができること。── 宮沢和史さん×糸井重里対談
 
その5 ことばじゃない、たましいの部分。
糸井 ぼく、平日に動物園に行ってきたんです。
平日の動物園って
人があんまりいないので
見るほうも、自由なんですよ。
サル類の檻が室内にあって、
順番にサルに面会したんだけれど、
サルって好奇心が強いから、
人が来るとやっぱり、見るんだ。こっちをね。
完全に一対一なんです。
宮沢 ふふふふ(笑)。
糸井 彼らにはぼくの言葉が通じないわけです。
だけど、人もいないから恥ずかしくないし、
「ま、ゆっくり語ろうじゃないか」と思って、
しゃがんで、チンパンジーに向かって、
「こっちおいで」って
子どもに言うみたいに言った。
そうしたら‥‥ちゃんと来るんだ!
宮沢 うーん!
糸井 英語であろうが中国語であろうが
人間の言葉であろうがサルだろうが、
しゃべればオッケーなんだと思った。
宮沢 うーん!!
糸井 理屈で言うと、
飼育係が「ご飯だよ」って
言いながら呼んだら来るのと同じように、
人間がしゃべってるときって、
好意を持ってるとか、
悪いことじゃないんだなってこと
知ってるから来て聞いているんだと思う。
それは仕組みとして分かっていたんだけれど、
「じゃぁ写真を撮っていいかな」なんて訊いても、
全然気を悪くしてない。
けれどもぼくはもしかしたら
ゴリラだけはちょっと怒るかもしれないと思ってて。
宮沢 あはははは(笑)。
糸井 やっぱ怖いですよ。デカいって怖い。だから
「俺はお前に対してちょっと怖いと思ってる。
 しかし、あの、怒ったら困るんだよ。
 それにしても、顔がでかいよね」
なんてしゃべってみた。
すると、そうでもないんですよね。
ゴリラも「そぉお?」みたいなふうで。
宮沢 そうですか(笑)、うんうん。
糸井 歌の話から
ずいぶん離れちゃったかもしれないんだけれど、
ぼくが言いたいのはそういうことなんです。
お客さんが「ウワッ!」と嬉しいところの、
たましいの部分って、
そういうところなんだと思う。
ゴリラと話をした自分と同じなんだよ(笑)。
俺は特に宮沢くんの歌を
知ってるからそう言うけれど。
宮沢 なのに、キャリアを積むと。
どうしても言葉に頼ってく部分が
出てくるんですよね。
やっと自分もこんなに言葉を
操れるようになってきた、みたいな。
糸井 ああ、そうか。
言葉には機能があるからね。
宮沢 「あ、つかめたじゃん」って。
「ああ、やっぱり色々経験積んだし、
 色んな人の話も聞いたから、
 こういう言い方ができるのかな」と思いつつ、
糸井さんがいま
言ってるようなことにも気づくんですよ。
時々言葉に裏切られたりして。
見捨てられちゃったりして。
それで「言葉なんてただの記号」というような
詞を書いてみたりするんです。
だけど、どっかでやっぱり、
言葉を操ったりいじったりしてるのが
好きなものですから。
糸井 好きですよね。
宮沢 好きで、やるんですけど、
「あ、でも違うな。これ誰にも伝わんないな」
っていうことも分かるようになってきた。
糸井さんがさっきおっしゃった、
ジョアン・ジルベルトの『イパネマの娘』という、
とても有名な曲がありますけど、
たぶん聴いてる人のほとんどは
“イパネマ”っていう単語くらいしかわからない。
でも、イパネマの景色が、
全員の目にたぶん浮かぶんですよ。
糸井 そうだね。「何か私にとっていいことがある」
と思ってそっちを向くんだね(笑)。
宮沢 そうそう、そうそう(笑)!
「なんか好意を持ってくれてて、
 いい世界を見せてくれるんだろうな」
って。
糸井 ぼくたち、サルと同じだよね。
宮沢 それはすごい話ですよ。
そこに行きたいな、といつも思います。
でもやっぱり‥‥。
糸井 できてますよ、それ。
宮沢くん、できてます。
宮沢 あの、こんな話しても始まらないんですけども、
音楽を始めた頃ってなんにも考えてないっていうか、
いま思うと意外にそういう曲って“ある”なぁ、
と思ったりして。
糸井 若いとき、
ものを知らないときじゃないと
できないことってあるんです。
ぼくも、昔書いたものとか見ると、
「俺はこれ、今は、書けない」
って思うことがある。
宮沢 糸井さんでも、ありますか。
糸井 うん。「荒削りなんだよな」と思うと、
意外とちゃんとしてたり。
宮沢 そう、意外と、荒削りじゃないんですよ。
すんごい考えたんだろうな、とか。
糸井 そこまで分かるよね。
いまのほうが荒削りですよ、ある意味。
変にちょこちょこやって、
パワーなくしたら困るから、
いまのほうが荒っぽいことも
できるようになっているし。
宮沢 ええ、ええ。それもそうなんですよ。うん。

(つづきます)
2012-05-25-FRI
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