man
おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

15. おもしろさを守る砦

フジテレビの三宅恵介さん、
日本テレビの土屋敏男さんに、
テレビ企画づくりの本音をうかがう連載は、
今日で、いったんひとくぎり、になります。
おもしろさを守るための砦は、どこにあるのか?
そのことを考えると、ふたりともの頭の中には、
テレビ局の社員ではない人が、思い浮かんだようです。
テレビを守る「ある人」のことを、語ってくれました。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 結局、フジテレビのDNAだとか、
日本テレビのDNAと言われてるものって、
「最低限の約束ごと」が、局ごとに
違うからあるものなのかもしれないね。

次の代とか、前の代とかさえ関係なく、
「やっちゃいけないことリスト」と
「やるべきことのリスト」が、
無意識で、あるんじゃないでしょうか?
三宅 あると思います。
それを守ってほしいなとも思っています。
糸井 そのぜんぶを
伝えている覚えはないとしても、
きっと、「リスト」はありますよね?
三宅 ぼくにはやっぱり、
ぼくが入社当時の編成方針だった
「母と子のフジテレビ」
という意識があるんです。
糸井 あぁ、なるほど!
すごいなぁ、その言葉は……

最近思うんですけど
「どうして会社が作られたか」
ってものすごく大事なんです。
「母と子のフジテレビ」で、
みんながひとつになった時代が
あったんでしょうねぇ。
三宅 やっぱり、カリスマ的な方々が、
いらしたんですよ。
いくつかの制作会社のかたちを
取っていたときには、仲が悪くて
おたがいに資料を貸さなかったり、
バカバカしいことをやっていたんです。

そういうことを一切やめて、
フジテレビとして
制作部門を統一してはじめて、
日テレやTBSといった、外に
エネルギーを向けられるようになったんです。
糸井 若い会社という意識が、
すっごく強かったということですね。
三宅 はい。
糸井 日テレは若い会社っていう
意識ではないですよね?
いちばん古いけど、
寄りきりで勝つんだ、
みたいなところがあるんでしょうね。
土屋 どうなんでしょうか。

だけどやっぱり、読売であり、
巨人であるというところは、
背負っていくべきだと思うんです。
三宅 たとえ数字が下がったからといっても、
巨人戦の数字をあげようとする日テレよりも、
「数字が下がっても、
 うちはずっとアレでいくんだから」
と決意している日テレのほうがコワイですよね。

「巨人戦のかわりに、こちらで取ってやる!」
という考え方をされたほうが、
たぶん、他局はおそれる……。
糸井 ケンカしてる最中に、ヘラヘラと
「ケンカ止めましょう」と言われたら、
もっと殴りますよね。それと同じだ。
三宅 (笑)
糸井 相手が「オレに被害はない」って、
自信を持っちゃうんですよ。
会社どうしがみんな、
そのパターンにハマッてますよね。

……なんか、おもしろいなぁ、
こういう話をしているの。
また、三人でこういうふうに話しませんか?
三宅 また、ぜひ。
土屋 ぜひ。
三宅 ぼく、お話をするの、好きなんです。
糸井 そうですか。

じゃあ、今度は、それぞれが、
いろいろ会ってきた人について話したいなぁ。

例えば、三宅さんや土屋さんが、
それぞれの会社の歴代の
経営陣や名物ディレクターたちを、
どう見てきたのか。

その視点は、ぼくも知りたいなと思うし、
見ている人としての気持ちも聞きたい。

さらに、出会った芸人さんについても
うかがいたいですから。

三宅さんならさんまさんだし、
土屋さんならダウンタウンかな?
その人たちにかこつけて、また、
自分たちの話をしてもいいですし。

こういうことって、
どこの本にも
出ていない話だから、おもしろいね。

なんだか、テレビ局の人たちに
読んでもらいたい話というか。
三宅 ほんとは、そうだね。
糸井 そうしたら、言わなくて済むもんね。
三宅 今度、二七時間テレビをやるので、
久しぶりにスタッフたちと話をしたんだけど、
いいんです。
よきフジテレビみたいなものを、
取り戻そうという雰囲気がある。

去年は、ひどいものだったんですけどね。

そもそも日テレさんが
二四時間テレビをやっているから、
パロディとしてやっていたはずなのに、
大マジでやってしまったから……。

それをさんまさんが
「フジテレビで
 それをやらなくたっていいじゃない」

と怒っていて。
だから、
『大反省会』という番組が生まれたんです。
糸井 さんまさんのすごいのは、
それをちゃんと引き受けて、
番組の司会者もちゃんとやるところですよね。
三宅 それをおもしろがるから、
やっていただけるんですよね。
糸井 明石家サンタも、
ずっとやりつづけるじゃないですか。
あれ、ご本人は絶対に
幸せになっちゃいけないということですよね。
やっぱりそういうところがすごい。
土屋 そういう意味では、
テレビマンたちが
守りきれていないテレビを、
さんまさんが守ってくれていると
言いますか……。


どうしてもぼくたちが
「一円でもたくさん稼ぐ」
と言わなければならないところを、
「さんまさんが言うんだから
 しょうがないじゃん」

という言葉で守ってくれている。
糸井 そのとおりですね。
三宅 フジもそうです。
さんまさんは、昼間のさんま大先生しか
レギュラーはないんです。それなのに、
『大反省会』のようなところでは、
いろいろやっていただいて。
糸井 ぼくが、三宅さんが関わった
仕事のなかでいちばん感心しているのは、
『ひょうきん族』ではなくて
『さんま大先生』なんです。

つまり、あの番組って
「じょうずに引きだす人さえいれば、
 生きてる人は全員おもしろい」

というコンセプトじゃないですか。
画期的だと思うんです。
三宅 さんまさんがすごいのは、
こないだの土日に宮古島へ行ったんですが、
小学生たちと、すぐに同化するんですよ。

向こうに「パニパニ」という方言があって
「元気だ」という意味なんですが、
知ってすぐに「パニパニ」と踊るわけです。
そうするともう、一年生が
キャッキャ言って笑うわけですよ。

その「パニパニ」を、
延々、二十何回もやりましたから……
すばらしいんです。
こちらは、土壌を作ればいいだけの話なんです。
糸井 そう簡単に言うけど、ディレクターとして
場所を作ることも、すごい仕事なわけですから。

今度は、こういう話を、たっぷりしましょうか。
どうも、ありがとうございました。

今日の仕事論:

「テレビマンたちが
 守りきれていないテレビを、
 明石家さんまさんが
 守ってくれていると言いますか……。
 どうしてもぼくたちが
 『一円でもたくさん稼ぐ』
 と言わなければならないところを、
 『さんまさんが言うんだから
  しょうがないじゃん』
 という言葉で守ってくれている」
             (土屋敏男)

※今日で、3人のテレビについての鼎談は、
 いったん、1シーズン目の最終回になりました。
 ……もちろん、今後も、また集まって、
 「おもしろさ」について、真正面からの鼎談をおこない、
 「ほぼ日」で、連載してゆきますので、
 どうぞ、たのしみにしていてくださいませ。

 このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださるとさいわいです!
 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
 あなたの感想や質問を、参考にしながら進めますね。


←前の回へ

インデックスへ

第2弾へ→

2004-07-05-MON

man
戻る