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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

1. 芸人には、ふたつのタイプがある。


フジテレビの三宅恵介さんと、
日本テレビの土屋敏男さんに、
共通の師匠・萩本欽一さんの話を皮切りに、
テレビ番組づくりや、お笑い芸人さんについて、
「こんなところでしか、語らないかもしれない」
という、本音を語ってもらった熱い言葉には、
予想以上の、大きな反響を、いただいていました。

テレビ局員も、放送作家も、テレビ制作会社員も、
つい、読んでは、
「自分の場合は、こういう経験があったんですよ!」
と参加したくなる本音が、たくさん含まれてる鼎談。

若くてこれからの作り手を目指している人たちには、
虎の巻として役割を果たすかもしれないような鼎談。

制作の魂を伝える話を、また新しくうかがいました。
平日、毎日、の更新をしてゆきます。おたのしみに!

(2か月前の「おもしろ魂」の鼎談を読みたい人は、
 このページの下の方の、バックナンバーでどうぞ!)

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 前に、
松本人志さんと
お話をしているときに、
「女の子を口説くのに、
 お笑いを使うのは反則だ」
という話題になったんです。

案外、そういうところからも、
芸人さんの姿勢というものが
見えてくるのではないかと、
チラッと思いまして。
土屋 松本は、お笑いに対しては
求道者みたいなところがあるから
「それは使っちゃだめだ」
と思っているフシは、あります。

女性全般に対して、
「お笑い」という技だけは
封印した状態で戦うという……。
糸井 ものすごく使う人も、
逆にいるわけですよね?
土屋 そうだと思います。
たとえば、さんまさんだったら
「別にそれは、
 使うも使わないもオレや」
という感じが
あるのではないでしょうか。

さんまさんは
「このまえな……」と、
ふだんの生活で話していることを、
そのままテレビの場にも
持ってくることに
境がない感じがしますねえ。

日常とテレビとの距離はほとんどないと、
ご自分でも、よくおっしゃっている
気がしますけれども……。
三宅 ぼくは、そうだと思います。

さんまさん、ふだんも、
相手に合わせてお笑いを
「使う」というよりは、
そこで盛りあげる中で、
「このノリに
 ついてこれないヤツはダメだ」
とか、
「空気がわからんやっちゃな」
というように、
落としていくという感じがありますね。

きっと、人物の判断の材料には、
していますよね。
土屋 さんまさんの場合は、
最終的には、
「仕事に持ち帰るためのデータ取り」
のようなところもあるじゃないですか。

たとえば、アナウンサーにしても
「こいつはこう言ったら
 こう来るヤツなんだ」と……。
三宅 それは、ありますよ。
すごいと思います。
糸井 そういうタイプの殉教者ですね。
土屋 さんまさんも松本も、
どちらもお笑い求道者なのでしょうが、
そういうところでは、明らかに違うのでしょう。

松本は、そういうふうには考えないですね。
たとえば、女子アナに対しては
「共演者」というジャンルとしての
データ取りをする気は、
さらさらないという印象があります。
糸井 そういうのって、
「歌手が、ふだんも、うたうかどうか」
みたいなものなんでしょうね。

たとえば、
玉置浩二さんは、ふつうに会ってても、
もうタダでどんどん
うたうタイプなんですよね。

玉置さんのように
「うたうことが好きでたまらないから
 ふだんもバンバンうたう」
というのは、女性で言えば
「いいカラダをした女の子が、
 ふだん、常に薄着で歩いている」
ということに近いものなのかもしれない。

矢沢エーちゃんも、
それに近いものがあるとは思います。
話していても、会話のなかに、
「オマエ、知ってるだろ?
 あの曲さぁ……ラララ」
って、アカペラで歌を混ぜてくるんです。

それって
「ここでうたうと効き目がある」
ということを、本人は
明らかに知ってるんじゃないかなぁ。
そこの意識がないとは思えない。
三宅 糸井さんは、
仕事の道具の「言葉」を、
女性に対して、使ったことがあるんですか?
糸井 ないとは思っていますが、
「一生懸命に考えてアイデアを出す」
という意味では、
仕事もそれ以外も同じですからね。
三宅 (笑)
糸井 きっと、過程のどこかでは
使っているんでしょうね。
実際にうまい言葉を練りあげるところまでは
行かなくても……。

だって、いまだって、
おじさん三人が集まって、
口説く必要なんてぜんぜんないのに、
なんとか必死に考えているじゃないですか。
この現場も、仕事以上ですよね。

男どうしで話すときに、
口説く以上にたいへんな思いをして
アイデアを出すことって、ありますね。
さらに他の分野で言うと、
うちは、奥さんが役者じゃないですか。

よその役者がどうなのかは、
わかんないですけど、
うちで一切の芝居をしないんです。

女って、言わば、生活上、
かならずどこかで
ちゃんと芝居をしてると思うんです。

ふつうの奥さんが
「あなた、ごはん、できたわよ」
と言うのも、いわばセリフですよね。

よくできた芝居。

レストランに出かけると、
あちこちの夫婦が、自然に
「レストランにいる夫婦」
という芝居をしてしゃべっているじゃないですか。

実は、うちには、
そういう芝居要素がひとつもなくて。
男どうしで暮らしているみたいなものなんです。

ただ……「やればできる」わけですよね?
仕事では、やっているわけだから。

落語家が、家では
おもしろいことを言わないという話も
聞いたことがあるけど、
ぼくの奥さんは、家では、
芝居をまったくしたくないらしいんです。
土屋 それは逆に言うと、
女優の仕事を非常に大事にしてるんですね。
自分の中でのスイッチが、
ものすごくはっきりしているという。
糸井 つまり、松本人志タイプなんですよね。

テレビを見ていても、
スカイダイビングのシーンとかで
奥さんは、
「なんであんなことを
 するんだろう? コワイ!」
なんて言ってるんです。

そのときに
「いや、でもおまえ、
 仕事だったらやるだろ?」
と聞いたら、
間髪入れずに「やる」って言うんです。

だから、
仕事なら、なんでもするらしいんです。
……で、仕事じゃなければ、
なんにもしたくないらしいんですよ(笑)。
三宅 すごいなぁ。
糸井 ぼくは、奥さんがそういう人だから
「他の世界でも、そういうことって
 あるのかどうかを、知りたいなぁ」
と思って、いま、
お笑いの人のことを聞いているんですね。
土屋 さんまさんは、
力点はあくまでも仕事にあるんだけど、
ふだんの生活でも、
絶えずおもしろいことを
おっしゃっているだろうなぁ、
と思うんです。

鶴瓶さんなんかも、
そういうアンテナを
バーンと張っているから、
おもしろい素人に当たるわけですよね。

だから、さんまさんと鶴瓶さんは、
タイプとして似ているのかなぁと思います。

ただ、よく飲み屋で絡まれる
お笑い芸人さんにありがちな、
「ふだんはおもしろくないんですね」
と言われるタイプも、いるじゃないですか。

だから、
明らかに芸人にも二通りの人間がいますよね。
三宅 ええ、います、います。
土屋 「ふだんは、なにもないんですね」
と言われる人と、
「ふだんも、おもしろいんですね」
と言われる人……。

鶴瓶さんや、さんまさんのような人は、
明らかにふだんもおもしろいんですが、
あれはどういうことなんでしょうか?
もちろん、芸風みたいなものにも
よるんでしょうけど。
三宅 ひとりで芸をやっておもしろい人と、
誰かと一緒にいるとおもしろい、
という人の差かもしれないですね。

たとえば、
たけしさんとさんまさんで言うと、
『ひょうきん族』をやっているときに
思っていたことが、ひとつありまして。

たけしさんは、
ひとりでしゃべる芸をやっていても
おもしろいのですが、
さんまさんは、はっきりと
「ひとりではなく、
 ふたり以上になったときにこそ、
 予想以上のチカラを発揮する」
というタイプですよね。

「何人かがいる場所そのものを盛りあげる、
 ものすごい触媒になる」と言うか……。

他にはたとえば、
萩本欽一さんも、そういう
「ふたり以上」のタイプだと思います。

一方の、ピンでもいける
「たけしさんタイプ」
と言えば、小堺一機くんも、
そうだと思っていますけど、
たけしさんも、小堺さんも、
楽屋でひとりで本を読んでいたり、
飲み屋でもひとりで
寡黙に飲んでいるのが
よく似合ったりするんです。

そこは、打ちあげで盛りあがる、
萩本さんやさんまさんたちとは、
絶対に違うところなんですね。


だから、ぼくは、そういうところが
「ふだん、おもしろい人」
かどうかの差だと思いました。
糸井 なるほどなぁ。
  (明日に、つづきます)

今日のひとこと:

「ふだんもおもしろい、と言われる芸人さんは、
 『ひとりではなく、
  ふたり以上になったときにこそ、
  予想以上のチカラを発揮する』
 というタイプなのかもしれません。
 何人かがいる場所そのものを盛りあげる、
 ものすごい触媒になる、と言いますか。
 ピンでもいける芸人さんは、
 楽屋でひとりで本を読んでいたり、
 飲み屋でもひとり寡黙に飲んでいるのが
 よく似合ったりするんですよね」
                (三宅恵介)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-01-TUE

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