音楽やってる女子高生通信
(from N.Y.)

『VOL.3』
まだまだ続いていきます・・・

前回、10月にも一週間帰国しているのですが、
その時の飛行機では隣人がほんともう・・・
涙がでそうになりました。
今は思い出すと笑って涙が出そうですが。

飛行機はとても混んでいて、
でもわたしの隣だけ空いていて、
そのまま飛び立ったの。
で「やった」と思い、いつものように
CDやローションや色々置いて
「自分の部屋」化させていました。

飛び立って20分くらいたった頃、
スチュワーデスの方がやってきて、
「大変申し訳ないけれど
隣の席に誰か座ってもいいですか」と聞いてきた。
説明によると、
スモーキングセクションに座ってしまった人が、
たばこの煙アレルギーだったそうで、
席を変えなくてはいけないということでした。
もちろんいいですよと応えました。

すると、スチュワーデスに案内されて、
50代くらいの韓国人のおばさんが
ビニール袋に入った細々とした荷物を
たっくさんかかえて座ってきました。
わたしに向かって「ニコ」
(正直いうと“ニヤ”と見えてしまったのですが・・・)
としてくれたので
「ニコ」とかえして、これから14時間にわたる隣人が
いい人で良かったと思ったのです。

ところが・・・数秒して、
「あれ、なんかおかしいな」と気付き始めた。
それは、強烈な“ニオイ”なのでした。
今まで、韓国人はキムチの匂いがするというのは、
「まあそうだけどそんな言うほどひどくもないよね」
と思っていました。
だけど、今回のは「そんな言うほど」キツいものでした。
わたしはキムチ大好きだけど、
食べ物としてのキムチの匂いとはちょっと違う。
彼女のは、「生活としてのキムチのニオイ」
とでもいうのかな・・・。
完全に髪に皮膚に服に染みついた、
歴史としてのキムチのニオイなんですね。
日本人は「タクワン」のニオイがして、
たまらないという人もいるそうです。
空港に着いて飛行機を降りたときから、
日本の「タクワン」はぷんぷん匂ってるって。
それぞれの国によって、いろいろあるのですね、きっと。
そういうことなのだろうなぁ、とは思うのですが、
直接に隣から来るのは、また格別でした。
なんともいえない、にんにくと焼けたゴムが
混ざったようなニオイ。
にんにくラーメンとか食べた翌日の、あの。
それに気付いた瞬間、どんどん意識してしまって、
とても失礼だけど、かなりわたしも弱ってきて、
それを外に表わさないようにしながらも、
とっても焦っていました。

これから14時間、どうしよう、どうしよう、とパニック。
わたしが意識を他へ移すよう懸命に努力している最中、
その人はゴソゴソと席を「自分の部屋」へと模様替中。
かばんの中から、ドラエモンのように色々出てくる。
次から次へと、マッサージ器具が出てくるんです。
カタログで売っているような
丸いコロコロなる銀のボールとか、へんな棒だとか、
極めつけは足の裏をコロコロさせる板(!)まで出てきて。
次はビニール袋に包んだ聖書を
懸命に座席のポケットに詰め込んで
(ちなみに14時間中一回も読まなかった)、
それから満足そうに靴を脱いで足の裏を
「コロコロ」させはじめました。

わたしは「もう寝るしかないかな」と結論し、
機内食を食べたいものだけ食べ、
さっさと寝の体勢に入ったのに、全く眠れない・・・。
自分に対して寝たフリをしているような眠りしか来ない。
その人は寝たかなーと思ったらすぐ起きてきて、
寝ている時と食べている時以外は
ずううっっっっとコロコロと音の鳴る銀色の
マッサージボールみたいのを
二つ片手の手のひらで回しているのです。
気になりだしたらきりがないので、
もう何にも注意を向けないように気をつけて、
そうこうして何時間か過ぎ・・・。

一本目の映画もクライマックスに近づく頃、
隣がゴソゴソゴソゴソし始めた。
内心「今度はなんなのお〜」と悲しくなりながら
ブランケットから顔を出すと、「彼女」は
銀色のボールを一つ落した、
といって周りを騒がせていました。
あたりは真っ暗の中、通路に出て席の下を覗きこんだり、
しまいには後ろの人をわざわざ起こして
その人のエリアを探させていました。
5分後、彼女の大切なボールは無事見つかり、
またまた満足そうに彼女は落ち着いて
ボールをカラカラと片手で回し始めました。
でも、見つかって満足そうなのは
絶対彼女だけだった・・・。

こんなふうにくるしんでいる最中、
左斜め後ろに座っているおじさんは、
14時間ずうーーーーっと、口の中で「ニチャ、ニチャ」
という微かな音をたてていました。
入れ歯の隙間が気になるのかなんだか、
よく解らないけれど、すごく控えめに言い表しても
それは「不快」な音で、
音に敏感になってしまうわたしには「苦しみ」でした。
しかもその人、一睡もしないで
ずっと音をたててるの・・・。

飛行機が無事成田に着いて
これほどホッとした事ってなかった。
忍耐力が極度に試される14時間でした。
「隣人を愛する」という原則は
時おりとても難しい・・・。

ところで、全く関係のないはなしですが、
坂本親子同時発売のため、ポスターが限定で作られて、
その写真がまた本人ながらとっても
「イイ!」と思っていて、今大のお気に入りなんですが、
そのコピーが最高。
「ふたりとも坂本です。」
あの写真だからこそなおさら良い。
知り合いのライターの方に
「あれ絶対イトイさんでしょ!!!」と言われた。
違うんだけど、そういえばすごーーくイトイさんっぽい。
雑誌やレコード店などでも見られるかもしれないので
見てみてね。

1998-12-16-WED

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