「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
名前その24 シロツメクサ
「野川公園」をゆっくり進む、梅田さんと吉本さん。
広い公園なので、川辺までは
まだもうちょっとの距離があります。
ふと、気がつくとこんな場所に‥‥。
シロツメクサ。いちめんのシロツメクサです。

吉本 わあ、いいところですね。
梅田 ええ、このあたりにはシロツメクサが。
吉本 なんだかすごい気持ちいい。

梅田 白い花が咲くクローバー。
これの日本名が、シロツメクサなんです。
吉本 そういえば、
赤い花のクローバーもありますよね。
梅田 シロツメクサは、江戸時代の末期に
オランダからやってきたと言われています。
吉本 オランダから。
梅田 ええ。
ギアマン‥‥というのはガラスのことですね。
ギアマンのうつわが
オランダから日本に運ばれてきたときに、
ガラスが割れないよう、
緩衝材として、乾燥させたこれが
箱の中に詰められていたのだそうです。
吉本 クッションのために。
梅田 そうです。
白い花が咲く、詰め物に使った草だから‥‥
吉本 シロツメクサ!
梅田 それが名前の由来と言われています。
吉本 へえー、そうなんですか。
そのエピソードは覚えやすいです。
梅田 で、このシロツメクサの
花っていうのはですね、
‥‥ちょっと、ひとついただきましょう。
(手折る)
ほら、見てください。
吉本 はい。

梅田 上を向いて咲いている花と、
下向きの花があるでしょ?
吉本 ええ、あります。
梅田 下を向いているのは、
花が終わっているんです。
つまり、虫が‥‥
吉本 あ、虫が蜜を吸ったんだ。

梅田 はい。
受粉して咲き終わった花は、
下向きになるんです。
で、まだ受粉してない花は
蜜を吸いやすいように上を向いている。
吉本 あー、なるほどぉ。
「来い、来い」って言ってるんですね。
梅田 そうそう。
吉本 へええー。
この子たちは、お利口なんだ。
そうなんだあ。
川辺に向かう途中で、思いがけずあらわれた、
みごとなクローバーのカーペット。
おふたりの足は、ついついここで止まってしまいました。
次回は川にたどり着くのでしょうか?
なんだかもうちょっと、ここにいそうな気配ですよね。

「シロツメクサ」の名前は
もちろんみなさんご存じでしょうけれど、
その由来は意外でした。
こういうことを覚える「みちくさ」も、たのしいですね。

次の「みちくさ」は、金曜日に。
「のがわでみちくさ」編は、
火曜日と金曜日の更新でまいります。

ご紹介したみちくさについての 感想やご指摘など、お待ちしています!

 
吉本由美さんの「シロツメクサ」
 
小学校上級生の頃だから50年も前の話になり、
半世紀前! と自分でもびっくりしたのだけれど、
それはともかくその昔、学校帰りには遠回りして、
住宅地の先にわずかに残された原っぱに寄り道した。
春から初夏にかけてのそこはいちめんクローバー畑になる。
ランドセルを放りだし、せ〜の、で、
密集度のいちばん高い、
緑がもこもこと盛り上がっているところへ走り込む。
そしてみんなでいっせいに
棒っきれのようにバタンと倒れた。
倒れると、むっと草の匂いが沸き立ち、
何重ものやわらかな小さい葉っぱたちに
顔を深々と包まれた。
タンコブが出来ることなど一度もなかった。
梅田さんからツメクサ(詰草)の名の由来を聞いたとき、
半世紀も前の、そんな、
記憶の襞に埋もれていた一場面が蘇って、一人笑った。
そして、なるほどー、と感心した。
あのたくさんの葉っぱをふわふわに乾燥させれば
そりゃあ詰め物として最適だろうなあ、と。
たいへんお洒落なパッキン材になるだろうなあ、と。

シロツメクサ(クローバー)は明治時代、
牧草として大量に種子が輸入され、
日本各地に生息地を広げた帰化植物だ。
葉は地上を這い、
茎の節から根を出すため“踏みつけ”に強い。
通常、葉は三つの小葉からできているが、
四つ葉(幸福になるとか)や
五つ葉(不幸になるとか)もある。
それは遺伝子の突然変異によるものらしいが、
“踏みつけ”によるストレスなども関わっているのでは?
という説もあって、考えさせられた。
もし踏みつけストレスで葉が増えるのなら、
「世界一多くの葉を持つクローバー」として
現在ギネスブックに登録されている、
2009年5月に岩手県花巻市で発見された
“56枚葉のクローバー”の、
そのストレス量たるやいかほどだろうか。
花巻には牛がいっぱいいるものなあ。

梅田さんの“花の向き”の会話の補足。
シロツメクサの花を“頭花”と呼び、
花茎のてっぺんに小さな花が集まって
ポンポンみたいに丸くなり、
そこで順繰りに開花を待つのだ。
開花前の蕾はぜんぶ上向きに付いている。
が、受粉して咲き終わった花は下を向く。
これは、訪れる虫に「もう私は終わりました」、
「受粉を待っているほかの花を訪れてみてください」
と告げるサインで、
どこかしら『源氏物語』を彷彿させるが、
一つの頭花がまんべんなく受粉するための工夫という。
毎度のことながら植物の知恵に頭を下げているわけである。

2009-08-04-TUE
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