「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
〜プロローグ〜 初夏の川辺で「みちくさ」しましょう。
2009年、6月末の月曜日。
シリーズ3回目も、
雲におおわれた空の下での「みちくさ」になりました。

今回、先生をお願いしたのは、
「武蔵野自然塾」という団体で
自然観察の指導をされている、梅田彰さんです。

吉本由美さんとの「はじめまして」のごあいさつは、
東京西部郊外にある「野川公園」
ベンチに座って行われることに。
広々とした公園で、まだ人のすくない午前中に、
おふたりの会話は、しずかにはじまりました。

初夏の「みちくさ」に出かける前の、
プロローグのようなものとしてお読みください。

吉本 はじめまして、
よろしくお願いします。
梅田 こちらこそ、
よろしくお願いします。
 
吉本 きょうは、ちいさな川のほとりを歩きながら、
みちくさのことを教えていただけるんですよね。
梅田 はい、「のがわ」という、
多摩川支流の一級河川です。
東京の西部から世田谷の方まで続く川で、
コンクリートで護岸されていない部分が多いので
とても景観がいいんです。
東京都なのに、自然がたくさんありまして。
吉本 街の中とは出会うみちくさもちがうんでしょうね。
たのしみです。
梅田さんは、武藏野にお住まいなんですか?
梅田 はい、そうです。
吉本 じゃあここは、お庭のようなものですね。
梅田 いや、ぼくは公園はあんまり。
観察指導などは山の方に行きますので。
 
吉本 山というと、たとえば?
梅田 遠いところですと、子どもたちをつれて
長野県の川上村ですとか。
そこには武蔵野市の
「自然の村」っていうのがあるんです。
あるいは市民をつれて青梅丘陵とか、
伊豆の函南原生林、
大月のあたりの竜門峡とかですね。
そういう場所で、いろんなお話を
させてもらってます。
吉本 梅田さんのプロフィールをいただいたんですが、
すごいですね、
なにか肩書きがたくさんおありになって。
 
梅田 自然環境のインストラクターといいましても、
いろんな分野があるんです。
動物もあれば昆虫もあれば植物もある。
子どもたちといっしょに遊ぶゲームも、
キャンプも、それぞれに資格がある。
それぞれ違うんです。
吉本 はい。
梅田 当然ですが、指導する側は
勉強しなければならないというわけですね。
たとえばキャンプの資格を持ってない人が
子どもたちをキャンプに連れていって
怪我をさせちゃったら
たいへんなことになりますので。
それはもう必須条件みたいなもので、はい。
吉本 それは、すこしずつ取得されたんですか?
梅田 定年になって、さあやろうと思ってから
1、2年間でぜんぶ取りました。
吉本 失礼ですが、いまおいくつなんでしょう。
梅田 67です。
吉本 定年の前は、こういう活動は
なさってなかったんですか?
梅田 そうですね、ほとんどしてません、はい。
最初の1、2年間で15種類の資格を取りました。
 
吉本 そんなに短期間で。
だって1年間って、12カ月なのに(笑)。
梅田 はい、ですから
毎月なにかしらの勉強をしては、
資格を取っていました。
吉本 以前はどんなお仕事を?
梅田 私はですね、学校では
経済学をやった人間なんですが、
卒業後は製鉄会社に入りました。
吉本 大学は早稲田で。
梅田 ええ。
大学で経済学をやって、製鉄会社に入って、
60からは自然環境、というわけです。
吉本 急に、自然環境なんですね。
梅田 まあ、小さいときの原体験といいますか、
自然の中で遊んだ記憶が強くありましたので、
今の子どもたちがあまりにも自然から
離れ過ぎてるように思えたんですね。
ちょっと大げさに言えば、
危機感と申しましょうか。
 
吉本 はい。
梅田 とにかく子どもたちを、
自然から離れないようにしようということで、
始めたわけです。
吉本 きょうはみちくさの案内をお願いしてますが、
ほんとうは樹木がご専門なんですよね。
梅田 いちばん最初に力を入れたのが
森林インストラクターでしたので、
どちらかというと樹木の方なんです。
吉本 草よりも、樹なんですね。
梅田 はい、そっちが主体です。
それでも、森の中には草も生えてるわけで、
ですから森の中の山野草はわかるんですが、
町の中の植物となりますと‥‥。
今はもう、外来雑草がほとんどですし。
きょう、すてきな植物があるかどうか。
吉本 見つけたものを教えていただければ、
きれいな植物でなくてもかまいません。
なんでもない植物の名前を覚えたいので。
梅田 お役に立てるといいのですが。
吉本 その帽子は、
いつもかぶってらっしゃるんですか?
 
梅田 そうですね、これね、ヤブコギするとき‥‥。
あ、ヤブコギっていうのは、
背の高い植物が密集した場所を
かきわけて進むことです。
藪を漕いで進むから、藪漕ぎ。
そのときに、この帽子だと、
枝や草が目に当たらなくていいんです。
吉本 なるほどたしかに、
それなら目に当たらないですよね。
梅田 それからちょっとした雨。
これがあれば、少々の雨なら大丈夫です。
吉本 とてもお似合いです。
梅田 ありがとうございます(笑)。
子どもたちに話をするときは、
集中して聞いてくれるんです、
これをかぶっていると。
吉本 ああ、そういうものかもしれない。
梅田 小道具なんです。
こういう格好のほうが、
子どもたちは興味を持ちますので。
ただの白髪の老人が喋ってるよりも(笑)。
 
吉本 そんな(笑)。
梅田 ‥‥(空を見て)ちょっと、
急いだ方がいいかもしれませんね。
吉本 ああ、あんなに黒い雲が。
梅田 さ、まいりましょう。
吉本 はい。
ベンチを離れ、吉本さんと梅田さんは、
広大な公園をまずは東に向かいます。
周囲にはもちろん植物がいっぱい。
最初はどんなみちくさのお話になるのでしょう?

「みちくさの名前。」の本編は、
8月4日の火曜日からスタート。

武蔵野のちいさな川のほとりで出会った植物の写真に、
吉本由美さんのエッセーを添えてご紹介してまいります。
更新のたびに、ひとつずつ、
いっしょに名前をおぼえていきましょう。

2009-08-03-MON
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