「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その10 クリスマスローズ
ここまでずっと、代々木公園で出会った順番どおりに
「みちくさ」を紹介してきました。
でも、きょうはとくべつに、
まだ雨が降っていたころへ時間を戻そうと思います。
この名前をおぼえるのは、
やっぱり、きょうのこの日がいいですよね。
 
柳生 吉本さん、
これちょっと見てください。
吉本 ずいぶん大きい葉っぱですね。
柳生 たぶん、だれかが植えたんだと思います。
ぼくもこれ大好きなんですよ。
吉本 なんていう名前なんですか?
柳生 クリスマスローズです。
 
クリスマスローズ
分類/キンポウゲ科
学名/Helleborus
  開花期/2〜3月
吉本 クリスマスローズ。
柳生 もうすこしすると、
つぼみが出てくるんですよ。
吉本 じゃあ、冬に向かって?
柳生 そう。クリスマスローズは別名を
「ゆきおこし」っていって、
積もった雪を起こしながら
つぼみが、花が上がってくるんです。
吉本 寒さに強いんですね。
柳生 ぼくの家がある八ヶ岳でも大丈夫です。
吉本 へえー。
柳生 で、これがおもしろいのは、
ぜーんぶ人間の顔のように、
それぞれにちがう花が咲くんです。
吉本 そうなんですか。
柳生 クリスマスローズにはまると
抜けられなくなるのは、そこで。
吉本 どんな花なんでしょう‥‥。
柳生 すごくシックな花です。
最近は花屋さんでいい顔の子を見かけると、
「もう2度とこの子には会えない」
なんて思うようになっちゃって(笑)。
吉本 そんなに。
柳生 植える場所も考えずに、
つい連れて帰っちゃってますね。
 
吉本 日本の花ではないですよね?
柳生 そうですね、東欧のほうです。
あとは中国も。
吉本 そうかあ‥‥これからつぼみが出て、
クリスマスのころに咲くから‥‥
柳生 それがですね、
花を咲かせるのは2月ころなんです。
吉本 じゃあ、なぜその名前に?
柳生 12月に花を咲かせる種類が、
ひとつだけあるんですよ。
吉本 1種類だけ。
柳生 ええ、もともとはそれを
クリスマスローズとしてたんですが、
園芸屋さんが「それはいい名前だ」と、
「いっぱい売れる」と(笑)。
吉本 あー。
柳生 それでこの仲間の名前をぜんぶ、
クリスマスローズにしちゃったという。
日本だけです、
この仲間をクリスマスローズと呼ぶのは。
ローズといってもバラじゃないですし。
吉本 やっぱり。
これバラじゃないですよね。
柳生 花がちょっとバラに似てるんです。
笹じゃないのに「チヂミザサ」とか。
日本では、似てるっていうだけで
花の名前をつけちゃうんですよねー。
吉本 なるほど‥‥おもしろいです。
でも、それってちょっと混乱しますね(笑)。
 
はい、たしかに混乱します。
クリスマスローズという名前なのに、
12月に咲くわけでも、ローズでもない‥‥。
そのことをおぼえるようにいたしましょう。
これも、花が咲くころに
あらためてじっくり見てみたいですね。

次の「みちくさ」は、明後日に。
月・水・金の更新でお届けします。
 
吉本由美さんの「クリスマスローズ」
 

寒い季節にバラの花が咲いた
なんて聞いたことがないのに、長い年月、
クリスマスローズとはクリスマスの頃に咲くバラのこと、
とばかり思っていた。
なので地面に地味ィ〜に広がっている黒っぽい葉っぱを
「これ、クリスマスローズです」
と柳生さんに教えてもらっても、にわかには信じられない。
これ、なんだか庭の北向きの
便所の裏あたりに植わっている植物みたいだ。
いや、それが悪いって意味じゃなくて。
庭の北向きの便所の裏だからこそ
人は緑が欲しくなるのでもあり。
いや、でも、しかし、バラは植えないだろう、バラは。
柳生さんが指さしているのは、
便所の裏ではないにしても
大きな木々に囲まれて鬱蒼とした一角である。
そんなところにバラが咲くか?
しかも冬に、と、頭がこんがらがってきた。

結局バラとは何の関係もないのが判って多少落ち着く。
紛らわしい名前だが、どんな花が咲くのかしら
と家に帰ってさっそく牧野先生を取り出した。
ところが載っていなかった。
ということは、我が国で広がったのは
牧野先生の大図鑑が作成された後ということか。
念のためほかの植物図鑑を開くと、
こちらにはしっかり登場している。
あらら、かわいい、かわいいじゃないの。
バラとはまったく違うタイプの小さな花が
何種類も何色も並んでいた。
バラよりキキョウとかケシの花寄りの清純派である。
何々、花びらのように見えるのは実は萼で、
花弁は退化している、とある。
ローズというがバラではなく、
花に見えるのは花ではなく‥‥か。
結構ややこしく生きてきたらしい。

2008-12-24-WED
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