「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その11 チカラシバ
ふたたび、雨上がりの代々木公園。
「あ、ここにもミズヒキ」
「ドクダミもありますね」
と、おふたりの散策は続いています。
 
柳生 わ、すごいきれいなのがある。
みてください吉本さん、これ。
吉本 これは、ここまでになかったですね。
柳生 この穂、きれいですね。
なんていう名前でしょうね?
 
吉本 え? 柳生さんにもわからないんですか?
柳生 ええ、知らないです。
ああ、これ、好きだなあ。
吉本 ススキのお友だち?
柳生 どうでしょうかねえ‥‥。
いいなあ、何だろう、これ。
吉本 柳生さんでもこうやって歩いてて、
見たことないのに出くわすんですね。
柳生 いや、もう、そうですよ。
ぼくは園芸のほうをやってるっていうのも
ありますけど、いわゆる雑草については
見たことがないものもあれば、
まちがえちゃうことだってあります。
吉本 そうなんですか。
柳生 糸井さんも書かれてましたが、
「たぶん」をつけつつ答える
みちくさの名前も多いですよ。
でも、それが言えるだけですごくたのしい。
吉本 はい、そうですよね。
柳生 あと、ぼくは、
「何だろう?」が好きなんでしょうね。
その「何だろう?」が減らないんですよ、
植物については。
吉本 たくさんあるから‥‥。
知ってるのばっかりだったら
おもしろくないかもしれないですね。
柳生 もう、ぼくなんか、
知らないことがいっぱい(笑)。
吉本 そしたら、わたしなんてもっとです(笑)。
柳生 このみちくさの名前をぼくが知らなかったこと、
記事にするときに伝えてくださいね。
知らないものがいっぱいあるっていうことを
ちゃんと知ってもらいたいので。
 
吉本 わかりました。
柳生 で、これの名前は調べさせてください。
あとでお教えします。
吉本 はい。
柳生 そうすると、ぼくもこれのおかげでひとつ、
みちくさの名前をおぼえられますね(笑)。
吉本 どんな名前かたのしみにしてます。
柳生 それにしても、
これは、いいですねー。
うちの庭にほしいですよ。
猫の尻尾みたいで、きれいだなあ‥‥。
 
後日、八ヶ岳の柳生さんから連絡が届きました。
このみちくさは「チカラシバ」という名前だったそうです。
 
チカラシバ
分類/イネ科 チカラシバ属
学名/Pennisetum alopecuroides
  開花期/秋
草丈/50〜80センチ
柳生さん、わざわざの調査をありがとうございました。

どんなみちくさなのかは、
吉本さんのエッセイをぜひお読みください。
柳生さんがひとめぼれしたチカラシバは、
なにやらかなり、個性的な子だったようですよ。

次の「みちくさ」は、来週の月曜日に。
代々木公園編は、のこすところふたつのみちくさです。
 
吉本由美さんの「チカラシバ」
 

それは代々木公園奥の一角の、
あまり人の来ない静かな遊歩道の脇で、
何本もの花穂を扇の形に広げ繁っていた、
というか、生えていた、というか、
う〜ん、花穂だから咲いていたというべきか。

柳生さんは一目で気に入ったらしく
「これは見たことないなあー」
「でも、いいなあー」
「好きだなあー」
「連れて帰りたいなあー」
「ウチに植えたいなあー」と、
天下の美女にでも巡り会ったように興奮している。
ふ〜む、人の好みはさまざまだけれど、
蓼喰う虫も好きずきだけれど、
この草のどこが柳生さんをしてああまで賛美させるのか、
いまひとつ私には突き止められない。

確かにぜんたいのフォルムから言えば、
都心の小じゃれたホテルのロビーなんかに飾られている
モダン生け花の削ぎ落とされたシンプル美、
と共通するところがあるかも知れない。
葉はすっと細く尖って鎌のようだし、
茶色の大きな花穂は、渋くもありゴージャスでもある。

その場ではさすがの柳生さんも名前が判らず、
数日後に連絡が来た。
「チカラシバ」であると。
シンプルながらゴージャスな
洒落た大人の美女をイメージしていたので、
ごつい音を含む名前は意外である。
チカラシバ‥‥何とも強そうな名前だなあ。
例によって『牧野植物大図鑑』を開く。
チカラシバ、ありました。
非常に強いひげ根を地中に下ろし、
抜くのが難しいほど丈夫な株になる、と。
だから和名が力芝。
増え始めたら、ちょっと手に負えない感じがするぞ。

柳生さんたら連れて帰りたいなんて言っていたけど、
まさか、そんな、大丈夫かしら。
今、まさに、私の脳裏を、美しくタフな悪女に
翻弄される男の姿がかすめて行くのだが。

2008-12-26-FRI
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