マクゴニガル姉妹がやってきた。

(今日はケリー・マクゴニガルさんによる
「ほぼ日」での講義の内容をご紹介します)

はじめまして、ケリー・マクゴニガルです。
わたしのほうは今日は、
「ストレスについての新しい視点」について、
ご紹介したいと思います。
スタンフォード大学でのわたしの授業を、
とても小さな規模で行っているというつもりで
やってみますね。

わたしは健康心理学者です。
そして、ずっと
「ストレスは敵だ」と学んできました。
ストレスは敵──ですから、
わたしの役目はみなさんに
「ストレスをどう避けるか」
「どう軽くするか」「どう無くすか」
といった方法を伝えることだと思ってきました。

またわたし自身、日々のなかで
ストレスを強く感じるタイプで、
そのことも非常に問題だと考えてきました。

たとえば、今日のように
おおぜいのかたの前で講義をするとき、
わたしはひどく緊張します。
あまりにストレスが大きいので、ずっと
「自分には欠陥があるんじゃないか」
「もっとストレスを感じない人にならなくちゃ」
と思ってきました。
「このストレスが原因となって、
逆に失敗するんじゃないか」
と感じることも、よくありました。

また、わたしはとても心配性なんですね。
家族や友人のことを心配しすぎて、
ネガティブな気持ちになることがよくありました。
これもまた自分にとって大きなストレスで、
どうすればいいんだろうと考えてきました。

そんなふうにわたしは
自分の人生において、昔から、
自分がストレスとうまく付き合えている感覚が
まったくありませんでした。
そしてずっと
「ストレスを避けなきゃ」と思ってきました。
ストレスに向き合うのではなく、
ストレスから逃げることばかり考えてきたんです。

ですが、ストレスを避けてばかりいると、
さまざまなチャンスを逃してしまうことがあります。
たとえばわたしは飛行機が苦手で、
乗ることで大きなストレスを感じるため、
できる限り避けるようにしていました。
ですが、そうしたことが理由で
チャンスを逃すことが、ずいぶんありました。

そんなことが積み重なって、
わたしはだんだん
「自分のストレスに対する考え方は
なにかが間違っているんじゃないか」
と思うようになりました。

‥‥さて、あるときのことです。
ストレスについての研究論文を読んでいると、
わたしはストレスについての
まったく新しい事実を知ることとなりました。
なんとその研究結果から考えると、
「ストレスは敵ではない」というのです。

それは、1998年にアメリカで3万人を対象に
おこなわれた調査でした。
その調査では人々に、
次の2つの質問をしていました。

  1. 1)あなたはこの1年間でどのくらいの
      ストレスを感じましたか?

  2. 2)あなたはストレスは健康に悪いと思いますか?

また、その調査では、
8年後におこなった追跡調査で、
最初の調査に参加した人たちのうち、
どの人が亡くなったかを調べていました。

調査の結果はこうでした。

まず、強度のストレスを感じていた人々は、
死亡リスクが43パーセント上昇していました。
これは、それまでのわたしの
予想していた通りの結果でした。

ですが、ここからがわたしの驚いたところです。

結果をさらに調べていくと、
死亡リスクが高まっていたのは、
「ストレスを感じていた人のなかでも、
『ストレスは健康に悪い』と考えていた人だけ」
だったんです。

そして、強度のストレスを感じていても
「ストレスは健康に悪い」と考えていなかった人に、
死亡リスクの上昇は見られませんでした。
それどころかこの人たちは、
参加者のなかで、もっとも死亡リスクが低かったのです。
つまり、ストレスがほとんどない人より、
強いストレスを感じながらも
それをポジティブに捉えていた人たちのほうが、
死亡リスクが低かった。

また、別の研究論文では、
「人生の満足度が高い幸せな人々は、
ストレス度がすごく高い」
という結果もでていました。
人生の満足度が高い人たちのストレス量は、
鬱状態の人たちが感じているストレス量よりも、
ずっと高いレベルにあったのです。

つまり、整理をすると、
「強いストレスだけで
死亡リスクが上昇するわけではなかった。
強いストレスを感じ、なおかつ、
『ストレスは健康に悪い』と考えた場合のみ、
死亡リスクが上昇していた。
さらに強いストレスは、捉え方によって、
人生にいい影響を与えている可能性もあった」
こういうことだったんです。

わたしは衝撃を受けました。
それまでわたしは健康心理学者として
いろいろなかたに
「ストレスを避けるように」と伝えてきました。
ですが、それは事実ではありませんでした。
さらに、わたしの伝えた内容によって
「ストレスは健康に悪い」と思いこんだ人が
増えていたとしたら‥‥。

つまり、わたしが今日みなさんに
お伝えしたいのは、このことです。

ストレスは敵ではありません。
減らそうとしたり避けたりする必要はなく、
「どう捉えるか」がなにより大事、ということです。
強いストレスを感じても、
あなたに問題があるとか、人生がおかしくなっているとか
そういうことではないんです。

では、ストレスというのは、
いったいどういう状態なのでしょう?

ストレスは、
「自分にとって大切なものが
脅かされている状態」です。

そして、ストレス反応というのは、
脳や体がわたしたちに
「この部分に集中してください」
と伝えようとしているシグナルです。

たとえば、暗い考えを
やめられなくなるときがあります。
これは脳が「そのことに集中して!」と
教えてくれているということです。
心臓がバクバクするときは、どうでしょう。
これは体があなたに
エネルギーを与えようとしているんです。
お腹が痛くなるときは?
体がその場所に注意をうながしている状態です。

どんな場合でも、ストレス反応の原因は、
脳や体がわたしたちに
「困難に立ち向かう力」をくれようとしているから
‥‥ということなんです。

ストレス反応が起こると、たいていの人は
「抑えなくちゃ」「気にしないようにしよう」と考えます。
リラックスして考えないようにしたり、
お酒で忘れようとしたり、
環境自体から逃れようとしたりすることもあります。
もちろん、そういう対処法もあります。

ですが、ストレスとの付き合い方が
すごくうまい人たちは、
同じストレス症状に直接向き合って、
さらに、利用します。

たとえばオリンピックに出るような
世界レベルのアスリートたちになると、
まったくストレスを感じないようなイメージが
あるかもしれません。
ですが実際は、大事な試合の前などには
ほとんどの選手が激しく緊張したり、心配したり、
途方もないストレスを感じています。

ですが、そうしたトップレベルのパフォーマーたちは
自分の体のストレス反応を信頼しています。
そして、ストレスに直接向き合います。

たとえば彼らは心臓がバクバクすると、
「よし、体が準備に入ったぞ!」と考えます。
また競技のことがすごく心配になったときは
「なぜこうも気になるんだろう?」と、
不調や問題点を探るヒントにしようとします。
そんなふうに自分のストレス反応を
「いまの自分に役立つ情報」として考えるんです。

この姿勢は、スポーツ選手に限りません。
さまざまな業界におけるトップの人たちは、
ストレス反応が出たときに、
そのことをよりいい結果を出すための道具として
うまく役立てようと考えます。

たとえば先日、歌手のビヨンセがレポーターから
「その圧倒的な自信の秘密はなんでしょう?」
と聞かれて、こう答えていました。
「わたしもよく緊張しています。
だけど、緊張するのは自然なことだから、
わたしはいつも、緊張すると
この緊張を活かして頑張ろうと考えるんです」

このように、人生をすごくたのしんでいる人は、
圧倒的なストレス状態の中にいても
「ストレスを減らそう」とは考えません。
どう使えるかを考えます。

ハーバード、スタンフォード、コロンビア大学などの
ストレスの研究者たちも、同じように言います。
「ストレスを感じたら、それは自分が使える
エネルギーだと思ってください」

ですからみなさんもどんな状況でも、
ストレスを感じたらぜひ、
それを、脅威ではなくて
エネルギー源だと考えてみてください。

たとえば、むずかしい試験の前や、
大きなプレゼンテーションや講演の前、
重要な交渉をする前、
次の競技で全てが決まる試合の前‥‥。
ストレスは自分の味方だと思ったほうが、
テストでいい点を取れます。
トークもうまくいきます。
交渉は成立しやすくなります。
いいパフォーマンスができて、いい結果が出ます。

それでは最後に
このお話を覚えておいていただくために、
ストレス反応が実際に起きたときの
具体的な対処法を復習してみます。

次にストレスを感じたときから使える、
とてもシンプルなヒントです。

その1
まず、ストレスを感じたら
「いま自分にはストレスがかかっているな」と
冷静に受け止めてください。

その2
次に、
「ストレスはそのことを大事に思っているからこそ
起こるサイン」
ということを思い出してください。
ストレス症状は脳と体が
あなたを応援しようとしている信号です。
「このストレスがあるということは、
まさにいま、脳と体が
わたしを応援しようとしてくれているんだ」
と考えてみてください。

その3
そしてそのまま、自分のストレスを
「利用できるエネルギーだ」と思ってください。
できれば実際に声に出して
自分自身に言ってみてください。
「このエネルギーを使って、どんなことをしよう?」
そこからどう行動するかは、あなた自身が決められます。

「こんなにストレスを感じるのは
すごく大事なことだから、いっそう努力しよう」と
目標に近づくエネルギーにしてもいいですし、
「どこが気になっているんだろう?」と
自分の本心を探るのに使うこともできます。
そのストレスの原因を自分ではどうしようもないなら、
エネルギーを、あえて別のもっと大事なことに
向けるという選択をすることもできます。

ぜひ捉え方を変えて、
ストレスを、自分を助ける道具として
活用してみてください。
このお話が、みなさんの毎日が
よりよくなるヒントになればと思っています。

わたしの講義は、以上になります。
ありがとうございました。


(一同拍手)

<つづきます>
2016-03-31 THU
協力: 株式会社タトル・モリエイジェンシー