STUDENT
家ができるための材料。
その天井は何からできてるのかな?
建築の雑誌の編集長を何年もつとめた多田さんが
年々興味を持つようになったのは、
「最先端の理論」でも「実験的なデザイン」でもなく、
建物ができてゆくための「素材」だったそうです。
木とか土とか、竹とか紙とか、そういうもの。

それって、どうしてだったんでしょう?
ちょっとでも家や建築に興味のある人なら、
きっと興味津々になる短期連載ですよー。

#2 「木」という材料の扱われ方。


みなさんこんにちは、多田です。
家の材料に関しての短期連載を、お送りしています。

・・・今日は「木の話」です。

案外知られていない、
「木という素材についてのミニ知識」
をお届けしてまいりますね。

前回に書いたような
「どのように、短期間で
 自然素材が人工素材にとってかわっていったか」
という例を、木の歴史にそくしてご紹介します。

遠回りのようですが、「素材」の話は、
はじまりに戻ってみるとわかりやすいのです。
・・・というわけで、
原始人になったつもりで想像してみましょうか。

家とは基本的に、風雨や外敵から
自分たちの身を守るシェルターです。
動物たちも巣をつくります。
私たちの遠い祖先も、長い時間をかけて、
だんだんと居場所を整えていったことでしょう。

「洞窟の中にいれば風雨や暑さ寒さがしのげる」とか、
「地面に草を敷いた方が具合がいい」とか、
そんな積み重ねだったんでしょうね。
そのうち、木を伐ってきて丸太の柱とし、
草やカヤや笹で屋根を葺く方法が普及してゆきます。
日本の土地は植物の生育に適していて、木は身近でした。

細かな歴史ははしょりますが、
道具が発達し、木と木を継いだり、接合する技術が生まれ、
日本では木造文化が育まれてゆきます。
法隆寺は1000年以上も前に建築されたわけですが、
既に高度な技術がうかがえます。

とはいえ、それはごくごく一部の建築における話。
その時代における最先端の素材や工法は、長きに渡って
寺社や権力者の屋敷に限って使われていました。
現代の木造の原型といわれる書院造が完成したのは
15世紀末のこと。

時代を経るにしたがって、建築技術はゆっくりと
一般の人たちまで普及していったのです。
そうして受け継がれてきた日本の伝統的な木材加工の
精度や美しさはちょっと感動ものですよ。
目の前にしたら、大工さんってこんなに緻密で難しいことを
やってるんだ、と、尊敬してしまうと思います。

そんな「自然から得た素材」を使って手づくりで
家をつくってきた長い歴史が大きく転換し始めたのは、
ほんの50年ほど前からでした。
背景には戦後の価値観の変化と石油化学の進歩があります。
木においても、工業化された建材が普及していったのです。

たとえば、「集成材」が多く使われるようになります。
これは、小さな角材を接着剤で集成した建材です。
ちょっと想像してみてください。
木を製材して得られる木材の大きさや形状は、
もとの樹木によって制限されます。

さらに、自然の木は、
節があったり割れがあったり均一ではありません。
太い木ならばよい部位が選べたりもしますが、
伐ったり運ぶのには手間がかかるし、
そもそも樹齢の長い木は数が少ない。
10センチ四方くらいの柱がとれる木が育つのに
比較的成長の早いスギの場合でも、50年ほどは必要です。

小さな角材に製材してから、強力な接着剤を使ってつなげば
幅も長さも奥行きも、
いくらでも大きな部材が工場でつくれます。
巨大な豆腐のようなブロック状にしてから、
横にスライスしていって、板状にすることもできる。
さらに、伸縮したり反ったりなどの狂いが出にくい、
品質が安定しているなどの便利さもありました。

現在、集成材は柱、梁など建築のさまざまな部材から
テーブルの天板までいろんなところで使われています。
そのまま使われていることもあれば、
上に「化粧」がなされることもあります。
化粧というのは、表面に別の素材を張ることです。

和室の柱などは、5枚の板を合わせた集成材のまわりに
1ミリくらいにスライスしたヒノキの薄い板
(突板。つきいたと呼びます)を張ることが多いようです。
見た目はヒノキの柱そのものですから、
たぶん、たいていの人にはわからないでしょう。
突板は、表層材として集成材以外にも広く使われています。

一方、大きな面積の板を一枚で得ようとするのに
便利なのが「合板」。
そうそう、「ベニヤ」と呼ばれているものです。
押入の内側や収納家具の引き出しの底板や裏板なら、
合板そのままが見られるかもしれません。

いくつかの製法がありますが、
たとえば、原木を大根のかつらむきのように
ぐるぐると数ミリの厚さにむき、所定の長さで切断、
3、5、7枚など奇数枚を
1枚ずつ縦、横と直交させるように重ね、
接着剤で張り合わせてつくります。
コンクリートを流し込むときに型にする枠とか、
床や屋根や壁の下地とか、ドアや板戸の面とか、
たいていは黒子的な存在で、
「化粧」をほどこして使われます。

合板だからこそ生まれたものもたくさんあります。
このところ人気のイームズのプライウッドチェアなんて、
合板を使った椅子のパイオニアですね。
「成型合板」といって、接着剤を塗布して型に入れて、
圧縮接着して望みの形にするのです。

このほか、木材を細かい小片状にし、接着剤でつないで
板状に成型したパーティクルボード、
より細かい繊維状にして成型した
インシュレーションボード、MDF、ハードボードなど、
木材を元にした人工素材はたくさん生産されています。
いつのまにやら、私たちの身の回りから
そのままの木材(無垢材。むくざいといいます)は
ほとんど姿を消してしまったのです。

それどころか、印刷によって
木目をほどこしたものも実にたくさんあります!
メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、
塩ビなどを使ったこれらは
塗装も必要なく、同じものを安価に生産できます。
テーブルの天板、本棚、収納家具、ドア、天井などの
木目の多くは、森でも製材所でもなく、
印刷会社の工場で生まれているんです。

その工程を取材したとき、担当者の方は得意そうに
いくつかの板を提示し、
「どれが印刷でどれが本物の木なのか、当ててください」
と言いました。
案の定、私はちんぷんかんぷんでした。
もちろん、印刷や加工の技術が高いということもあります。
でも、考えてみたらそれまで私は
本物の木の板をじっくり眺めたことがなかったんですよね。
だから、わからなくても当然でした。

無垢の木を意識して見るようになったいまでも、
どれが本物でどれが偽物か全部区別できるか、
と聞かれたら、わかりません、と答えます。
断面や裏側が見えているとわかりやすいのですが、
見えているのが表面だけだったり、
塗装が厚くかかっていたりするとなかなか難しい。
でも、年月を経たものだったらわかるかもしれません。
自然素材と人工素材は、
「年のとり方」が違うからです。

フローリングは、
無垢と人工の区別がわかりやすい建材です。
いまではフローリングはあたりまえに木の床として
扱われていますが、昔の板間はこれとは全く異なります。
古い家の板間のところどころに節穴があった記憶、
ありませんか。
台所の床の一部の板は1枚1枚外せるようになっていて、
その下(床下)に漬け物が置かれていたりもしました。
そう、あの板間は細長い板を1本1本施工したものでした。

さて、今のフローリングは何でできているのでしょう。
いろんな種類があるので、一概には言えませんが、
0・3〜数ミリの厚さのナラ(オーク)の突板を
1センチくらいの厚さの合板に張り付け、
塗装や強化、防虫加工などをほどこしたものが一般的です。
1枚はパネル状で、畳1畳を縦に3分の1にしたサイズ、
つまり、約30×180センチが多いようです。
板をつないで見えるようにデザインされている、
というわけです。

木目柄が多い和室の天井はどうでしょう。
単純にいうと、古い家ほど無垢の度合いが高く、
新しい家ではほとんどが突板を張った合板だと思います。
ローコストの家だと、プリントかもしれません。

家具の場合は「無垢」を売り物にしていない限り、
人工素材を組み合わせて使われています。
「え、わからない、うちのは何だろう」と思ったら、
きっと、ポリエステル樹脂化粧合板や
パーティクルボードが使われています。
無垢の家具を使っている人は、買うときに
わかっているはずですから。

日本は森林も多く、木造技術も優れて発展した国です。
木材、木目を観賞する文化も育まれてきました。

樹木は樹種や部分によって、固有の木目をもっています。
というより、季節による成長の跡だったり、
地中から水分を吸い上げる管の並びだったりするものが、
板にしたとき「木目」となり、その色目と共に
人間にとっては観賞や好みの対象になったわけです。
製材しただけではあまり目立たない木目も、
やすりをかけたり、塗装したりすると浮き上がってきます。

それを「デザイン」に置き換えられる、としてきたのが
この数十年です。
ここまで短期間に無垢材が駆逐され、
人工素材に置き換えられてしまった国も
ほかにないように感じます。
それが、日本の発展、経済成長の一面でもありました。
そんな時代、そんな場所で、
私たちは暮らしてきたのですね・・・。

ちょっと、ごちゃごちゃしちゃいましたか?
次回は草やワラなどから畳の話をしたいと思います。
楽しんでくださればさいわいです。


(つづきます)

2002-07-01-TUE

#1 素材に興味を持った理由


こんにちは!
「ほぼ日」スタッフの木村ともうします。

以前に2回の短期連載でお届けした
「カメの歩みの楽器。ピアノを弾く」
というページが、想像以上の好評だったんです。

プロフェッショナルではなく、
しかしまったくのアマチュアでもない人の視点が
新鮮だったから、だと思います。
著者の初々しさも手伝ったのか、
たくさんのメールをいただいたんですよね。

今日から開始するのも、数回で終了予定の、
ホントーに、「試しの短期連載」って感じです。
気楽に読んでもらえるとうれしいです。

先日、『土と左官の本』(建築資料研究社)
という本を編集した
多田さんという人にお話をうかがったのですが、
この方、建築雑誌の編集長を続けてきたという人。

建築家さんのコンセプチュアルな話も
これまでたくさん聞いてきたし、
さまざまな前衛的な建物もたくさん見てきたけど、
どうも、形以上に、「素材」に興味があるようです。

今回は、その多田さんが書いてくれた、
素材へ興味を持ったきっかけについての話を掲載します。


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<そのままの木って、ほとんどない>



初めて自分で家具を買ったのは高校生のときで、
組み立て式のカラーボックスでした。

板を組み合わせ、ねじで止めて箱をつくる。
背面となる薄い板を、
側面と底面に切ってある溝にさしこんで固定する。
価格が手頃だったし、
赤と白のツートーンがいいと思いました。

その次は初任給で買った、
あこがれのパイン・チェストです。
北欧製で組み立て式、値段は3〜4万だったでしょうか。
カラーボックスよりはずいぶんと高かったけれど、
それまで家にあったような
焦げ茶の箪笥なんかとは全然違う。
白木のナチュラルな木目がおしゃれで、
たいそう満足でした。

でもあるとき、ふと気になった。
「これって、ホントに木なのかな?」

普通、家具は板を組み合わせてできています。
板とは、木を伐って葉のついた枝をはらい、
幹の部分をスライスしたもののはず。
それとこれとは、なんか違う感じ。
じゃあいったい、これはなんだろう?
でも、とりたてて深く考えはしなかったのでした。

ずっと後、建築やインテリアを扱う雑誌の
編集に携わるようになって、
興味をもったテーマのひとつが「素材」でした。

畳って何からできているんだろう?
ふすまの中身はなんなのだろう?
この壁は何かを貼ってるのか?塗ってるのか?

床、壁、天井から収納まで、
なんでも載ってる建材メーカーのカタログを見ても、
素材に関しては、
よくわからないことがいっぱいありました。

どんなことでもそうだと思うけれど、
ひとつのことを突きつめてゆくと、
全体が見えてきたりするもので・・・。

「素材」を調べることは、ちょっと大げさにいえば、
戦後数十年の間、
経済や社会システムが変容してゆく過程をたどったり、
環境問題を考えることにもつながりました。

「なんでも鑑定団」のお宝鑑定の様子を見ていると、
なんでそんなことがわかるの、と驚かされるけれど、
同じものを目の前にしても、
人によって受け取る情報の量と質はまったく違う、
ということにも気づき始めたんです。

一度、目を向けるようになってくると、
それまでは単に「木」だと思っていたのが、
「これはケヤキ」「たぶんスギ」
「メイプルの突板(つきいた)」
という具合にあたりがついてきます。

専門の人に比べれば、全然へなちょこレベルだけれど、
「見る目」がだんだん成長してくるのが自分でわかります。
町でレストランやブティックに入っても、
テーブルや床が何でできているのか?
・・・それを想定できるようになってくると、
背後にある店のポリシーも垣間見えてくるものです。


私が高校生の頃に買ったカラーボックスは
「パーティクルボード」「合板」からできていて、
初任給で買ったパイン・チェストは、
「ポリエステル樹脂化粧合板」が主材でした。

カラーボックスはもちろんチェストにも、
「そのままの木の板」は使われていませんでした。

テーブルや収納といった家具だけではないんです。
フローリング、ビニルタイル、
天井板、窓枠、ドア、上がり框、柱……。
身の回りには、木目のついたものがたくさんあります。
でも、新しいものであればあるほど、
木がそのまま使われていることは本当に少ないのです。

「だからどう感じるか、どう解釈するか」
というのはその人の価値観次第だけれど、
それに気づいたことはちょっとしたショックでした。

私たちってイメージの世界に生きてるんだな、
とつくづく知らされたからです。

そしてそんなふうになったのは、
調べてみると、ここ40年ほどのことなのでした。
戦前までだったら、
「自分の家の柱や床板や土壁が
 どんなふうにできているのか」
「誰がどのようにつくったものなのか」
みんながごく普通に知っていたと思います。

縄文時代の人たちは、
地面の土を掘り下げ、丸太で柱を組み、
柱と柱の間に、竹などを縦横に組んで下地をつくって、
その上に草で屋根を葺いていたりしたと想像されるけれど、
なんと、ほんの数十年前まで
「家はその延長でつくられていた」らしい。

1万年以上の中の数十年。

1日に直したら、午後11時54分に
いきなり大変革が起こったようなものです。

人間なんて、気持ちの持ちようってところがあるから、
イメージやパッケージ、見た目は大事かもしれません。
でも、ひとつのものを目の前にしたとき、
「まわりのイメージ」に向かうだけでなく、
「中身のリアル」を知ることも、
もっと必要なんじゃないかと思うようになりました。

それがわたしの素材への興味の、きっかけです。


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ほんのプロローグ、って感じで、
まずは気楽に書いてもらったところですが、
いかがでしたか?

今後、多田さんには、
木、土、草、竹、紙などについて
本職ではないけれど、
ある程度知っているという立場から、
素直に「こういうことがあるんですよ」と
お伝えしてもらいたいと考えています。

数回の短期連載になるとは思いますが、
みなさん、どうぞ楽しみにしていてくださいませ。
多田さんからの次回原稿が届きしだい、掲載しますね。


(つづきます)

このページへの感想などは、
メールの表題に「材料」と書いて、
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2002-06-04-TUE

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