第3回:サッカーと左利き。

糸井
又吉さんのキャラには
自分を曲げないでいたい、
という部分があるんでしょうか。
又吉
ありますね。
糸井
周囲によって、曲げたほうがいいかもって
思わせられるときはあるでしょう?
その髪型だって、
「ジョン・レノンかよ」
みたいなことを言われてますよね。
そういうときに、
「だったらもう切っちゃおうかなあ」とか、
そういう思いにはなりませんか。
又吉
出はじめのころにはよく言われましたね。
「切ったほうがいい」と。
糸井
言われましたか。
又吉
最初は坊主で吉本に入って、
「怖過ぎるから髪の毛伸ばせ」と言われて。
それでおかっぱにしたら、
劇場に来てるお客さんから
「マジで気持ち悪いからやめろ」と
苦情をもらって。
ぼくが好きな髪型を選んでると
どうしても、なぜか、
みんなが思う「イイ感じ」にはならないんです。
糸井
(笑)
又吉
髪型とか、別にぼくは何でもいいと
思ってるんですけど、
「切れって言われて切るのもなんか嫌やな」
というのもありまして。
糸井
言ってる相手が
責任取ってくれるわけじゃないからね。
又吉
特に、劇場に来てくれるお客さんは、
ぼくたちに対して愛情を持って接してくれるんで、
手紙にもアドバイスのようなことを
すごく書いてくれるんです。
糸井
わかる、わかる(笑)。
又吉
「ワケわからん服着るな」とか、
「髪型はこうするべきや」とか。
すごくありがたいんですけど、
ぼくが思うのは‥‥お母さんみたいなことを
みんなが言ってくれるけど、
実は、お母さんが言うことと全部
逆のことをやってきたから、
ぼくはいまここにいられるっていうことが
自分でわかってるんです。
ここにきて急にお母さんの言うことを聞きだすと、
全部掛け違ってくると思うんです。
かといって、このロン毛をみんなが嫌がってるのに、
これがカッコいいと言い続けたら、
それは恐怖でしかない。
気持ち悪いと言われながらも髪型は変えずに、
それがおもしろく見えるような
工夫をしたいなと思うんです。
糸井
つまりハンディキャップとして扱ってしまえば、
前向きになれるわけですよね。
又吉
そうですね。
糸井
はぁー‥‥その目で見ると、
又吉さんがやってきたことって、
いままでずっとそうですね。
褒められていることも
ハンディキャップになるし‥‥。
でも、サッカーの話だけはなんか、
特別に偉そうですよね(笑)。
あれは本当に上手だったんでしょう?
又吉
一応、ちゃんとやってました。
大会出たり、選抜に選んでもらったり‥‥。
糸井
そこがおかしいですね(笑)。
又吉
サッカーの話って
自分ではあんまりしないんです。
なんか恥ずかしいんです。
10年くらい真面目にやってたんで。
糸井
どうしてそんなに続いたんですか。
又吉
小学校3年のときにはじめたんですけど、
そのときは下手クソだったんです。
最初の試合を両親が見に来たんですけど
ぼくが際立って下手だったんで、
父親が
「恥かかせんな。二度と見に来るか」と言って、
本当にそれから高校3年まで見に来なかったんです。
それくらい下手だったんで、たのしくないし、
休みがちにもなりました。
ちょうどそのころイタリアワールドカップがあって
テレビでマラドーナを見たんです。
マラドーナは左利きで、
すごく上手で、これはいいなと。
ま、ぼくは右利きなんですけど。
糸井
じゃ、何の関係もないじゃないですか。
又吉
いや、それが、
「この人、左足で蹴ってる。
 で、いちばん名前呼ばれてる」と思って、
次の日から普通にまたサッカー行きだして、
左足だけで蹴りだしたんです(笑)。
糸井
自分のゲームを作りはじめたんだ。
又吉
はい。
でもチームメートとかコーチには
「右で蹴れ」って言われて(笑)。
ただでさえ下手なのに、左で蹴ると
全然違うとこにボールが飛んでいくんで、
練習が停滞するんです。
それでもずっと左足で蹴り続けてたら
左利きになりました。
糸井
松井秀喜も左打ちですが、
もともとは右利きなんですよ。
又吉
あ、そうなんですか。
糸井
右で打つとホームランがデカ過ぎて
ガラス割っちゃうんで、
「おまえ、左で打て」って言われて、
しょうがなく、
ガラス割らないために、
左で打ちはじめたらしいんです。
又吉
へぇ。
糸井
又吉さんも、
最終的には左利きの人になったわけですか。
又吉
小学校5年、6年くらいが
両利きみたいな状態で、
中学のときには完全に左利きになりました。
でも、シュートは左なんですけど、
小学校4年ぐらいまでに覚えた、
基本的なドリブルは
右のほうが相手を抜きやすいから
右で蹴ってたんです。
そのことでプレースタイルに癖が出て、
それもよかったと。
糸井
相手の目くらましになりますよね。
相手はこう来るだろうって
予測して動くわけだから。
いや、なんか又吉さんのこれまでの人生を
象徴しているような話ですね。
又吉
そうですね。
そのころは、練習するのが本当に好きで、
ずっと1人で走り続けたりしてたんです。
糸井
目標に向かうんですか。
それとも、そのやってること自体が
好きなんですか。
又吉
ただサッカーが好きで好きで
たまらないという感じで。
中毒症状みたいに、寝てるときも、
「早く明日になって、早くボール蹴りたい」
みたいな状態になるんです。
糸井
『キャプテン翼』の
翼君じゃないですか(笑)。
又吉
メチャメチャ才能のない翼君です。
愛情は多分、翼君並みにあったと思いますけど。
写真
(つづきます)
2015-04-01-WED