第9回 寝不足の正体。

[糸井]
睡眠中の脳の活動や周期についてなんとなくわかってきたとして‥‥では、寝不足というのはいったいどういうことですか。

[池谷]
いやぁ、わからないです。

[糸井]
はははは。

[池谷]
寝不足という症状は、確かにある。
睡眠量というものは、人それぞれで決まっていて、足りないと集中力が落ちます。
記憶力も落ちる。
定着も落ちる。
まず、それはあります。
それに、眠りが深いときに目が覚めちゃうと、ものすごくつらい。
しばらくボーッとしますよね。
場合によっては、それで1日のパフォーマンスが決まっちゃうこともある。
ですから、深く眠っているときに目覚ましが鳴ると大変なことになる。



[糸井]
日常的におおいにありえることです。

[池谷]
会社の始業時間などでいつも起きる時間が一定の方は多いと思います。
だけど、寝る時間はまちまち。
こういう状況の人は、特に深い眠りのときに目覚めてしまう場合があります。

[糸井]
じゃあ、目覚ましはどんなにいいのを考えても、ダメだね。

[池谷]
いや、脳波を取っちゃえばいいんです。

[糸井]
ああ、そうか。
睡眠の意識レベルが上に行ったところで起きるといいんだ。

[池谷]
けっこう安くできるんじゃないでしょうか。
脳波を測る機械は原価で1台1000円とか2000円とか、かな?
脳波を見ると、現在レム睡眠かノンレム睡眠かがわかるので、レム睡眠のタイミングで起こしてくれる目覚ましがあればいいんです。
ただ、細かいことをいうとレム睡眠のところで起きてもダメです。
レム睡眠が終わった瞬間がベストです。
レム睡眠のピークで起きると金縛りになる可能性が高い。



[糸井]
そうか。意識レベルが上がったときは体が寝ているんでしたね。

[池谷]
その状態が終わって、もう一度眠りが深くなる直前に起きるんです。
そのときに、特殊な脳波が出るので、それがわかる目覚まし時計があるといいですね。
ちなみに、眠りの深いところで目が覚めてしまう病気があります。
それは、夢遊病です。

[糸井]
ああ、そうか。
そっちは逆に、体は起きているから。

[池谷]
「浅い眠り」「深い眠り」と呼びますが、体は逆で、意識がないほど体は正常に起きています。
レム睡眠中は、あまり寝返りをうちませんし、動いているのは眼球くらいのもので、体はほぼ弛緩しているんです。
だから金縛りになる。

[糸井]
子どもはよく寝言を言いますが、あれは?

[池谷]
子どもは、筋肉が弛緩しきらないことが多いんです。
夢の中でサッカーをして、ほんとうに手足が動いてしまうこともあります。
夢を見ている浅い眠りのときに筋肉が弛緩することの意味のひとつは、夢を現実の体で表現しちゃわないように、ということかもしれないです。
人を殺す夢を見て、ほんとうにやっちゃったらまずいから。
だから脳と体を切り離す。
こういう解釈をしている研究者はけっこう多いです。



[糸井]
そうか。弛緩する必要があるんだ。

[池谷]
そう。
なんてったってFですからね。

[糸井]
Fの悪夢は、体に現さないほうがいい。

(つづきます)


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