クマちゃんからの便り

つかの間、姫になる

大ヒラメの海から山岳のヒトになって、
オレはワラガイ教授から頂いた
〈M.C.エッシャーからのメッセージ〉という
4冊セットの豪華本を眺めていた。
彼が解説、編集したこの本は
数あるエッシャー本の中でも、図版の多さでも
資料としてもピカイチである。

ラセンに沿って生成し消滅する生命や、
〈ホォスフォレーセントの海〉の
有限平面の無限を夢想していると、
ピーヒャラピーヒャラの音曲が降ってきた。
明るい陽射しの波動に乗った神楽の笛、太鼓である。
音に導かれながら、
そうだ! 今日は村人が神楽を奉納している
お田植え祭りだと思い出す。

境内は陽気に誘われた爺婆、子供らで賑わい、
神楽殿では〈金山〉が舞われていた。

よそ行きを着たスダさんは太鼓を叩いてる。
お神酒やオンナらが作ったお重が並んだ拝殿に案内され
上がりこんで馳走になっていた。

酔った総代が

「次は珠とりずら。せっかくだからお姫さんやれしぃ」

と言う。

『音曲に誘われてきたのも何かの縁だ』

オレも調子に乗った。
総出のオトコ衆等にキラを着けられたオレは、
たちまち大きな図体のお姫様になった。
面を着られた眼の孔から、
花の下に跳ね回る子供らや婆が揺らいでいた。
いつもは閑かな山岳の世界が華やいで見えた。

面を外すとまた村の景色の戻ったのだが、
幾ジダイも繰り返されてきた
このユルイ山岳芸能に参加していたのだった。

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2007-04-17-TUE
KUMA
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