こんにちは、恋歌くちずさみ委員会の山下です。
書籍『恋歌、くちずさみながら。』の
タイトルと表紙ビジュアルも決まったところで、
今回は再びCD製作のお話を。
「マスタリングへいらっしゃいませんか?」
というお誘いを、発行元の
ヤマハミュージックコミュニケーションズさん
からいただきました。
マスタリングってどんな作業‥‥?
そんな素人まるだしの者が
プロの現場にお邪魔していいものでしょうか。
と、一瞬思いましたが好奇心には勝てません。
行きました。
武井さんとふたりで、行きました。
写真の右が武井さん。
の顔アイコンでおなじみです。
目指すは、銀座のスタジオ。
途中、コロッケ屋さんで差し入れを買いました。
本編とは関係がありませんが、
珍妙なショットが撮れたので掲載させてください。
「指をくわえてコロッケを待つ」、武井さんです。
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▲それはまるでアニメのようでもあり、
とんかつソースなどの商標キャラクターにも見えました。 |
さて、本題はマスタリングです。
差し入れのコロッケを片手にわれわれは、
銀座のスタジオにたどり着いたのでありました。
スタジオ特有の大きなレバーのドアを開けて、入室‥‥。
どーーーん。
どどーーんと、緊張するわれわれを、
赤いウェアのリラックスムードで出迎えてくださったのは、
今回たいへんお世話になっている、
ヤマハミュージックコミュニケーションズの
米澤隆太さんです。
(米澤さんのお話は、後日あらためてこのページで)
マスタリングの作業は、
ぼくらが到着する何時間も前から続いていたそうです。
現場にいらしたマスタリングエンジニアの
中里正男さんに、すこし質問をしてみました。
そもそも、
マスタリングとはどんな作業なのでしょうか?
「聴きやすいように、CDの原盤をつくる作業です。
音圧や音質などの調整を細かくしていきながら、
決まった容量の中に音楽情報をおさめていきます。
今回のコンピレーションアルバムのような場合は、
録音された年代も環境もばらばらなんですね。
ですから一枚のアルバムとして聴いたときに、
違和感がないようバランスを整えるのが
なかなか難しかったです」
なるほど。
ただ順番に並べて終わりではないとは思っていましたが、
そういう繊細な作業だったのですね。
ちなみにわれわれは、
中里正男さん(音響ハウス)が、
たいへんなベテランエンジニアさんであることを
スタジオから帰ってきて知りました。
手がけた有名なアルバムは数知れず‥‥光栄なことです。
そんな中里さんがマスタリングの作業に戻ります。
おお!
「まちぶせ」のイントロが!
な、なんて‥‥なんてきれいな音でしょう。
石川ひとみさんの透明感のあるボーカルは、
それはそれはキラキラに輝いて‥‥。
どうしたって、ぼくらはくちずさんでしまうのです。
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▲「好きだーったのよ あーなたー♪」 |
一流のエンジニアさんに整えられた
マスターの音源を
スタジオのモニタースピーカーで聴きながら、歌う。
なんてぜいたくなくちずさみでしょう。
最高にきもちよくを歌いきったら、
「どうします?」と訊かれました。
‥‥え? どうします? というのは、何を?
「曲間のタイムです。
次の曲まで何秒あけるかを決めてください」
そ、それを、ぼくたちが決めるんですか?!
しろうとですが、ぼくらは懸命に考えました。
それぞれの、曲と曲とのあいだのタイムを。
「ここは、3秒‥‥いや、2秒で」
「すみません、もういちど聴かせてください」
「うーーん‥‥ここは1秒で」
責任あるこの決定を、
ていねいに一箇所ずつ決めさせていただいた15曲目、
「微笑がえし」のイントロが流れました。
責任の重さから解き放たれたように、
武井さんがぴょこーんと立ち上がります。
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▲「んんんんん‥‥!」 |
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▲「シー、エー、エヌ、ディー、アイ、イー、エス」 |
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▲「スーパー、スーパー、スーパー‥‥」 |
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▲「キャンディーズ!!!」 |
「‥‥‥‥曲間は、どうします?」
「あ、ここは1秒でお願いします」
こうして、曲間のタイムはすべて決定。
原盤をつくりながら、
このアルバムを「通し」で聴くことになりました。
中里さんがマスターファイルの作成ボタンを押します。
すばらしい、すばらしい時間でした。
「まちぶせ」「初恋」「赤いスイートピー」‥‥
ほんとうにすばらしい、ただただすばらしい。
これが実現していることに感謝しながら、
山下と武井は、
今度はくちずさむことなく、背筋を伸ばして、
全身で浴びるようにその恋歌たちを聴きました。
12曲目、「木綿のハンカチーフ」のところで、
左側に座っていた武井さんが
ぼくの方をちらりと見て笑いながら言いました。
「山下さん泣いていいよ、思いきり去来していいよ」
(※去来=なにかがふいに過去の記憶に触れ、
涙がとまらなくなりその場を中座してしまう様。
恋歌くちずさみ委員会用語)
山下は、ぐっと去来をこらえたと言います。
そう、「山下は」、こらえたのです‥‥。
このたびは、武井さんに去来がやってきました。
ふいに。
そもそも、ふいにおとずれるのが去来なのですが、
武井さんにおとずれたそれは
あまりにも唐突で、大きなものでした。
さっき聴いたときは、ふざけて踊ったりしてたのに。
「微笑がえし」が流れた途端ぼくの左側で
同僚が震えはじめた気配がはっきりわかりました。
こみあげるものはまるでこらえることができず、
あふれだしたあつい涙は頬を伝い
首まで達していることが見ずともわかります。
それはなんというか、からかって笑うことができない、
そういう種類の涙だと思いました。
カメラを向けることができません。
「ブーツのこと思い出しちゃった‥‥」
武井さんが言いました。
‥‥ここまで書いて、
こんなことを書いてしまっていいのだろうか、
と手が止まります。
マスタリングのレポートだけしてればいいのに‥‥。
でも、やっぱり。
そのとき起きた事実と、ほんとに感じたことを書きます。
いつもみなさんからいただく投稿と同じように。
「ブーツ」というのは、愛称です。
武井さんの同級生の、ニックネーム。
ずっと静岡の地元にいらしたブーツさんは、
ことしの夏のはじめに、
長い闘病生活を終えて亡くなりました。
ぼくも一度、ブーツさんにお会いしたことがあります。
中学の同級生とこんなふうに会えるなんてうらやましいなぁ
と思いました。
「微笑がえしが流行ったころ、
ブーツと塾でずっといっしょだったから‥‥」
目から水を流しながら武井さんが言ったのは、
さっきのひとこととあわせて、このふたつだけでした。
それだけのことばで、景色が浮かびます。
たぶんふたりは、自転車に乗っていたのかな?
塾帰り、夜の静岡商店街を走る、武井さんとブーツさん。
ときどき立ちこぎなんかしたりしてね。
「ザ・ベストテン」が見たくてダッシュで帰るふたり。
「微笑がえし」、くちずさみながら。
「キャンディーズでは誰がいちばん好きー?」なーんて。
そんなことを想像しながら、
「同時性」のすばらしさについても思いました。
この曲が発売されたころ、
ぼくは中学を卒業して福島に引っ越した時期でした。
あのころかー。
武井さんは静岡でブーツさんと塾に行ってたのかー。
スガノさんは何してたのかな? 永田さんは?
と思いはじめたら、もう、
あやうく「去来」がうつりそうになりました。
みんなが好きだったキャンディーズ。
思えばキャンディーズ自体が、あの時代の、
みんなのともだちのような存在だったのかもしれません。
その3人とお別れした春のことを、
あの時代の若者がそれぞれのかたちで
自分の想い出に重ねながら胸に刻んでいるんですよね。
すごくて、すばらしいことだなぁ。
‥‥ついつい、行数を重ねてしまいました。
マスタリングはいよいよラスト一曲。
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この一曲の効果がまた、すばらしかったんです。
「木根川橋」。
さだまさしさんの隠れた名曲です。
(もちろんファンの中では有名ですが)
この曲が‥‥
ここまで聴いてきた恋の歌を振り返り、
そのすべてを包み込んでくれるような歌詞なのです。
(聴いていただけばその意味はわかります)
さださんのやさしくてあかるい歌声が、
泣き続けた武井さんの背中を
さすってくれているようでした。
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▲最後にからかいながら写真を撮れたのは、
「木根川橋」という曲のおかげです。 |
マスタリングは、ぶじ終了。
いちまいのコピーを、ぼくらはしかと受け取りました。
CD「恋歌くちずさみ委員会」は、ほぼ完成。
「わたしたちはこの曲順に自信があります」
と胸を張って言うことができます。
みなさんからいただいたアイデアを参考にして決めた
この曲順も含めての、
CD「恋歌くちずさみ委員会」です。
発売前に、ずいぶん気の早いお願いですが、
手に入れた際にはどうぞ、
1曲目から順にお聴きくださいませ。ぜひ!
以上、CDマスタリングのレポートを終わります。
わー、発売まで、あとだいたい半月ですよー!
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