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 『バスルームから愛をこめて』
 山下久美子

 
1980年(昭和55年)

歌うように
トランペットを
吹く人でした。
(ふうあり)

おまえと俺と二人で
ひとつなんて言ってたくせに


大学入学後、初めての寮の新歓コンパで隣に座り、
女子高出身さだまさしファンの文学少女だった
文学部プラス吹奏楽部に入ってた私は、
一浪して工学部で音響を学ぶ、
ジャズ研でトランペットを吹いていた彼と
恋に落ちたのでした。

背だって私の方が少し高く、
二人ともそんなに積極的な方でもなかったのに
なぜか周囲も
「あの二人は付き合っているのでは?」
という雰囲気に。
春に出会った後、
二人で出かけたのはもう秋になっていたにも関わらず
それから大学卒業まで一緒に過ごし、
私は彼からいろいろ教えてもらいました。
クリフォード・ブラウン、
キース・ジャレット、
ソニー・ロリンズ、
そしてマイルス・デイビス。
甘い卵焼きの味付けや、
コーヒーの入れ方、
ジャズ喫茶に通いつめること。
それまであまり人と関わることが得意でなかった私は、
初めて親友と恋人を持ったのでした。
自分の半身といえる人だと思っていたし、
彼もたぶんそうだったと思います。
でも、今思えば、私は彼のことばである音楽に
憧れていただけなのかもしれません。

歌うようにトランペットを吹く人でした。

歌を聞いても歌詞が気になる私は、
やはり文字情報の世界の人間なのでした。
最後の学園祭のステージで演奏する彼をみながら、
泣けて仕方なかったのは
本当はお互い大学の間だけの仲で、
私たちの世界はこの先交わらないのだと
わかっていたからなのかもしれません。
彼は、どうしても音楽と関わっていたいからと、
遠く離れた楽器メーカーに就職し、
私は地元に近い都市で、印刷会社に就職しました。
しばらく遠距離恋愛したりしたけど、
ついてきて欲しいとも言われず、
私もどうしてもそっちに行きたいとも言えず。
大きな喧嘩もしたことないのに、
私がやけくそのように共通の知人と恋をしたり
すぐ別れたりした後、
細かいことは不思議と思い出せないのですが
あっさり電話で別れてしまったのでした。

あれから四半世紀!
今思えば、半人前の二人が一緒になっても、
もたれあうだけで進めなかったのかもしれません。
数年前ふと思いつき、インターネットでググってみると
驚くことにアマチュアでジャズを演奏している
彼を見つけました。
音楽を手放さなかったんだなあ、よかった。
映像をみたこともありますが、
音を消したままだったので
私が大好きだったトランペットの音が
そのままなのかまでは確かめてはいません。

私はその後全く音楽とは関係ない人と、
職場恋愛をして結婚。
子どもも3人。誰も楽器には興味を示さず、
だけど美大を目指す娘や
スポーツ好きの息子たち、カメラマンの夫と
私はあの頃より自分らしく生活しています。
あのとき習った甘い卵焼きの味は、
我が家の味になっています。
(ふうあり)

(ふうあり)さんの描く、
当時のボーイフレンドのすがたは、
これほど明晰につづられた文章のなかなのに
なんだかおぼろげで、
霞の中に立っているような印象です。
最初に「さだまさしファン」とあったので
当時の(たぶん若いときの)さださんのような
感じだったのかなあと思いながら読みました。

そして投稿のなかには、恋歌である
「バスルームから愛をこめて」のことが
まったく出てきません。
山下久美子さんのデビュー曲である
この曲の歌詞は、
男性が描いた「ふられ女」のすがた。
主人公の女性は男性への未練があって、
いつかきれいになって見返すわ、
みたいな感じでしたから。
深読みすれば、(ふうあり)さんの言う
「自分の半身といえる人だと思っていた」
というあたりと、
My恋歌ポイントがリンクするのかな。

「あの頃より自分らしく」かあ。
そんなふうに言えるのって
すてきなことだと思いました。

山下久美子さんのデビュー曲なんですね。
知らない歌かな‥‥と思って
歌詞を調べてみたら、くちずさめました。
シャボン玉〜。

「親友と恋人を持った」
が、いい表現だなぁと思いました。
いっしょにいても苦痛じゃない、
いつも心配になる、
まるで自分のように考えてしまう。
そうだ、恋人は親友ではないですか。

そんな「自分の半身」と別れるのは
信じがたい行為です。
けれどもそれをやってしまうときの
「あれよあれよ」という感じも
よ〜くわかります。
あー、もー、終わりだー、
などと思いますが、
人の縁というのはふしぎなもので
ぜんぜん違う方向に
落ち着いたりするものですよね。
甘い卵焼きで家族のみんなが育つのも、いいな。

ああ、大学時代の恋人というのは、
こういう感じだったかもなあと思いました。

音楽とか、本とか、映画とか、
新しい趣味とか、価値観とともに、
そのひとが立ち上ってくるようなイメージ。

自分という人間の趣味が
かたまってくる時期だからでしょうか。
だから、大学時代の恋人には、
その人特有の趣味がついてまわるような。

忘れがたい彼が、音楽を続けていて、
なんだかよかったなと思いました。

はまだお休みをいただいてますので、
彼にかわりまして、お礼を言いましょう。
投稿、どうもありがとうございました。
それではまた、次回の更新で。

2015-01-21-WED

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