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 『RPG』
 SEKAI NO OWARI

 
2013年(平成25年)

あの日、
20歳の私と先輩は、
確かに海を目指して歩いたんです。
(会いたいな)

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く


このコンテンツが始まってすぐに浮かんだ先輩の顔。
けど、口ずさむ歌が多すぎて、
とてもとても、絞れなかった。

中島みゆきは、彼に教わりました。
ミスチル、スピッツ、槇原敬之。
みんな90年代に大学時代を過ごした彼と私と、
仲間たちの傍にあった歌です。

ああ、先輩とは、恋愛関係にあった訳ではありません。
人当たりが良くてオシャレでナイーブな彼は、
男女を問わず人気者で。
私はそんな人気者に、
一時まとわりついていた、ただの後輩でした。

つい先日、そんな彼の訃報が飛び込んできました。
突然の事故死。42歳の誕生日が目の前でした。

何をしていても、薄皮がまとわりつくみたいに
彼を考える日々のなか、
『子どもの卒園式で父母が贈るうた』
として指定されたのがこの曲です。

言われるまま、歌詞を暗記するために聴き始めた歌。
…青臭い、いかにも若者向けの曲で、
40歳のオバサンが泣くなんて、やっぱ変ですよね。
でも。でもね。

あの日、20歳の私と先輩は、
確かに海を目指して歩いたんです。
中野から東京湾まで、約20キロ。
夜遅くに出発して、夜明けに到着しました。
確たる目的なんてありません。
若くて、愛すべきバカだったから。
色んな話をしながら、笑い転げながら文句言いながら、
海まで歩いた。

季節は冬ですよ?
夜明けの埠頭は、そりゃあ寒くて。
暖取るために買った「おしるこ」缶も、
直ぐに冷えちゃったっけ。
そんなことすら、楽しかった。

彼が死んでから、
古いCDを引っ張り出して聴く事が増えました。
ねえ? 楽しかったですよね、先輩。
そんでめちゃくちゃ時間を浪費しましたよね。

"煌めき"のような人生の中で
君に出逢えて僕は本当によかった

この曲の最後のサビです。

いつか、もう一度海まで一緒に歩きながら、
あれから過ごした人生についての
報告会をしたかった。
うまくいった事もいかなかった事も、
笑い飛ばしながら喋りたかったなあ。
(会いたいな)

歩いたんですね、寒い中。
20歳のあなたは、先輩と海へ向かって歩いていた。
最高の時間ですよね。
好きな人と、漠然とした目的地を決めて、
おしゃべりをしながら横並びに歩く。
ふたりのリズムで。
ゆっくり流れる景色と、すぐ隣りからの息づかい。
(会いたいな)さんの思い出が、
つい最近のことのように伝わってきます。

SEKAI NO OWARIは、
ぼくもずいぶんオジサンですが聴きますよ。
この曲も好きです。
たしかに、(会いたいな)さんのその思い出に、
ばっちり重なりますねー。
「若者向け」とか、そんなの関係ないと思います。
心を掴まれちゃったんだからしょうがない。

私もこの歌、好きです。
カラオケで青年に教えてもらいました。

「卒園式」でこれを歌った、ということは、
別の方とご結婚なさって、
お子さんがいらっしゃる、ということですよね。
そして、先輩のことはたのしいたのしい思い出だった。
その彼が、とつぜん‥‥。

偶然なのでしょうけれども、
この歌はなにかのプレゼントだったのかも
しれませんね。
詩人の谷川俊太郎さんが、
詩というのはとても多義的なもので、
読者が自分の状況にあわせて
読み取ってくれるのがうれしい、
というようなことをおっしゃっていましたが、
いい音楽というのもきっと、そうなのでしょう。

ムーンライダーズに
「Sweet Bitter Candy」という歌があって
それは河に向かって歩く歌です。
ちょっと不思議なメンバーで行くんですけど、
それも登場人物が大人のちょっと手前という設定で
いいですよー。
若いときって、なにかを目ざして
ぐんぐん歩きたくなるものなのかな。
それは冒険というものなのでしょうか。

SEKAI NO OWARI、
はじめてちゃんとききました。
こりゃ泣かされちゃうよね。
(会いたいな)さん、
ぜんぜんヘンじゃないですよ。
スガノのいうようにこれ、
たぶん、プレゼントだったんだと思う。
20年の時空を超えたプレゼント。
そして、歌ったおとうさんやおかあさんたちは、
こどもたちへ贈る唄といいながら、
きっと、ぜんぶが自分に返ってくる唄だって、
思ったんじゃないかなあ。
きっと、それぞれ、いろんな物語を
かかえているはずだから。

RPGで歩くといえば
『MOTHER』もそうですね。
歩く歩く。

ぼくもまた歩きたいな。

SEKAI NO OWARI、
意外といいんだよ、
そうなんだよ、
へー、そうなんだ、みたいな話を
さきほど4人でしていたところです。
ぼくも聴いたことがなかったので
あとで聴いてみよう。

なかよしの誰かが、
亡くなってしまうことによって、
自分のなかに特別な人として
とどまってしまう。
そのまま長く過ごしていれば
「古いともだち」として
どんどん存在が薄れていくのが自然なのに、
いなくなることによって、
「いること」になってしまう。

絵本『かないくん』に寄せられた
感想のなかに、そういった考えがあって、
なるほどなあと思いました。
そういうひとは、ぼくにも思い当たる。
会いたいなあと思います。

そして、
「海まで歩いちゃおう」的なことも、
思い当たります。
きっとこれを読んでいる人のなかにも
いくつか思い浮かぶと思います。
海に限らず、男女の恋愛に限らず。

投稿、ありがとうございました。
それではつぎの更新で。

2014-10-11-SAT

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