『SOMEBODY TO LOVE』
 QUEEN

 
1976年(昭和51年)

自分で思っている以上に
傷ついていたんだと思います。
(北の庄)

Can anybody find me
somebody to love?


恋が苦手です。
自分でいうのもなんですが、
どろっと重いのです。ワタシ。
暴走する恋する自分は大嫌いだし、
そもそも、好きな人を苦しめちゃいかんよな。
と思っていたタイミングで社会人になり、
意識的に恋愛方面とは
距離をおくようになりました。

それから数年、
色恋が絡まない生活は本当に平和で、
でもちょっと寂しくて、
20代も後半に入ってきて‥‥
というタイミングで、
たまたま出会った人と
なんとなく付き合うことになりまして。
本当のことを言うと、相手のことを
異性として惹かれないなぁと思っていたのですが、
すごく楽しかった。
一緒に遊びに行ったり、
プレゼントを交換したり、
普通のことなんだけど、
恋心に振り回されないと
こんなに楽しいことばかりなのか!!
と、びっくりしながら
半年くらいつきあって別れました。

フられたのですが、つらいというより、
生まれて初めて「あっさりお別れ」したことに、
ちょっとテンションがあがっているような、
そんな終わり方でした。
なので、全然傷ついていないはず、で、
「振られたー」ってヘラヘラしていたのですが、
次の休みに車ででかけて、
この曲がかかった途端に泣けてきまして。
ぽろっと涙がこぼれたら止まらなくなって、
最終的に路肩に寄せてわんわん泣いていました。

理由をうまく言葉にできないのですが、
たぶん、彼を本気で好きになれなかったことに
私は自分で思っている以上に
傷ついていたんだと思います。
全力で愛させてくれなかった彼に、
本当はどうしようもなく
腹をたてていたんだと思います。
自分勝手な話ですが。
どうやってごまかしても
結局、私は激しい女なのでしょう。

それからさらに数年。
今はそこそこ穏やかに暮らしています。
楽しいです。
でも出会ってしまったら?
ギリギリと奥歯をすり減らすような恋でも、
愛せる人を見つけてしまったら?
きっと、迷わない。
そんな気がするのです。
(北の庄)

彫刻刀とかで(いきなり古いけど)
指先をスパッと切ったときって、
最初、痛くないんですよね。
で、遅れて、血と痛みがくる。

恋に落ちた自覚がないまま
スッと終わりが来て、
遅れて、重さや悲しみがやってくる感じ、
なんとなく、想像ができました。

重い恋愛をする自分を律するために
恋を感じる心にふたをする。
すごくわかるし、ひどい恋のあとは
誰しもその回路を働かせるんだろうけど、
それって、きっと、身体のことでいうと、
「神経をごまかしちゃう」ようなことですよね。
日々の感覚的には平気でも、
身体のほうに軋みがきているのかもしれない。

そういう意味では、
つぎの恋は(暴走するかもしれないけど)、
気持ちのよい速度が出るのでしょうね。

私は、ある高齢の方より
「どうしても避けられないことがやってくる、
 そしてそのことだけが
 自分を成長させることになる、
 それは、避けられないものだから予測もできない」
と、教えてもらったことがあります。

振り返って考えてみても、たしかに
自分では予測のできない痛い思いをくぐり抜けたときに
以前とはちがう自分がいることに気づいたりします。

その言葉は、
「いや、なるほど」とか「勉強になります」とか
自分が軽々しく返答していたときに、
「そんなことで勉強になることはありません」
と教えてもらったので、
まさに「予測のできなかった言葉」として
私の胸に深く残っています。

痛いことは、そうそう経験したくはないので
どうしても避けて通りたいし
いろんな予測を立てて、冷静に対処したいのですが、
そうはいきません。

これからも、そんなことが起こるのかなぁ、そして、
それが自分の人生を豊かにするのだとしたら
嫌なような、うれしいような。

恋する時期も、
そういうところがあるのかもしれないと
思います。

おおげさな話かもしれませんが、
「人生で一曲選びなさい」と言われたら、
ぼくは迷わず‥‥というのは嘘ですね、
だいぶ迷ったすえに
クイーンの『SOMEBODY TO LOVE』を
選ぶような気がします。
激動の中学生時代にこの曲と出合った衝撃は、
強く深くこころにささっています。

ぼくのことはさておき、
暴走するかもしれない(北の庄)さんに、
とてもふさわしい、すばらしい楽曲だと思います。
『SOMEBODY TO LOVE』。
強くて大きな愛の歌。

「一緒に遊びに行ったりプレゼント交換したりして
 すごく楽しかった。」
ぼくには、もうこの時点で
とっても恋愛だと思うのですが、
(北の庄)さんにしてみれば、まだ違うのでしょうね。
もっとのめり込みたい‥‥
でも、どろっとさせたくもない‥‥。
その意味では、そうですね、ぼくもやっぱり、
「次はきっとちょうどいい恋愛ができそうですね」
と、勝手ながらそんなふうに思います。

「重いよなー、オレって!」
って思ってた時期、じぶんにもありました。
ずいぶん前だけれど、
いま思うと、その気持ちの大きさを
ちょっと自慢気にかんがえていたふしがあって。
未熟だったんだと思います。
行動は別に重くなくって
自分のなかだけで重たくなってて
そこにうっとりしてたんだと思う。

だから「あっさりお別れ」に
テンションがあがった、
というのも、その気分に照らし合わせると
わかるような気がします。
おとなっぽく見えますものね。
でも心は思ったより傷がついてて、
涙というかたちになってあふれちゃった。
ほんとは苦しかったんでしょうね、
楽しいことばかりって感じながらも。

たぶんだいじょうぶですよ。
(北の庄)さん、愛する人をみつけたら、
迷わず突進していくはず。
そのとき「あの重たい気分、経験しといてよかった」
「泣いた日々が糧になってる」って
思えんじゃないかなー。

さてさて週末!
みなさますこやかにおすごしください。
寒い地域の人だいじょうぶかなあ。

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2013-12-14-SAT

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