『スパイダー』
 スピッツ

 
1994年(平成6年)

私の親友が彼を好きで、
彼の親友が私を好きだった。
(文穂)

だからもっと遠くまで君を奪って逃げる
ラララ千の夜を飛び越えて走り続ける


高校2年。
私と彼は仲良しの友達だった。
そして、お互いに
恋心を抱いていることを知っていた。
しかし、私の親友が彼を好きで、
彼の親友が私を好きだった。

「友達より異性を優先するのはサイテー」
そんな青臭いルールに縛られ、
私たちはお互いに、身動きが取れなかった。
秘密の想いを忍ばせ、
友達として振る舞う事しかできなかった。

ある時、お互いに読み終った本を交換する、
という楽しい遊びが2人の間で始まった。
彼が感動した文を探し求めた。
めくるページに涙の跡を探した。
彼もここで同じ気持ちを抱いたのだろうか。
お互いの好意を確かめたくて、でもできなくて。
せめて、本の中での共感。
それを探すのに、2人とも必死だった。

そんな関係は高校卒業まで続いた。
お互いに別の大学への進路が決まった。
夕暮れの公園で、本当に短いキスをした。
その後、
「同じ気持ちだよね?」
言葉では言わないけど、
彼の目はそう私に聞いていた。
もう一度長いキスをして、これ以上発展のない恋に、
確認し合う喜びを感じた。

「だからもっと遠くまで君を奪って逃げる
 ラララ千の夜を飛び越えて走り続ける」
ルールを無視して、彼に私を奪って欲しかった。
毎朝、登校前にこの歌を聞いて、焦れていた。
そんな不器用な彼と私。
愚直な純粋さと、
ルールから外れる勇気を持たなかった私たち。

がんじがらめの中の恋。
友達との関係を死守した私たちは、
秘密のキスと秘密の気持ちを共有した。
プラトニックな恋だったから、
それだけで強烈な一体感を感じた。
今も色褪せることない、
真空パックのままの、私の恋。

(文穂)

恋の障壁かぁ。
思い起こせば、ずっと
そういうことはありました。
いや、ないほうがおかしいかも。
まったく自由で罪のない恋のはじまりというのは
ないかも。

だから、
もっと遠くまで君を奪って逃げる
という歌詞は、
真空パックになった恋のぶんだけ
人の心に響くのでしょう。
千の夜を飛び越える、その勇気があったらなぁ。
この歌詞の、スパイダーとなった主人公は
結局「こがね色の坂道」で加速したかどうか、
描かれていないけど。

海千山千とはいいませんが、
それなりの年齢を重ねているわたくし、
なのに、(文穂)さんの投稿に、照れちゃって、
赤面しちゃって、ドキドキしちゃって、
なんだかもう‥‥くねくねですよ。
だってだって「本当に短いキス」のあとに
「もう一度長いキス」ですよ!!
「彼の目はそう私に聞いていた」んですよ!
「それだけで強烈な一体感」ですよ!!!
あうー。照れるー。なんでー。

そして、それを「真空パック」。
でもきっと、それができるのは、
青春の、ほんの一時期の魔法かもしれないですね。
年をとったら、その方法すらわかんなくなっちゃう。
開けずに、だいじにとっておいてください。
たぶん、(文穂)さんがおばあちゃんになっても、
新鮮なまま、持っていられると思います。

もうね、年齢を経てるから
あえて乱暴に言っちゃいますけどね、
十代の恋愛において友だちってのは
ほんとうにやっかいな存在ですよ。

いや、助けてくれたり励ましてくれたりも
もちろんしますけどね、
すっごく端的にいえば、
「いつもいっしょにいる友だちと離れて
 好きな人とふたりきりの時間をつくる」
ということに、
いったいどれほど苦労しなければいけないのか、
っちゅーことですよ、みなさん! ドン!

ああ、興奮して机叩いちゃいましたけどね、
ほんとたいへんですよね、そこらへん。
いや、つき合いはじめたら、
「あいつらそうらしい」ってことでいいんですよ。
問題は、そこへ向かう過程の、あわいの季節ですよ。
「そうならそうと言ってくれよ」って、
そういうふうに簡単に言えない時期こそ、
いちばん心が震えるときじゃないですか! ドン!

だから、
「じゃ、オレ、終わるまで待ってるわ」
とか言うなっつーの! ドン!
さっさ、帰れっつーの! ドン!
「なんか食って帰ろうぜ」
とか言うなっつーの! ドン!
ひとりで食えっつーの! ドン!
「アレ? 用事があるんじゃなかったの?」
とか言うなっつーの! ドン!
お前と離れてひとりでいることこそが
今日の最大の用事だっつーの! ドン!
先帰ってろっつったら
先帰ってろっつーの! ドン!

‥‥‥‥ハッ。
なんか、甘酸っぱい投稿の読後感を、
台無しにしちゃったんじゃないだろうか、オレ。

じゃ、山下、あとまとめといて。
オレ、あいつといっしょに帰るから。

ああ‥‥永田さん帰っちゃったよ。
机をばんばん叩いて帰っちゃったよ。
‥‥しょうがないなぁ(倒れた花瓶を直す)、
あれですね(かわいそうな花を花瓶に戻してあげながら)、
なにか過去にありましたね。
この素敵な投稿で、ここまで机を叩くということは、
「十代の恋愛において」永田さんは「あわいの季節」に、
なにかありましたね。
友だちに恋路を邪魔されるなにかが、ありましたね。
その記憶のスイッチを押されちゃったんですね。

ともあれ。
永田さんの十代の焦れる想いは
個人的にひざ詰めで聞くとして、
今回の投稿も、またもやすてきでした。

いつものことですが、ここのコメントを書くときぼくは、
こころをまっさらにするための儀式を行います。
いろいろ取り組んでいるお仕事をひとまず横において、
ヘッドフォンをすぽっとかぶり、
気持ちが高まったり落ち着いたりする音楽を
そのときの気分によって、選んで、再生します。
そうして呼吸を整え、いただいた投稿を読むのです。

今回ぼくが再生したのは、
スピッツの新譜『小さな生き物』でした。
たまたま偶然、スピッツでした。
その偶然に軽く驚きつつ投稿を読みすすめたら‥‥
ぴったりなんですよ、
スピッツの音楽にこの投稿がぴったり。
(文穂)さんの文章が
スピッツの歌詞のように見えてきました。

スガノさんの「そう!」と膝をうちたくなるコメントも、
武井さんの一緒に照れくさくなっちゃう感想も、
永田さんが机を叩いて帰っちゃうところも、
ずーっとスピッツを聴きながら読みました。
そしたらね、ばかみたいな感想なんですけどね、
切なくて楽しくて、すごくおもしろかったんです!

「甘く切ない何か」に接するとき、
ぼくにとってスピッツは最高の音楽なのかもしれません。
いいバンドだなぁ‥‥スピッツ。
『小さな生き物』、よろしければぜひ。

甘酸っぱい投稿、大好きです。
あなたのそれも聞かせてください。
投稿お待ちしていますね。
それでは、
次は土曜日にお会いしましょう!

2013-10-16-WED

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