『リフレインが叫んでる』
 松任谷由実

 
1988年(昭和63年)
 アルバム
 『Delight Slight Light KISS』収録曲

 イントロ部分を
  聞いただけで
あの日の冬の海を思い出した。
 (えむあい)
どうして どうして僕たちは
出逢ってしまったのだろう
こわれるほど抱きしめた

20代半ば。
転職先で出会った同い年の人。

カラに閉じこもり気味の私に
臆することなく話しかけてきた。
私にだけ特別そうだったわけではなく
誰に対してもオープンな人。

そんな人だから
もちろん彼女もいたけど
私のカラを簡単に破ってきた彼に
恋をした。

きっかけは何だったのかなー。
残業の多いその職場で深夜よく一緒になったのか。
ひとりで休日出勤した時に彼がいたのか。
彼がいるだけで楽しくて
たとえ同僚としてでも
近くにいられるだけで幸せだった。

そんなある日。
とても寒い日だった。
仕事が終わったあとで
ふたりで何度目かのドライブに行った。
でもいつものように
楽しいだけでは終わらなくて‥‥。

真夜中の海岸で抱きしめられた。
彼の肩越しに夜の海を見ながら
この風景はきっと忘れないだろーなと思った。
どうにもならないのはわかってたから。

長いおつきあいの彼女のことは
職場の中でもかなりオープンにしてて
とても大切にしていた。
彼女、現役高校生だったからね。尚更。
そんな彼女に対抗しようなんて
考えもしなかった。
もう充分だってそう思った。

その頃、車の中でよく流れてたのがこの曲。
ほんとどうして出逢っちゃったんだろう。
こんなに自分のことをわかってくれてる人だけど
どうにもならない相手。
じゃあ出会わなきゃよかったのかというと
彼と出会う前の自分に戻りたいとは
やっぱり思えなかった。

あんまり聞かないようにしてたこの曲を
今回久しぶりに聞いてみたら
イントロ部分を聞いただけで
あの日の冬の海を思い出した。
あの頃のせつない想いが一瞬でよみがえってきた。
さすがユーミン。

どうにもならない相手だと思ってた彼は
その後、なぜか高校生の彼女と別れて私の彼へ。
二年間の楽しい職場恋愛のあと
新入社員の女の子に持ってかれて
結局は振られてしまいました。

こんなに自分のことをわかってくれてる
と思ってたその彼よりも
もっとわかってくれる人と
出逢って結婚したわけだけど。

その彼も含めて三人とも同じ業界。
まさかね‥‥と思ってたら
そのまさかが起きて
ダンナとその彼が仕事で知り合ってしまった。

漏れ聞こえてくるその名前は
珍しくも懐かしい彼の名字。
え?? と思ってこっそり名刺入れを見たら
その彼だった。

ダンナの結婚相手が私だとわかるはずもなく
二人とも気づいてないようだし。
ま、いいか! 思ってたら‥‥。

三者共通の知人と私たち夫婦で話す機会があって
その人の話から私と彼が元同僚だとわかってしまう。
「なーんだ、知り合いやったん。
 次会ったら(彼に私のことを)話してみよう」と
笑顔でダンナにいわれ
いや、それはちょっと‥‥と思ってたら‥‥。

素晴らしいタイミングで彼が転勤!
よかったー。
できればもう帰ってこないで‥‥と願う日々。
ごめーん。

あの冬の海のせつない想いとこれとは
また別問題ですからねー。

(えむあい)

前半、せつせつと語られる
かなわぬ恋の悲しい思い出から一転、
中盤は三角関係あり、略奪愛ありの
メロドラマ風盛り上がりを見せ、
後半はどたばたとコメディータッチに。

冬の海岸でヒロインを後ろから抱きしめた
ハンサムな相手役が、
移り気のあげく最後に左遷されるさまは、
まるで6話あたりから
視聴率対策のために演出と脚本が変わった
連続ドラマのようで、たいへん楽しめました。

事実はドラマよりも連ドラチック。
実話ならではの先の読めない感じが
このコーナーならではです。

そんなスラップスティックな展開のなか、
きらりと光るフレーズは
「さすがユーミン」ではないでしょうか。

ピアノのマイナーコードから始まる
印象的なイントロ、
そして一度聴いたら忘れられない
「どうして どうして僕たちは‥‥」
という歌い出し。
いろんな記憶をぎゅっと封じ込めてしまう魔法は
まさに「さすがユーミン」。

掲載にあたり、
データを調べていてわかったのですが、
この曲、シングルカットされてないんですね。
なのになんでこんなに
聴いたことがあるんだろうと思ったら、
ドラマのテーマ曲にも
車のCMソングにもなってました。
なのにシングルにしないあたりも、
「さすがユーミン」。

予想のつかない展開!
「結婚」で終わるかと思いきや、
そのあと展開する複雑なドラマ、
そして思いがけない別れは、
なんだか「つづく」が出そうなエンディング。
ああおもしろかったー。
15分ドラマにしてもらって
ドキドキしながら毎日見たいくらいです。
(ただし80年代的な配役で。)

それにしてもユーミン。
さすがユーミン。
この曲って、
男性側・女性側の心情が
交互に歌われるんですよね。
最初は「僕たち」だから男。
次に「ひき返してみるわ」で女。
どうやら女のほうが男にやさしくできず
別れちゃったみたいなんだけど
(ユーミンの主人公は強気の女が多いぞ)、
でもおたがいに離れた場所で
それぞれ後悔していて、
それを伝えるすべがない‥‥

ところで「現役高校生」には
社会人女性は「かなわない」って
思うものなんですね。
桜沢エリカのマンガあたりだと
(もちろん当時のです)
彼がクラクラしてる女子高校生を
軽くあしらう大人の女、
というようなのが出てきてたから
そういうものなのかと思ってた。

こういう展開もあるんだ。
すごい縁ですね、ははあ!
勉強になります。
「できればもう帰ってこないで、ごめーん」
と願う彼。
なのに、イントロ部分を聞いただけで
せつない想いが一瞬でよみがえる。
恋歌ってすごいな。
さすがユーミン。

「この風景はきっと忘れないだろーな」
という一文が大好きです。
こうお書きになっているということは、
たしかに、忘れてないのですもんね。
みなさんにもいくつか
そういう風景があるんじゃないでしょうか。
いまは携帯電話のカメラなどでカシャッと
メモリーできてしまいますけれども、
昔は胸のひきだしに大事にしまっておく、
でしたねー。

(えむあい)さんの記憶のバランスというか、
大切にしている思い出の順番というか、
そのあたりに、とてもリアルを感じました。
だって、高校生と別れた彼との
「二年間の楽しい職場恋愛」については、
まったく触れてないんですよ?
あくまでも、いちばんの思い出は、
「真夜中の海岸で抱きしめられたときの、せつなさ」
なんですよね。
交際がはじまってからの出来事は、
たぶん、ふつうの生活になっちゃうのでしょう。
もちろんそれがいけないわけではありません。
ただ、安定した関係はたのしくて幸せでも、
もうロマンスはないんですよね。
‥‥お? 山下が急に「ロマンス」とか言ってます。
自分でもびっくりしました。

でも、思います。
みんながたいせつにしている恋の思い出って、
多くはロマンスの部分じゃないかなーと。
つまり、交際中のあれこれよりも、
思い続けていたときのことが大事‥‥。
簡単には結ばれないから、甘く切ない‥‥。
とうとつですが、「フーテンの寅さん」って、
何回も恋をして一度も結ばれないですよね。
だからあの映画には、
ものすごい大ロマンスが発生していると思うのです。

最後、脱線してすみません。
今回の投稿も頭がぐるぐるしました。
やー、おもしろい。
歌と恋の話は、何度かさねても、おもしろい。
みなさんの投稿があまりにすばらしいので、
一冊の本になるくらいです。

あなたのロマンスなども、
よろしければご投稿ください。

 

 

2012-09-26-WED

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