『DESTINY』
(アルバム
 「悲しいほどお天気」に収録)
 松任谷由実

 
1979年(昭和54年))

決して結ばれない
私と彼の人生を思うと
あのイントロが頭の中に
響いてくるのです。
  (投稿者・michi)

むすばれぬ悲しいDESTINY

高校の同級生、その頃、断然人気だった
ラグビー部のスター選手。
強いまなざしと低い声の彼に
気がつけば、恋していました。

高校2年生のバレンタインデー
彼女がいるのも知っていて、
自宅まで手作りチョコを持っていきました。

高校3年生の春
映画の試写会に友達を通して
誘ってみたところ何とOK。
有頂天になっていたその日の帰り、
バス停で彼が待っていました。
私の家まで送ってくれながらも
「やっぱり、付き合えない、ごめん」と。
泣いてしまった私を彼が優しく抱きとめ・・・
それが、私のファーストキスとなりました。

それから、受験勉強があり、
彼の最後の試合があり
二人で会うこともなく、
彼は東京の大学に進学しました。

21歳のとき、携帯電話もない時代に
偶然が重なり再会。
やっぱり家まで送ってくれる途中にキスしたけど
彼には既に結婚を前提に
付き合っている年上の彼女がいて、それっきりに。
大学を卒業して、すぐに結婚、
父親になった彼と会うことはありませんでした。

私もほどなく結婚、子供も産みました。
そして私たちの街に震災が起こりました。

その年の夏、
全壊した実家の様子を見に帰省した彼と再会。
許されるはずもない恋におちました。

小さな子供がいる私と妻子ある彼の遠距離恋愛。
やりくりしても月に1度会えるかどうか。
でも、幸せでした。
手をつないで歩いた雪の表参道。
東京の屋台で初めて食べたちくわぶ。
夕立のあとの京都の川床。
港の見えるホテルのバルコニーで飲んだ冷たいBEER。
古民家の温泉宿。
携帯電話での夜中のおしゃべり。
二人して思いっきり背伸びして買った
ペアのタグホイヤー。

そして、夫とは震災前から
亀裂の入っていた私は離婚。
彼の奥さまや両親にも知れることとなり
ますます、彼との将来を
真剣に考えるようになっていました。

そんな5年に及んだ関係の別れのきっかけは、
彼に待望の男の子が出来たこと。
まだ、めずらしかったメールに
嬉々として添付で写真を送ってきた彼。
一気に目が覚めました。
電話番号もアドレスも全て消去しました。

そして月日が流れ、私は縁あって再婚。
彼との別れから10年は経っていたでしょうか。
駅のホームでばったり会いました。
大病を得たと、少し痩せていた彼。
私が再婚したことも
彼の同業ライバル会社に転職したことも知っていました。
乗り換える電車が来るまでの5分ほどの近況報告。
連絡先を交換することはありませんでした。

昨年末、私たちのことを知っている
数少ない同級生と飲む機会がありました。
「実は、昨日、アイツと一緒やった」
「へぇ、元気にしてた?」
「むこうにも全く同じこと聞かれたわ・・・」

つめたくされたことも、
みかえすつもりになったこともないけど
クロスすることはあっても
決して結ばれない私と彼の人生を思うと
あのイントロが頭の中に響いてくるのです。

K、私は今でもタグホイヤー大切に使ってるよ。

(michi)

出た! DESTINY!
ラジオで聴いてたー。
この疾走感ある楽曲と、
「悔しい。みかえしてやる!
 キレイになってやる、
 今度会うとき驚かせる!」
という内容の執念深い歌詞(失礼)、
そしてサビの
「どうしてなの 今日に限って
 安いサンダルをはいてた」に、
おんなって、こわい‥‥、と、
そんなふうに思った当時のぼくは
たぶん中3くらい。
ほんとすごい曲です。
DESTINYって単語はこの曲で覚えた。

で。
(michi)さん。
どんなに、お互い、好きでも、
それぞれの立場や境遇を
捨てたり乗り越えたりすることなく、
もう忘れようと決めた今にいたっても、
まだ、気になっている。
ほんとにこりゃ
超DESTINY(宿命、さだめ)ですね。

ところで、当時の世相かなあ、
なんかユーミンの曲に出てくる男は
日焼けして黒いタンクトップか
襟を立てたポロシャツの印象があります。
当然腕時計はタグホイヤーです。

高校時代から現在まで、
長い時をかけて近づいたりはなれたり、
それはまるで惑星の動きのように(比喩、合ってる?)。
描かれたふたつの軌跡にどきどきしつつ、
1行ずつ読み進めました。

いろいろあったけれど、お互いが、
「へぇ、元気にしてた?」
スッとそう言える今が愛おしいですね。
自分に余裕がすこしもないときには、
なかなか言えない言葉だと思いますから。

クロスした人たちには(恋愛とかじゃなくても)、
みんな元気でいてほしいです。
勝手なわがままと言われようとも。
みんな元気でいてほしいです。

高校、2年、3年、21歳、
結婚、震災、遠距離恋愛、離婚、
別れ、消去、
再婚、5分の再会、同級生。

壮大なドラマを
「恋歌くちずさみ委員会」のひとページで
読んでしまう水曜日。
すごいです。

きっと筋書きだけを追っているのに、
そのときどきの高揚感、切実な思い、
あきらめや平穏をつぶさに感じます。

それにしても、不思議なのは彼の
2回のキスです。
キスはなんなんだ。
なんでキスするんだ。

でもそれが縁を作ったのですね‥‥。

ふたりでいろんなところに行ったんだなぁ。
そしていま、元気にしてるかどうかを
おなじように、気にしてる。
気が合うおふたりだったんでしょう。

『DESTINY』は、
運命というタイトルからは意外に思える
明るい前奏が印象的です。
ジャンジャッジャーウンジャカウンジャカ、
っていうね。
執念深いのに吹っ切れる感じ。
逆切れで自虐的に笑い出したくなる感じ。
だから人気がある歌なんだな、と思います。

ああ、もう、そこを気にしつつも、
全体の大河ロマン的な文脈について
語ろうとしてたのに!

スガノよ、おお、スガノよ!
同感だ。同感であるぞ。

なんでチューやねん。
ごめん、やっぱりつき合えない、
は、ええわい。
泣いてしまった私を
優しく抱きとめるのも、ええわい。
なんでチューやねん。

21歳のとき、携帯電話もない時代に
偶然が重なり再会するのも、ええわい。
家まで送ってくれるとちゅうに
やっぱり、なんでチューやねん。

ほら! こんなこと言ってるから
ちっとも全体のデスティニーに触れられない。
森を見ず木を凝視、とはこのことです。

木をとりなおして。
否、気をとりなおして。

「クロスすることはあっても
 決して結ばれない私と彼の人生」
という一文が秀逸です。
恋歌の染みこんだ世代ならではの、
「詩的」というよりも
「詞的」なフレーズだなあと思いました。

また、文中に登場する「震災」は
「阪神・淡路大震災」のことでしょうか?
それが、終わったふたりの再会のきっかけに
なることもあるのだなと思う一方で、
あの日からずいぶん長い月日が経っている
(再会したふたりが5年後に別れ、
 そこからさらに10年が経つほど!)
ことに、少しおどろいてしまいました。

読み応えのある恋の思い出、
どうもありがとうございました。

みなさまの恋歌投稿、ずっと待ってます。
どうぞ、お気軽にご参加くださいね。

 

2012-05-30-WED

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