『朝日のあたる道』
 ORIGINAL LOVE

 
1994年(平成6年)

「あのとき
 別れてなかったら
 どうなってたかな?」
(投稿者・パンダのり)

明ける空 消え始めた星を
引き連れて走るハイウェイ
前よりも優しい 君を乗せてる

学生の頃に友人の紹介(いわゆるコンパ)で
5歳年上の彼と知り合いました。
食べ物やお酒の嗜好がピッタリで
すぐに意気投合。
自然におつきあいがはじまりました。
ドライブも大好きで
彼の愛車のシトロエンに乗って
いろいろなところへ行きました。

月日を重ねるうちに、彼の愛車に
私のカセットが増えていき、
それを見るとなんだか幸せで。
本当に彼が大好きでした。
でも「私を信用してるから」と
全く束縛しない彼がだんだん不満になって、
彼を試すようなことをして。
つきあって2年くらいで、
私から終わりにしたいと言いました。
ドライブへいった諏訪湖のほとり、
彼の愛車の中でした。

これからは彼氏彼女の関係ではなく、
友達になりたいなんてワガママも
聞き入れてくれました。
それからは何でも話せる
いちばんの友人というか、
友達以上恋人未満というか、
そんな関係がはじまりました。

そんなふうになって4年後くらいの夏に
久しぶりに彼の愛車に乗る機会がありました。
そこには昔のままのカセットケースがあって。
大好きなORIGINAL LOVEのテープもはいってて。
ハイウェイじゃなかったけど、
時間も朝の4時くらいで。
この曲はテープの1曲目!
二人で窓を開けて歌いながらドライブしました。

「あのとき別れてなかったらどうなってたかな?」
と聞いたら
「その1年後に別れてたでしょ」
とさらりといわれ
「そりゃそうだ!」
と大笑いしました。

その後私は結婚し、
2児の母となり、
彼とはもう交流はないけれど。
私の人生を豊かにしてくれたのは
彼だと今でも大切に思っています。

(パンダのり)

彼も彼女も
カラッとしていて
それでいて豊かで
もう、文句ないです。
いい!!

「その1年後に別れてたでしょ」
とさらりといわれ
「そりゃそうだ!」と大笑い。

もう、絵のようなきれいなシーンです。
4年間も「いちばんの友人関係」が
つづいたのもすごいですね。

ORIGINAL LOVEの曲にはなんだか
「疾走感」があるなーと思ってて。
「駆け抜ける」感じというんでしょうか、
ちょうどクルマやバイクのスピードに
ぴったりな印象があったものだから、
(でも鉄道っぽくはないような?
 あるいは全速力で走る、のも近いかも?)
そんなことをほんのり思って読みはじめた投稿、
まさしく、その感じ!!

別れる理由が
「全く束縛しない彼がだんだん不満に」
というあたりも、リアルだなあ。
そこで喧嘩にもならなかった。
たぶんほんとにそんなふうに、
やわらかな愛情のある人だったんでしょうね。
彼も、(パンダのり)さんのこと、
“人生を豊かにしてくれたひと”として
いまも大事に思っているような気がしました。

「その1年後に別れてたでしょ」は
名ゼリフだなぁ。
なかなか言えないと思うなぁ。

勝手な想像になってしまうけれど、
「もしもそうなっていたら」という展開を、
「いま、やり直すとしたら」という
いまの可能性のところまで含めて、
ぎゅっと封じ込めるような
返答なんじゃないかなぁ。

つまりそれは、
「そうなる可能性がある」から。

おおむね、どういう恋愛も、
「そうなる可能性がゼロじゃない」と、
少なくとも一方は思うから、
恋愛らしく展開していくんですよね。

決してきらいじゃない人と、
ふたりきりでドライブしていて
「その1年後に別れてたでしょ」と
いろんな可能性を
即座に封じ込めるというのは、
いいとかわるいとかじゃなくて、
瞬発力のいることだろうなと思いました。

関係ないけど、ドライブするときの
「ふたりが横に並んで前を見ている状態」って
いつも言えないようなことが
言えたりしませんか。
ぼくはわりと好きです、その配置。
配置っていうのもなんだけど。

続々と届くハイレベルの投稿。
今回の「物語」もすばらしかったです。
引き込まれました。

「わかる、私にも経験ある」とか、
「ああ、それはちょっと切ない」などと、
ストーリーとの併走を味わっていたところに、
突如としておとずれる、予測を超えた展開の会話。

「あのとき別れてなかったらどうなってたかな?」
「その1年後に別れてたでしょ」

まさに、物語にドライブがかかる瞬間。
ドキドキ。
え? その受け答えはどういうこと?
併走していたはずなのに、
加速するストーリーに、一瞬、
こちらのからだがついていけなくなります。
やがて気持ちを立て直し、セリフの意味をよくよく考え、
追いついてから、こころが踊る。
「そのカラッとしたセリフ‥‥いい!」
グイグイ引き込まれる物語には、
この「追いつけない感」がかならずあると思うのです。

‥‥などと書いていて、ふと思ったんですが、
そのドライブがかかる瞬間ってつまり、
「起承転結」の「転」の部分のことですよね。

(パンダのり)さんは起承転結のことなんて
たぶんまったく考えずに書いてくださったと思いますが、
あります、起・承・転・結が。
やわらかく畳みかけるように終わる物語でした。

この物語のエピローグ、
 「私の人生を豊かにしてくれたのは
  彼だと今でも大切に思っています。」
の2行も、あたたかくて大好きです。

今回はこのあたりで。
次は水曜日にお会いしましょう。
読んでいただきたい投稿が、まだまだあるんです。

 

2012-05-19-SAT

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