いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

彼の意識が戻って、お見舞いに。
でも…かけつけた時、まさかの事態。
(投稿者・えっちゃんあのとき四葉のクローバありがと)
『PIECE OF MY WISH』
 今井美樹

 1991年(平成3年)
 

My恋歌ポイント

 あきらめないですべてが 崩れそうになっても
 信じていて あなたのことを

その頃、
学生時代からつきあっていた彼も私も社会に出て数年。
女子で派遣社員の私は、
会社帰りにお稽古ごとができるくらい
時間の余裕のある日々ですから、
私のほうは、毎日でも彼に会いたい。
けれど、彼は、仕事も覚え始めて、とっても忙しかった。
徹夜続きの日もあったりして、
到底、毎日会うなんて、ムリムリ。
私じれる、彼多忙。
よくあるパータンの2人でした。

でも、そんなよくあるパターンの2人に
よくないパターンが‥‥

ある夜、彼のお兄さんから電話が入ったんです。
彼が、車で事故って救急搬送された…と。
徹夜で仕事して、車で移動中、高速の橋脚に激突。
意識不明。

今すぐ駆けつけたい。
と思ったものの、集中治療室で
意識不明の彼に面会できるのは家族のみということ。
単なる彼女は入れないんです。

私、それまで、眠れない夜なんてないタイプだったんです。
でも、さすがに、夜、眠れない日が続きました。

数日後、なんとか彼の意識が戻って、
お見舞いに行くことができるように。
でも…
かけつけた時、まさかの事態。

知らない年上の女性が、
一人でお見舞いにきてたんですよ。
最初は、会社の先輩かな〜?
くらいに思ってたんですけど…
毎日、毎日、いるんです。
鉢合わない日でも、何か足跡がある。

彼は、死の淵からの生還ですから、
全治数カ月という大ケガを抱えているわけで。
そんな時に、
「一体、誰なの? どういう関係なの?」
みたいなことも聞けないし。
しかも、聞いたところで、その時の彼、
しゃべれないんです。
顎の骨が割れたために、
がっちり固定されていて、口があかない。
今後、脳にも異常が出ないかどうか、
経過観察だった状態。
そんな彼に、詰めよれないですよね〜。

彼の体の心配と
関係のわからない女性の心配
そういう2つの心配と
時と場所をわきまえなければならない
嫉妬心とか自尊心とか
よくわからない複雑で複数の感情を抱えながら、
一体、どうすればいいんだろう…私、という状態。

そんなときに、この歌が流れていたんです。

「あきらめないですべてが 崩れそうになっても
 信じていて あなたのことを」

そうだよね。
そうなんだよね。
今は、自分がきちんと立っていることが大切なんだよね。
自分の仕事をしながら、
勉強しながら、
前に進んで。
吐き出したい気持ちや爆発しそうなものを、
なんとか辛抱して…。

そうすることを、この歌から教わりました。

今でも
あの女性が一体誰だったのか。
彼とどんな関係だったのか?
わかりません。
今後も、そのことを、主人に、
訊ねることはないでしょう。

これから、一緒に年老いて、
どっちかがどっちかを看取って…
そのことについては、わからないまま、
終わっていくんだな〜とボンヤリ思います。
それでいいんじゃないかな〜って。

‥‥すごい。

ほんとうにあった実話が
順番に淡々と書かれている投稿なわけですが、
それが、もう、こりゃあすごいです。

「思い出話」として読んでいたものが、
最後のブロックで急激に
現在の、現実の、投稿者につながっていく。
このプロット。
投稿者さんにそのつもりはないのでしょうが、
読み手をぐいぐい引き込む
エンターテイメントになっちゃってる、と思いました。

(えっちゃんあのとき四葉のクローバありがと)さん、
というペンネームにも
すてきな思い出が込められてそうですね。

うわー、すごい。よみごたえありました。
(えっちゃんあのとき四葉のクローバありがと)さんは
事故のときお兄さんから連絡をもらうくらい
家族にちかい存在であったわけで、
そのひとがかけつけたときに
すでに「いた」わけだから、
もっと近い人なの? と思っちゃいますよね‥‥。

と、そのこともあるんだけれど
ぼくが響いた一行は、ここ。

「単なる彼女は入れないんです。」

そうなんですよね。
たとえばこんな話も。
最愛のパートナーが事故に遭って
緊急手術が必要というときに、
どんなにそばにいた人であっても、
家族でなければ同意書にサインはできない。
まんがいち死んでしまったら
お金どころか
なにひとつ思い出の品が遺されないこともある。
もちろん世の中はそんな話ばかりじゃないけど、
そういうことがありうるのが、世の中だったりする。
ぼくはほんとにおせっかいだと思うけれど
籍を入れられるのになんとなく入れないでいた
ともだちカップルに、
そんな話をしたことがありました。
だからじゃないとは思うけど、
のちにそのふたりは結婚して、
ぼくはそれを聞いたときになぜか泣いちゃった。
まったくおせっかいにもほどがあるよね。

同じきもちで「よかったねーっ!!!」と思うのです。
彼はもどってきて、そしてあなたのそばにいる、
(えっちゃんあのとき四葉のクローバありがと)さん。

前にも書いたかと思いますけど、
ここに寄せられる投稿って
なにしろ「実話」ですから、
オチも伏線もどんでん返しも
仕組まれていないわけなんです。

いや、投稿にはしばしば
2段オチや大どんでん返しがあったりするんですが、
それにしたって、単なる「実話」なわけです。

だからこそ、おーもしろーいんですよねー。
これが小説なら、「で? その女性は誰?」
「誰だかわからないってことはないでしょ」
「奥さんがそれを訊かないのも不自然でしょ」
みたいな話になっちゃったりもするんだけど、
だって、こうなんだもの。事実が。

そういう意味でいうと、
こんなにおもしろい「恋の物語」は
ちょっとほかにないわけですよ。

まさに今回の投稿はその白眉。
「そのことについては、わからないまま、
 終わっていくんだな〜とボンヤリ思います。
 それでいいんじゃないかな〜って。」
こんなラストシーン、
考えてたらきっと書けない。

多忙な彼、会いたい自分、
事故、眠れない夜が続いたんですね、
ふむふむ‥‥と、順番に
読んでいけるこの投稿に
大きな2段階の展開。

たしかにフィクションだと
「そこで彼女に詰め寄らなかったこと」や
「家族からの説明もなかったこと」が
不自然に思えたりするのかもしれないけど‥‥
これは事実。
いまの心境も
(えっちゃんあのとき四葉のクローバありがと)さんの
そのままを書いてくださっているのだとしたら。
「ほぼ日」の、このちいさなコーナーで
こんなことが読めることになるなんて、
このコンテンツを開始した当時の我々は
考えていませんでした。
いやぁ、すごいことになってきたなぁ。
ほんとうのことってすごいなぁ。

2012-01-28-SAT

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