明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

ワンチャンスで流れが変わる。

糸井 お話をうかがってると、
このあといつまでテニスができるとか、
そういう先のことを考えているような
状況ではないですね。
伊達 いまは、そうですね。
もう、そんなことを考える余裕もないまま。
糸井 ふつうの若い選手のほうが
引退後のこととか考えるのかもしれない。
まぁ、いまの伊達さんの立場は、
特別すぎますよね。
一回引退したあと、戻ってきてるんだから。
伊達 ふふふふ。
糸井 だから、ずっと先のことよりも目の前にあること、
つぎの試合、つぎの大会、っていうことのほうが、
やっぱり、おもしろいんでしょうね。
伊達 そうですね。
だから、いまはもう、試合がどうこういうより、
いかに自分を回復させるか、
どうやったら回復するのかっていうようなことを
ずっと考えてますね。
糸井 具体的ですねぇ。
それは、日数的なことだったり?
伊達 そうですね。
テニスって、基本、大会の期間が1週間で、
優勝するためには、だいたい、
5回勝つと優勝なんですよね。
グランドスラム
(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米の4大大会)
の場合は、2週間で7試合をやるんですけど、
ほとんどの大会は1週間で5試合。
だからまぁ、週7日のうち5日ですね。
2日、休みがある。でも、わたしの場合、
シングルス、ダブルスとやることが多いので
さらに日程が詰まってくるんですけど‥‥。
糸井 そう、訊いてみたかったんですけど、
なんでダブルスまでやってるんですか?
伊達 ああ(笑)。
糸井 素人の考えですけど、
いかに回復するかって考えてるなら、なおさら。
伊達 みずから疲れるようなことをしてますもんねぇ。
回復、回復って言ってるのに、
回復力を奪うような(笑)。
糸井 そうそう(笑)。
伊達 そうなんですよねー。
わたし、10代、20代のときも、
ダブルスってあまりやってないんですね。
最初のころは出てたんですけど、
トップ10に入ってからは一切出なくなって、
やっぱり体力温存のために
シングルスだけ出てたんですけど。
糸井 でも、いまは、出てる。
伊達 はい、いまは出てるんです。
しかも、今年の1月なんかは、
単複、両方やったうえに
ミックス(男女混合ダブルス)までやって、
3種目に出たんですよね(笑)。
糸井 どうして(笑)。
伊達 あのー、ダブルスって、
パートナーがいるじゃないですか。
ふだんはひとりテニスをやってますよね。
ひとりで考えて、ひとりで決断して、
ひとりでぜんぶいつもやらなきゃいけないんですけど、
ダブルスってパートナーがいるので
たのしいんですよ。
糸井 ああ、たのしいんだ。
伊達 はい。
そんなに自分が、こう、なんていうんですかね、
追い詰めなくていいんですよ。
助けてもらえるときもあるし、
もちろん助けてあげるときもあるし。
糸井 たのしいんですね、それが。
伊達 たのしいんですよ。
で、動く範囲も半分ですし、
まぁ、そのぶん速くはなるんですけど、
その、テンポがいいんで、
わたしの場合はダブルスをやるほうが、
「テニスがよくなる」んですよ。
それがシングルスにも活かされるというか。
糸井 ダブルスをやることが
シングルスにいい影響を与える。
伊達 そうなんです。
ダブルスをやったあと、
テニスの調子がよくなるケースが多いので、
体力的には厳しいんだけど、
自分のテニスの好調さを維持するためには
ダブルスをやってたほうがいい、
という結論なんです。
糸井 ああ、そうなんですね。
となると、回復っていうのが、
また、大きなテーマになってきますね。
伊達 はい。
でも、いまはダブルスのシステムが変わったので
どんなに長くても1時間ちょっとで終わるんですよ。
なので、ダブルスをやるといっても、
むかしほど体力的な負担はなくて、
ずいぶん軽減されてるんです。
糸井 なるほどー。
そうか、混合もやってましたね。
若い錦織(圭)くんとやってたり。
伊達 そうです、そうです。
糸井 いわれてみれば、あれ、
ちょっとたのしそうに見えました。
伊達 たのしいんですよ。
男子は、さらにスピードがあるので。
糸井 種類が違うんですね。
伊達 はい。
男子にはやっぱりかなわない、
っていうのがあるから、
反対に、こう、開き直ってできるというか、
おもしろいですね、ミックスは。
糸井 あの組み合わせは、見ててもわくわくしますね。
なんか、いろんなことを超えたペアですよね。
伊達 なにしろ‥‥ほぼ半分なので、歳が(笑)。
一同 (笑)
糸井 ほんとですか(笑)。
伊達 はい。
糸井 じゃ、お母さんってことありうるわけ?
伊達 そうですよ。
わたしが二十歳で生んでれば。
糸井 はーー。
それが組んで、世界を相手に試合してるなんて
すごいですねぇ。
伊達 そうなんですよ。


(つづきます)

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2012-06-25-MON