第2回
「一様に達者」な時代。

──
デザイナーになって、
いちばんはじめにデザインしたものって、
何だったか覚えていますか?
永井
ちっちゃなものなんですよ。
もう図案しか残ってないんですけど‥‥。

(と、席を立つ)
──
すいません、ありがとうございます。
永井
‥‥最初は、このパンフレットでした。
大和紡績の営業報告書かな。

紡績の会社なので、
「スピンドル」っていう糸を巻く軸を、
こんなふうにして、
新しい社屋ができたばかりだったので、
ここにこう、レイアウトして‥‥。
──
こちらが、いわば処女作。
ちなみに、当時、何歳くらいでしたか?
永井
はじめたばかりのころだから、22歳。
こっちはワイシャツのパッケージ。
──
わあ、いま見ても、かっこいいですね。

商品そのものではなく、
パッケージを見た目よくデザインする、
というのは、当時としては、
めずらしいことだったんでしょうか?
永井
ええ、めずらしかったと思います。

当時、雑誌とかのメディアにも、
いろいろ、取り上げてもらいましたから。
──
で、その後60年以上、
デザインに関わってこられたわけですが、
永井さんにとって、
デザインって、
どういうところがおもしろいですか。
永井
やはり、デザインは、世の中に出ていく。
そのことが、おもしろいと思います。
──
なるほど。
永井
パッケージにしたって、何にしたって、
デザインというものは、
世の中に出ていって、
みなさんの手に取ってもらえますよね。
ポスターなら、見てもらえる。

1から創作していくことのおもしろさ、
それも、もちろんありますが、
それならアートをやってもいいわけで。
──
ええ。
永井
でも、アートの場合は、
美術館に来なければ見られませんよね。
──
その点、デザインは「街にあるもの」で、
永井さんは、そのことがおもしろいと。
永井
ぼくがつくったロゴで言えば、
JAにしても、アサヒビールにしても、
いろんなところにあって、
たくさんの人に、見てもらえますね。
そのことがやっぱり、おもしろいです。
──
「街に出ていく」ということ以外に、
「アートとのちがい」って、ありますか。
永井
創作という一点では、
アートと変わらないところもあるけれど、
デザインの場合は、
「経済性」と「社会性」と「文化性」、
その三要素が、
ちょうど正三角形の関係になってないと、
成立しないと思っています。
──
正三角形。つまり‥‥。
永井
社会から遊離せず、そこに密着しながら、
創作であることで、文化を高める。

さらに、企業という経済主体と言っても、
環境問題をはじめ、
文化的な配慮がないと
世間のみなさんに認めてもらえませんね。
──
ええ。
永井
ただ単に、お金がもうかればいいという、
そういう存在では、許されない。

そこで、どんな企業でありたいかという
「ブランディング」の部分に、
デザインは、スタート段階から携わって、
そこの企業の人たちと、
ともにブランドをつくり上げていきます。
──
それは、見た目のことだけではなく。
永井
そうですね、
「思考としてのデザイン」というものを、
企業に持ち込んでいけば、
単に「マーケティングの結果」ではない
企業のふるまいが、生まれると思います。
──
亀倉雄策さんや永井さんをはじめ、
先達のみなさんが、
これまで、やってこられたことによって、
今は「デザイン」というものが、
ほぼ「前提」になっていると思います。

製品の機能性や中身はもちろんですが、
同じだけ
「デザインもよくないとね」という。
永井
ぼくたちがデザインをはじめた当時は、
お皿にしたって、
よくある「花柄」みたいなもの、
そういう図柄のものがほとんどでした。
──
デザインと呼ぶには、
ちょっと、ちがう感覚のものですよね。
永井
そういった状況のところに、
たとえば、
「ただ真っ白いお皿でも、綺麗なんだ」
という提案を、ぼくたちは、
みんなで、やってきたんだと思います。

あるいは、すばらしいグラフィックが、
人の心を、どういうふうに動かすのか、
企業に対しても、
社会に対しても、
訴えかけてきたんだと思います。
──
はい。
永井
だから、ぼくらがデザインをはじめたころは、
デザインされていないものと、
トップデザイナーがつくるものの間の落差が、
激しかったわけです。

いまよりも、もっと、ずっとね。
──
ええ、そうなんでしょうね。
永井
その点、今では、おっしゃるように、
デザインがある程度の水準に達している、
そのことは
当たり前のことになってるんだけれども、
そのぶん「平準化」していると思う。

デザインの「平均点」は高いんだけれど、
それだけに、
まわりから抜きん出ることは、
かえって難しい時代じゃないでしょうか。
──
なるほど‥‥。
永井
このまえ、キギの渡邉良重さんが
亀倉雄策賞を獲りましたが、
キギなんかは
明らかに他より抜きん出ていますけれど、
デザインの審査をしていても、
多くの人は、どこか似かよってるんです。
──
どういう点が、似てるんですか?
永井
感性です。もののかたちはちがっても、
ベースとなる感性が、似ています。

かつて田中一光は、福田繁雄にも、
粟津潔にも、勝井三雄にも、ぼくにも、
似ていなかった。
──
はい。
永井
それは
「あいつがあんなことやってるから、
俺は、あっちには、
絶対に近寄らないでおこう」
って、みんながみんな、思っていたからです。
──
なるほど。
永井
今のデザイナーは、
感覚じたいは磨かれていると思いますし、
かたちにするのもうまいんだけど、
「一様の感覚、一様に達者」というかな。
──
では、そういう時代にあっても、
デザインを諦めるわけにはいかない人が、
他人とのちがいを出すには、
どのようなことが、重要でしょうか。
永井
はい、「オリジナリティをどう出すか」、
そのことについては、
ぼくには、
いつも、考えていることがあります。
<つづきます>

2017-04-13-THU

このインタビューは
「CACUMA(カクマ)」のデザイナーである
キギの渡邉良重さんが、
永井さんが選考委員長をつとめる
「亀倉雄策賞」を受賞したことをきっかけに
実現いたしました。