第5回
お金は、使う人次第。

西條
新井さんが出たNHKの番組
(「プロフェッショナル 仕事の流儀」)も
反響がすごかったみたいですね。
新井
本当にたくさんの方に、ごらんいただいて。
糸井
ぼくも、見ました。すごく、よかったです。

あの番組の内容を
率直に「いいな」って思えるかどうかが、
大事だよなあと思いました。
西條
放送後、投信の申し込みが
1日で2700件、来たらしいですね(笑)。
糸井
おもしろーい(笑)。
新井
ふだんの週末は
土日を合わせて50件くらいでしたから。
西條
いきなりケタがふたつも上がったと(笑)。
新井
おかげで、いま、社員たちは大わらわです。

わたしたちは、お客さまの
宛名の住所とお名前を筆で書いているので。
糸井
え、じゃあその二千何百人ぶんを?
新井
少なくとも、これまでのぶんは、
時間がかかってもやります。

「申し込みをするだけで
 どうして、こんなに時間がかかるんだ!」
と怒られてしまっても仕方ないんですが、
わたしたちは
宛名を筆で手書きすることに
会社の姿勢が込められていると思っていて。

(注‥‥結局、申込数が1万件を超えたため、
 残念ながら後日、あきらめたそうです)
糸井
なるほど。
西條
投資信託になんて何の興味関心もなかった
ぼくでさえ「預けたい」と思ったんです。

ただ銀行に預けているだけでは
活かされないお金も
社会的に意義ある活動をしている会社に
投資されたら、
「活かされてる感じ」がしますから。
糸井
そうですよね。
西條
あ、そうそう、ちょっと前の『東洋経済』に
糸井事務所の上場の話が載ってましたね。
糸井
ぼくは、ぼくの会社を
「ぼくじゃなくてもいい」というふうに、
もっとしたいと、ずっと思ってるんです。

うれしいことに
「ほぼ日」という「枠組み」がなくなったら
さみしいと思ってくださる人が
たくさんいてくれますから、
人が入れ変わっても、残るようにしたくて。
新井
ええ、ええ。
糸井
だから、もうずいぶん前から
「株式の上場を目指したい」と言ってたのに、
このところ急に
「その取材」が来るようになったんです。
西條
おっしゃってましたよね。
糸井
たぶん、以前は「本気じゃないだろう」と
思われてたんでしょうね。

で、それがやっと、
「あ、本気なのかな?」と思ってもらえた、
そういうことなのかもしれない。
新井
なるほど。
糸井
西條さんの「ふんばろう」も、
枠組みを残すという点では、同じでしょう。
西條
そうですね、「ふんばろう」の枠組みは
どこでも使えるようにつくったので
「スマートサバイバープロジェクト」
を立ち上げて、
コツコツと準備していたんですね。

ですから、今回のネパールの地震でも、
はじめは
何ができるかわからなかったんですが
現地の事情がわかるにつれて
自分たちのつくった枠組みを活かせる、
これはやらなければって、思いました。
糸井
なるほど。
西條
鎌倉投信の仕事のしかたや
糸井事務所の「やわらかい上場」の話には、
賛同する意見だけでなく、
「否定的な意見」も、見かけました。
糸井
ええ。
西條
でも、糸井さんは「やわらかい上場」という
新たなニーズに応えられる
「選択肢」を増やそうとされている。

「関心のある人はどうぞ」と。

既存の価値観を否定しているわけでも
何でもないんですが、
新たな価値観に「抵抗」を
感じる人も一定数出てきちゃうんですよね。
糸井
そうかもしれないですね。
西條
とくに「真実はひとつ」と思い込んでいると
「そっちの考えかたが真実だとしたら
 自分のやってきたことは
 何だったんだ!」と思っちゃうんでしょう。
糸井
なるほど。
西條
でも、「価値の原理」によれば、
「欲望や関心、目的に応じて
 価値が立ち現れている」ため、
「よい」「わるい」と判断がわかれるのは、
もともとの関心が違うだけなんです。

だから、
「私はこっちに関心があるから
 この方法でやりますね」
「じゃあ、私は、こちらで続けていきます」
と言うだけの話なんですよね。
糸井
うん、うん。
西條
そこで争ったり批判したりする必要なんて
どこにもないんです。
新井
その意味で、お金も「使う人次第」なんです。
お金自体に「表情」はないので。
西條
ええ、そうですね。
新井
わたしたちは、ずっと
「意志あるお金は、社会を変えるんです」
ということを、お客さまに言い続けています。

その点、投資も寄付も同じだと思うんですが
意志を持ってお金を活用すれば
少しずつでも、社会を変えるきっかけになる。
西條
新井さん、おっしゃってましたよね。

「お金はお金であって、
 それ以上でも以下でもない」
「お金には、善悪なんてない」って。
新井
だから、そのことを忘れてしまうと
「お金は汚い」とか、
「投資はマネーゲームだ」という
紋切り型の批判の言葉が、出てきてしまう。
糸井
でも、そうじゃなくて‥‥。
新井
はい。どう使うか、どう思うか。
やっぱり「使う人次第」なんだと思います。
<つづきます>
2015-06-26-FRI

シェアする

金融・投資信託の専門家・新井さんと
心理学・哲学の研究者・西條さん。
ふたりのプロの「わかりやすい」最新作。

鎌倉投信・新井和宏さんの
『投資は「きれいごと」で成功する』と、
西條剛央さんの『チームの力』
前者は「いい会社」に投資しながら
国内投信1位となった鎌倉投信のことを書き、
大きな話題を集めています。
また後者は
「『進撃の巨人』の巨人とは何か?」という
興味深い序章からはじまる、
西條さんらしい「チームのつくりかた論」。
(序章はこちらのページで試読できます)
新井さんは金融・投資信託の、
西條さんは心理学・哲学の専門家ですが、
どちらの本も平易な文章で書かれているので
専門知識のない人でも、おもしろく読めます。
ご興味のある方は、ぜひ。

新井和宏
『投資は「きれいごと」で成功する』
Amazonでのおもとめはこちら。

西條剛央
『チームの力』
Amazonでのおもとめはこちら。