ほぼ日の塾から生まれたコンテンツ。
このコンテンツは、「ほぼ日の塾 実践編」で塾生の方が課題としてつくったコンテンツをデザインし直したものです。
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僕は恋愛が上手になりたい。
かつなり
18歳の僕、恋のパワーを知る

僕はKさんを見かけたその日のうちに
中学時代の友だちに
僕の携帯電話のメールアドレスを
友だちの友だち経由でKさんに
渡してもらえるように頼み込んだ。
恋愛の話なんて恥ずかしくて
友だちにもしたことがなかった当時の僕としては、
それは勇気を振りしぼったすえの行動だった。

そしたら次の日くらいにKさんからメールが届いた。
一方的にメールアドレスを渡されて、ふつうなら
気持ち悪がってもおかしくないが、
わりとポジティブな内容の
絵文字でカラフルなメールを送ってきてくれた。
このとき嬉しくてたまらなくて、
僕は自分の部屋で
手足をバタバタさせていたような記憶がある。

それからというもの、
野球で真っ暗な僕の高校生活のなかで、
Kさんは唯一の光のような存在になっていった。

メールは頻繁にした。
毎回Kさんからメールが届くたびに
プレゼントを開けるようなドキドキ感だった。
逆に僕がメールを送るときは頭が痛かった。
女の子とあまり話したことがないから
どんな言葉を伝えればKさんが喜んでくれるのか
全くわからなかったのだ。
そこでサッカー部の人気者の友だちから
「モテるメールの技術」みたいなものを教わりながら、
たった4、5行くらいのメールの文章を
死に物狂いで考えて送っていた。
でも結局は素の自分が出てしまい、
真面目でつまらないメールを送っていたと思う。

Kさんがテイラー・スウィフトというシンガーが
好きだと聞けば、
すぐにTSUTAYAにCDを借りに行った。
パンクロックやハードロックばかり聴いていた僕にとって
馴染みが薄い音楽だったけど、
Kさんが好きな音楽だから聴き続けた。
そしてKさんに
「テイラー・スウィフト最高じゃん!!」
みたいなメールを送っていた。
正直、最初はテイラー・スウィフトが
あまり好きになれないのに、
Kさんと盛り上がる話題がほしくて
そんなメールを送っていた。
だけど、ずっと聴いていたら、
本当にテイラー・スウィフトの音楽を
好きになっていたので、人を好きになると、
新しい領域にも難なく踏み出せるのかもしれない。

大嫌いな野球に対する姿勢も少し変わった。
Kさんが見ているわけではないけれど、
野球を上手くなって、かっこよくなろうと思った。
学校の外を走る長距離走のメニューは
みんなが嫌う基礎練習だったけれど、
その時の僕は、走っている最中に
Kさんに会うかもしれないと想像していたので
死ぬ気で取り組んだ。
結果、いつも長距離走では部内で最下位近くだったのに
突然、2位になったことがあった。
人を好きになると、限界以上のパワーが出るのかもしれない。

あとは正直に言うと
Kさんと一緒にいる妄想をよくしていた。
登校中、授業中、お風呂に入っているとき、寝る前、
いつでもどこでも妄想してしまっていた。
さらに正直に言うと、恥ずかしくてしかたないけど、
キスで終わる妄想ばかりしていた。

部活が終わって学校の外に出たらKさんが待っている。
一緒に楽しく話しながら帰る。
別れ際にキスをする。

休日に駅前でデートをする。
何をすればいいのだろう、喫茶店にでも行けばいいのだろうか、
それとも友だちのカップルがやっていたように、
プリクラを撮ったりするのだろうか、
まあ、なにはともあれ、別れ際は、キスをするだろう。

こんなことばかり考えていた。
野球や現実から離れて、わくわくできる時間だった。
本当に気持ち悪いけど、頭の中でだいぶKさんに救われていた。

でもそんな「純粋っぽい僕」ばかりでもない。

キスの先のえっちなことも正直、妄想した。
でもなんだか申し訳ない気持ちになって
あまり多くは妄想しなかった。
いや、でも、少なくはなかったかもしれない‥‥。
とにかく罪悪感を抱きつつ、
妄想していた。

こんな風に「Kさんを好き」な気持ちのなかには
純粋に「好き」だけじゃなくて、
いやらしい欲求やら、
周りの男友達に普段バカにされているぶん、
彼女をつくって自慢をしたい虚栄心やら、
不純物もたくさん、混じっていた。

でもたぶん、
それも含めて「Kさんが大好き」だったのだ。

しかし僕はそんな大好きなKさんに
告白することができなかった。

自意識が邪魔をしたのだ。

自分がKさんと見合っているとは思えなかった。

「もしフラれてしまったら?」と考えると怖かった。

メールはしていたけれど、実際に会おうとするなんて
考えられなかった。目の前にKさんがいたらと
想像すると怖かった。
挙動不審な自分をさらすことになる。

そしてKさんとの繋がりは
メールでの連絡だけだったのに
そのうち連絡も取らないようになった。
話題もないのに、メールを送るのが不自然に思えて
なんだか自分から連絡できなくなってしまったからだ。

そんな風にして
じょじょにKさんと連絡を取らないようになり、
僕はKさんへの恋を勝手に諦めていた。

そして高校3年生の秋になると
噂でKさんに恋人ができたという話が
僕の耳に入ってきた。

勝手に自分で諦めたくせにお前はなんなのだ
と思われてしまうが、
正直、それを聞いてかなりショックを受けた。

悔しかったし、思いをぶつけなかったことを後悔した。

こうして僕の初恋は勝手に僕が始めて、勝手に僕が諦めて、
終わってしまったのだ。

(つづきます)
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2016-09-27-TUE