主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート45
おやじギャグは、なぜある年齢以上の
男性に多いのか? の科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

そろそろ40歳を迎えようとする所長(夫)、
すっかりおやじギャグが板に付いてきました。

数日前、料理番組でサバの味噌煮をやっていたのですが
それを見た彼がこう言いました。

「サバをさばいているんだ」

‥‥あ、そう?

「さばさば捌いているよ」

‥‥ふ、ふーん。

「さばらしいっ(素晴らしいっ)!」

恐怖の三段活用でした。

ここまできたら、
「サバ君、サ・ヴァ?」
(仏語で「元気?」)
と締めなくちゃ、ねえ‥‥はっ。
私は何を言っているのでしょうか。

そもそも、「カソウケン(家庭科学総合研究所)」
の名付け親も所長です。
そこはかとなく漂うおやじギャグ臭は
そのせいなのであります。

そんな所長も、結婚するときはそんな人では
なかったはず!
おやじギャグを「好んで」言うようになったのは
ここ2〜3年の話です。

若い頃からこの手の駄洒落・おやじギャグが
好きな人もいますが
周りを見ているとその名の通り
「おやじ」の方々に多く見られる気がします。

そこで! 研究員Aの積年の疑問である

「おやじギャグは、なぜ男性に多いのか?」
「しかもなぜある年齢以上の男性に多いのか?」

という「おやじギャグの科学」を
研究員Aが勝手に検証してみたいと思います〜。

洗練されたジョークとおやじギャグでは
反応する脳の部位がちがっている??!

さて、おやじギャグに科学があるかどうかはともかく
(いきなり終わっちゃうじゃないですか)
数年前にこんな面白い研究結果が論文になっています。

なんと
「洗練されたジョークとおやじギャグでは
 反応する脳の部位がちがっている?」
というものです。
おやじギャグの対比として「洗練されたジョーク」
という表現を使うところがなんとも差別的ですが。

被験者に、多種多様のジョークを聞かせて
その脳のどこが活性化されたかfMRIという装置を使って
調べた研究です。詳しくは以下。
BBC News: The biology of humor
nature BioNews Archive

ちなみに、fMRIというのは
"functional Magnetic Resonance Imaging"
(機能的磁気共鳴画像)の略です。
つまり磁気共鳴画像装置を用いて機能を調べる装置です
…と言ってもよくわからないので
その原理を詳しく説明しているページはこちらにお任せ。
うーん、難しいですねえ(←無責任な!)。
とにかく、「何か」をしたときに
脳の「どの部分」が活性化しているのかを調べる
大がかりで高機能な装置ということです。

その結果、

語義的な
ジョーク
語の意味を
処理する領域
(後側頭葉)
だじゃれ 音を処理する領域
(左下前頭葉前皮質・島)

をそれぞれ刺激することがわかりました。

とはいえ、
「ユーモアを判断するときは『語の意味』を処理する領域」
「おやじギャグを判断するときは『音』を処理する領域」
なんて、考えてみれば極めて「そのままじゃーん」な話です。
でも、わざわざfMRIという大がかりな装置を持ち出して
いろいろなジョークを聞かせて実験する
なんてことを思いつき、しかも研究しちゃうところが
面白いです。

てことはですよ、fMRIを使えば、
「今のは『洗練されたジョーク』である」
「単なるおやじギャグである」
なんてことが明確にジャッジできる!
ということになりますね。
ジョークの発言者が
「今のは断じておやじギャグではないっ」
と言い張ったとしても
「何を言う、僕の活性化した
 前頭葉が見えなかったのか」という具合に。
だからなんだという話ではありますが。

と、ここに紹介したものはまともな研究です。
だからといって
「なぜ、おやじギャグは『おやじ』が言うのか?」
という日頃の研究員Aを悩ませる疑問に対する
直接の答えにはなりません。

というわけで勝手に「仮説」を
立ててみることにしました。

おやじギャグを
脳科学的に考えてみました。

ほぼ日から生まれたベストセラーである
「海馬」によると
「あらゆる発見やクリエイティブのもとである
 『あるものとあるものとのあいだに
  つながりを感じる能力』は
 30歳を超えた時から飛躍的に伸びる」
とあります。

おやじギャグとはすなわち語呂合わせ。
一つの言葉から連想される「音」から
新たな言葉を結びつけることです。
これは、ずばり「つながりを感じる能力」
がなければできないワザです。
おやじギャグはクリエイティブと
深い関係があったのです! 再評価せねば。

なんだかおやじギャグが
「中年以上」に多いことの説明になりそうでは!
続いて、「なぜ男性に多いのか?」について
勝手に予想してみることにしましょう。

男性は「左右の脳の連絡橋」である
脳梁が女性に比べると細くなっています。
女性が「言葉」を耳にすると
左右の脳にある情報が行き来しやすいので
たちどころに言葉の意味に結びつくのに対し
男性は「言葉」を「言葉そのまま」として
捉えることができる。

だからこそ! 意味とはかけ離れた
「音」だけから純粋に連想されるおやじギャグを
生み出すことができるのではないでしょうか。

うん、これで脳科学的に
「男性」「中年以上」に多いことの説明が
両方できてしまいました。
‥‥あああ、なんてバカバカしい。

こんどは動物行動学的に
考えてみました。

こちらは、研究員Aの説ではありませんが
伊藤ししゃもさんの提唱した仮説をご紹介します〜。

ししゃもさんは息子さんの「おやじギャグ」に
悩まされているようなのですが
彼女が動物行動学的におやじギャグを斬った説はこちら。

親の「おやじギャグ」は子どものうちはウケる。
そして一定年齢に達するとウケなくなり
親の激化する親父ギャグに嫌気がさした子どもの
親離れが自然と進むのでは。

子どもが小さいうちは
子どもと密接な関係を形成するのに役に立ち
ある程度の年齢になると
親離れのきっかけになる。

おやじギャグひとつで
両方の役割を果たしちゃうなんて
すごいじゃないですかっ!
ここまできたら人類の発達のために
奨励すべきでありましょう(…そうか?)。

これを聞いて思い出すのが
研究員Aが学生時代いた研究室の教授のこと。
この方が鬼のようにおやじギャグを連発する
恐ろしい御仁でした。
ちなみに、この教授は「おやじ」になってから
言うようになったのではなく
若い頃から好んでいたようなので
年季入っています。

その教授がホームパーティを開催して
学生みんなでお宅にお邪魔したとき。
程良くお酒が回ったときのおやじギャグ。
(いや、この先生はゼミの最中だろうが
 授業中だろうが連発する方なのですが)

「ここは五階だからって誤解するなよ」

そのとき近くにいた教授のお嬢さんの
窒素も凍らすような反応が今でも忘れられません。
きっと彼女たちはそのようにして
親離れを果たしていく…のでしょうか?

さらに分子生物学的に
考えてみました。

おやじギャグが「伴性遺伝」をしていると
考えることもできます。
要するに、性染色体である「X染色体」上に
おやじギャグ遺伝子が乗っかっているとします。

「遺伝」「伴性遺伝」についての詳しい説明は
こちらにお任せしますね。

女性の場合の性染色体は「X」「X」の一対なので
両方のX染色体におやじギャグ遺伝子がないと
表れません。
でも、男性の場合は「X」「Y」の一対なので
片方の「X」だけにおやじギャグ遺伝子が
のってさえいれば、発現してしまう。
だから、男性の方が割合が多い!

さらに「なぜ中年以上に多いのか」の
説明(こじつけ?)が必要ですね。
うーむ、これは難しい。
これは「おやじギャグ遺伝子」の発現する時期が
中年以降だからなのでしょうか。

中年の男性に対しては失礼な話になりますが
おじさん特有のカオリ、ってありますよね。
あれは「加齢臭」と呼ばれ(うっ、ヤな呼び方)
なぜ中年以上の男性が発するようになるのか
科学的に証明されているのです。
(詳しくはこちら

同じく中年以上に発現するものとして
「おやじ臭」と「おやじギャグ」は
何らかの共通項があるのかもしれません。
今後の研究が期待されます。

当然ながらこの仮説は「おやじギャグ遺伝子」なるものが
存在しないと成立しません。
このポスト・ゲノム時代。
近いうちに「おやじギャグ遺伝子」が
発見されることになるでしょう。
‥‥あああ、なんてバカバカしい。

考えれば考えるほど空しくなってくるのはなぜ?
もちろん、言うまでもないことですが
今回の話は「お遊び」ですから
真面目に受け取らないでくださいね〜。
って研究員Aのヘボ仮説じゃ
真面目に受け取りようもないですけど。
もしみなさまにも「おやじギャグ仮説」がありましたら
ぜひぜひお知恵をお貸し下さいませ!



参考サイト
BBC News: The biology of humor
nature BioNews Archive
東京電機大学超電導応用研究所・機能的MRIコース
細胞生物学の世界へようこそ
いきいき健康 NIKKEI NET
ほぼ日「おやじギャグの祭典」
ほぼ日「婦人公論・井戸端会議」ダジャレの未来

参考文献
海馬 糸井重里・池谷裕二著 朝日出版社

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2004-09-24
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