おかあさんのことを記事にしたいから話を聞かせてほしい、
とお願いをして、ICレコーダーを回し始めました。
レコーダーってドラマで見たことあるよ、
なんて言われながら、ふしぎな緊張感の中で、
初めての母へのインタビューが始まりました。
***
- ——
- ええと、今日はよろしくお願いします。
- 母
- なんの話をすればいいの?
- ——
-
テレビとか料理のことはいつも話しているけど、
おかあさん自身の話ってあんまり聞いたことないじゃない。
だから、そういうお話を伺いたいなと‥。
ええと、おかあさんは、そもそも結婚願望があったの?
- 母
- うーん、ふつうかな。人並みに。
- ——
-
結婚してからずっと専業主婦だけど、
仕事を続けるという選択肢はなかったの?
- 母
-
あのころは、
結婚したら仕事をやめるっていうことになっていたから。
みんなそれが当たり前だと思っていたから、
そのまま会社にい続けようとは、考えなかったな。
それに、職場の人間関係にすこし悩んでいたから、
結婚したらやめられる!
っていう気持ちもあったかも(笑)。
- ——
-
そ、そうなんだ‥。
結婚して、おとうさんの両親、
私のおじいちゃん、おばあちゃんと
同居することになるわけだけど、それは抵抗なかったの?
- 母
- あ、それはぜんぜん。
- ——
-
そうなんだ。
「姑との同居」というのも嫌ではなく?
- 母
-
うん、べつに。
だって私、料理できなかったし。
- ——
- えっ?
- 母
-
実家暮らしで、仕事から帰ればごはんはできていたから、
ほとんど料理をしたことがなくて。
だから、同居して、
おばあちゃんに教えてもらおう、って思ってた。
- ——
-
ああー、そういう考え方なんだ‥。
ポジティブだねえ!(笑)
- 母
-
ちゃんとおとうさんには
「料理はできません」って言っておいたよ?
そしたら、なんて言ったと思う?
「うちの姉ちゃんも料理できなかったけど、
それでも嫁にいったんだから、大丈夫じゃないの」
って、それだけ(笑)。
だから、私もお嫁に来て、
この家のおばあちゃんに教えてもらったよ。
- ——
- へえー‥。
- 母
-
でもね、ここのおばあちゃん、
調味料を計って入れたりする人じゃなかったの。
「いちいちスプーン何杯って決めてないから、
教えられない」って(笑)。
いちから教わるというよりも、
自分で味を見ながら覚えるしかないんだなと思って。
それにね、料理ができたとしても、
その家の食べものの好みがあるでしょ?
だからお嫁に来た以上は合わせないといけないしね。
毎日おばあちゃんに「今日のメニューはなに?」って聞いて、
買い物に行って、つくり方も教わってたなぁ。
- ——
-
おかあさんって、けっこう心配性だと思ってたんだけど。
家族の中にぽんと1人で入ってくるなんて、
緊張しなかったの?
- 母
- ああ、だからよく胃が痛くなって寝込んでいたんだよね。
- ——
-
えっ、そうなの!?
もともと体が弱かったわけではなくて?
- 母
- うん、だって会社は5年間一度も休んだことなかったから。
- ——
- それが、結婚したら胃が痛くなっちゃったの?
- 母
-
今振り返ってみればの話だけどね。
当時はストレスだなんて思ってなかったよ。
おばあちゃんも本当にできた人で、
いじめられたりなんてしなかった。
でもまあ、多少は気を使っていたんじゃない、やっぱり。
***
子どもながらに、
おかあさんは小さなことまで気にするなぁと思っていたので、
胃が痛くなる姿はなんとなく想像できたのですが、
まさか「料理は教えてもらえばいいや!」という
超ポジティブな発言が飛び出すとは、驚きました‥。
聞いてみなければわからないものです。
(続きます)