もくじ
第1回渋谷でお店を始めた理由。 2016-12-06-Tue
第2回バーのマスターになるまで。 2016-12-06-Tue
第3回カウンターから見た時代と街の移り変わり。 2016-12-06-Tue
第4回変わっていくもの、残していきたいもの。 2016-12-06-Tue

1989年宮崎生まれ。
宮崎と鹿児島の県境で育ちました。
都内ではたらく編集者です。

渋谷のバーカウンターで</br>あいましょう。

渋谷のバーカウンターで
あいましょう。

担当・竹之内円

新しく生まれ変わり
知らぬうちにまた違う姿をみせてくれる東京。

たくさんの人が行き交う渋谷の街は
どんな変化を遂げてきたのでしょうか。

今回、渋谷駅から少し離れた宇田川町の路地裏に佇む
「bar bossa」の店主・林伸次さんの元を訪れました。

1ヶ月に約500人、年間にすると6000人以上の
お客さんが来店されるというバーでは
毎晩、どんな物語が生まれてきたのでしょうか。

林さんがカウンター越しに見てきた人間模様を綴る
cakesでの連載「ワイングラスのむこう側」を始めるきっかけも
お店のバーカウンターでの出会いがはじまりでした。

開店して20年、お店を始めた理由と続けてきた理由。
バーテンダー修行期間のお話から、
もしかしたらバーのマスターでなく
カレー屋の店主だったかもしれないという裏話まで
飛び出した林伸次さんへのインタビュー。

まだお客さんのいない、開店前の静かなbar bossaから
全4回でお届けします。

プロフィール
林伸次さんのプロフィール

第1回 渋谷でお店を始めた理由。

——
渋谷駅から少し離れた
宇田川町の裏路地に佇む「bar bossa」
1997年に開店してからもうすぐ20年が経つんですね。
まずは、ここ渋谷でお店を始めようと思った
きっかけを教えてください。
林さん
この店を始める前に
下北沢でバーテンダー修行をしていたんです。
それで、まずは下北沢周辺で探していたんですよ。
 
でも、外部からだと紹介なしでは入りづらくて‥‥。
家賃も想像していたよりも高かったので、
別の場所で探そうっておもったんですね。
——
下北沢以外にも、候補に入れていた場所って
あったんですか?
林さん
その後は、代官山や恵比寿でも探したんですけど、
やっぱり人気エリアということもあって家賃相場が高くて、
そこから麻布や外苑前にも広げてみたんです。
 
でも、この辺で飲んだことないなって気付いて、
魅力的だけど、その時に自分の場所ではないって
考え直して‥‥。
やっぱり街によってカラーが全然違うんですよね。

——
これって思える物件と出会うのも
一苦労だったんですね。
林さん
僕はレコードが好きで、
少しサブカルっていうんですかね‥‥。
渋谷って音楽の街だし、
映画館やCD・レコードショップもたくさんあって、
最後に渋谷周辺で物件を探してみることにしたんです。
 
いくつか良い物件を見つけて、
道玄坂の方にも行ってみたり、
なかには、昔スナックをやっていた
雑居ビルの物件なんかもあって。
 
そういう場所だと、
お店の横が雀荘とかだったりして
自分が1人で飲むのであれば良いんですけど、
これから家族ができても
娘がふらっとお店に遊びに来れるような場所で
やりたいなってもう一度考え直しました。
——
お店の場所ってすごく大事ですもんね。
最終的に、この場所を選んだ決め手になるものって
ありましたか?
林さん
ある日、不動産屋から「ここはどう?」って紹介されて
一階なのに家賃がすごく安くて。
実際に物件を見に行っても、
なかなか見つからないんですよ。
 
渋谷駅から少し離れた静かな住宅街にあって、
ぐるりと裏道にまわって辿り着いた場所がここだったんです。
 
夜中にカップルが一緒に探して、
ようやくお店に辿り着いたら‥‥
きっとすごく盛り上がるかもなって思って。

——
なんだか運命的ですね。「bar bossa」
という名前は林さんが考えたんですか?
林さん
そうですね。中古レコード屋で働いていて、
その頃からボサノヴァが好きで。
同じようにボサノヴァ好きな人が
初めてお店の名前を聞いたときに
「ここに行ってみたいなぁ」って思うんじゃないかなって。
 
例えば、歌舞伎が好きな人が“BAR 歌舞伎”って
名前を聞いたら一度は行きたくなりますよね?
——
自分の好きなものが名前に入っているだけで
気になっちゃいますね。
林さん
お店の名前は覚えやすいのが一番ですね。
今だと、お店を選ぶときに、
ネットで検索することが多いと思うんですけど
「場所は青山のお店で、英語の名前で何だっけ‥‥」って、
店名で難しい横文字が並んでいると、覚えにくいんです。
覚えてもらいやすい名前にしてよかったなって
後になってから気付いたんですけどね。
——
林さんがお店を始めるときに影響を受けたことってありますか?
林さん
1960年代から“ジャズ喫茶”って呼ばれるジャンルが
世の中にあって、お店でレコードを流して、
それをお客さんが聴きにくるです。
 
これって、他の国にはないスタイルなんですよね。
昔は、レコードの円盤が3000円くらいだったそうで、
それって、今だと1万円くらいの価値だったらしいんです。
——
昔と今ではレコードの価値ってそんなに違ったんですね。
林さん
普通の学生はレコードって買えないけど、
ジャズ喫茶に行ったら、コーヒーを一杯飲めば、
ジャズをただで聴ける。
「あのレコードをかけたい」ってリクエストをしたり、
そんなスタイルの“ボサノヴァ版”をやろうって思ったんです。
 
レゲエやソウル、ジャズやロックのお店はあっても、
ボサノヴァのバーってないから、
一番始めにやってみたら面白いんじゃないかなぁって。

——
店内にも、レコードがたくさん置いてありますね。
林さん
趣味ってレコードしかないってくらい好きなんです。
1997年にお店を始めて、2001年にはインターネットで
「bossa records」っていうサイトを作りました。
 
自分がおすすめしたいレコードの解説を書いて、
実際にサイト上で試聴もできるようにしたんですよ。
当時、そういうことって誰もやっていなくて‥‥。
 
レコードを買わなくても、
面白いって思ってページにしたんですよ。
そしたら、すごく人が集まるようになって、
音楽関係の仕事依頼も頂けるようになったんですね。
——
林さんが監修を務めるバーで聴きたい曲がつまった
コンピレーション『Happiness Played in the Bar -バーで聴く幸せ- Compiled by bar bossa』
発売になりましたね。
林さん
とにかく自分が10代の頃からずっと好きだった
曲ばかり並べようって決めて選曲したんです。
レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』
っていう小説のなかに、
「夕方、開店したばかりのバーが好きだ」っていう
文章があって。

林さん
こうやって言うと、すこし恥ずかしいんですけど‥‥
開店したばかりのバーって
お客さんが誰もいなくて
夜の始まりの緊張感があってすごく静かなんですよ。
 
今回のCDは全部で18曲あって、
1曲目から前半はお店が開店して
静かな雰囲気をイメージしているんです。
 
そこから、少しずつお客さんが来て
ザワザワしはじめて‥‥
閉店の時間が来て、静かな曲で終わるって
イメージで選曲をしたんです。
第2回 バーのマスターになるまで。