◆朗読が好きな子ども◆
私がまだ小学生だったころ、国語の時間に、
音読をするのが大好きでした。
自分が心の中で読んでいるように、
自分の感性で文章が読める、
ということが心地よくて好きだったのです。
それに、私は、
文字を読むときにほとんどつっかえる、
ということのない子どもだったので、
音読するたび、先生が、
『つっかえなくてとても上手ですね』
と褒めてくれるのが、子どもごころに、
何だか誇らしくて、嬉しかったのを覚えています。
そう、私は音読・・・・
すなわち『朗読』が大好きでした。
『でした』というのは、私そのことを、
大人になってすっかり忘れていたからです。
私が『私って朗読好きだったな』
ということを思い出すのは、
実はその後長い時間が経ってからなのでした。
◆26歳の夏、朗読が好きだったことを思い出す◆
それは26歳の夏。
私は立っていられないレベルで大変具合が悪くなり、
病院へ行き、その行った先で、
お医者さん「あっ・・・・これはちょっと」
私「ちょっとなんですか!?」
お医者さん「まずいですね」
というやり取りを経て、その一か月後、
がんセンターに入院のち手術、
という事態に陥っていました。
それだけでもおおごとだというのに、
『あのね、手術した場合、
まぁすごく低い確率でだけど、死ぬ可能性あるかも』
とお医者さんに言われ、
「痛いうえに死ぬかもしれないなんて、
手術、憂鬱すぎる・・・・」
と手術前夜、私は憂鬱になっておりました。
私は夜、眠る前に考えました。
「もし死んじゃったら、私天国で、
これやっとけばよかったなぁ、
って後悔することってあるかな」
よく考えると、この時点で、
天国へ行けると確信しているというのが、
我ながら割と神経太いなと思います。
それはさておき、
よくよく考えても、天国で後悔しそうなことは、
特に思い当たりませんでした。
しいていうなら、
私はアイスクリームがすごく好きだったので、
高めのアイスクリームを、
もっと思う存分食べておけばよかった、
ということは後悔しました。
そう、私は今までの人生26年間、
自分がやりたいことを、
全力で好き勝手にやっていたので、
心当たりのある後悔みたいなものが、
あんまりなかったのです。
ここで死んじゃったら、
まぁ道半ば的な後悔はあるにしても、
仕方がないかな~と諦めもつきます。
と思いましたが、
よーく考えたらありました。
そう、私は思い出したのです。
「子どものころから、本を音読するのが好きで、
ナレーターさんとか、
声優さんになってみたかったけど、
特にチャレンジしてみることもなかったなぁ」
私は、自分の好きを、仕事に結び付けがちな人間で、
色々な自分の好きなことを、
いつも何か仕事に結びつくように、
あれこれ考えていました。
つまり、自分の好きな事を、
仕事としてやる、あるいは、あきらめてやらない、
の結論を今まで沢山つけてきたんですが、
そういえば、朗読だけは、
やってみる、ということすら、
考えたことがありませんでした。
あんなに子どもの頃、大好きだったのに、
唯一やるとかやらないとか、
そういうことを全く考えずに、
何もしませんでした。
基本的に私は、物事の白黒をはっきりつけすぎて
「お姉ちゃん・・・・
もうちょっとグレーにしておいてもいいことが、
世の中にはたくさんあるんだよ・・・・」
と妹に言われるほど、
どっちつかずにしない人だったのに、
「そうか、私朗読については、やるもやらないも、
どっちつかずにしたままだったんだ」
とその時はじめて気が付きました。
ちなみに、私の妹が、
私に白黒つけすぎないことを推奨したのは、
私が二十歳そこそこの時の話なので、
今の私はちゃんとグレーもあわせ持つ、
大人レディになりましてよ(笑)。
ほほほ(笑)。
さて、万が一だけどあなた死ぬかもしれませんよ、
と言われて明確になったのは、
『私って朗読が好きだったんだ』
という気持ちと
『好きなら何かしらチャレンジ位すればよかった』
という後悔でした。
そして、
ずっと昔の子どもの頃に、大好きだった朗読が、
15年以上たった今思い出すくらい、
今でも好きだったんだ、
という好きの再発見でした。
◆好きを再発見したものの◆
さて、朗読が好きで、仕事にしてみたかった、
みたいな自分の中にある気持ちを再発見した私。
(あ、病気は治って元気になりました)
再発見したからには、
こう、どんどん何か展開していく・・・・
なんてことにはなりませんでした。
再発見の好きだったので、
今まで好きだったものとこう、
なんかちょっと違ったんです。
付き合い方がわからないというか、
しいていうなら
『中学生でできた初彼氏』
みたいな対応になっちゃうんですよ。困りましたね。
お互いに好きってわかって付き合おうってなったけど、
付き合うって何すればいいかわからない、
みたいな状態です。
これがアイスクリームとか、ポッキーとか、
シュガープリッツとか、文章を書くとか、
前から付き合いの長い好きなものだったら、
もう慣れたもんです、相思相愛、
相手も私も付き合い方を了解していますので、
「来週は文章を8000字くらい書いて、
今日はポッキーをお昼代わりに2パック、
アイスクリームは夕飯のあとに食べようかな。
プリッツは1週間後のおやつね♪
みんな大好きだよ♪」
といったようなお付き合いができるんですけど、
朗読に関してはまず何をしたらいいかわからない。
私は発見した好きをもとに、どう動くかを、
先延ばし先延ばしにしていました。
仕事もありましたしね。
忙しいを言い訳にしていたわけです。
さて、そうやって先延ばしにしていたある日のことです。
私の仕事場に、男の子を連れて友達がやってきました。
友達「今日は私のお友達の田中君も連れてきてみました」
私「あ、田中君もこんにちは。君、何の仕事してるの?」
田中君「声優です」
生まれて初めて職業声優さんというものを見た~~~!!
と、顔にこそ出しませんでしたが、
私は心の中でたいへんにびっくりしました。
そして同時に、
『この子にきけば、朗読の仕事の仕方がわかるかも』
と、大変打算的なことをフル回転で考えました。
私「た、田中君、君どうして声優さんになったの?」
田中君「実は僕、もともとサッカーやってて、
サッカー選手になりたかったんですけど、
心臓に疾患が見つかって、
それでサッカーできなくなっちゃったので、
もう一つ好きだったアニメの世界で、
仕事したいって思ったからです」
私 「すごいな・・・・。
あの、私も声優さんになってみたいんだけど、
どうやってなるの?私でもなれるかな?」
私もド直球にききすぎです。
今考えると、とても失礼な質問だったと思います。
ところがどっこい、田中君はいい笑顔で、
「じゅりさんでも、声優になれますよ」
と言いました。
「ほんとに?」
「なれますよ」
「私、何にも練習したことないし」
「ちゃんと今からやればできますよ」
「まったく若くないし」
「年齢は関係ないです。なれます」
「ほんっとの本当に?声優さんになれる?」
しつこいほど念を押して詰め寄ると、
「ちゃんと練習すればなれます」
と彼は言いました。
「じゃあ、どうすればいいかな?」
「とりあえず声優さんの養成所にいきましょう」
「養成所とは?」
「要するに学校みたいなところです」
「そこに行けば声優さんになれるの?」
「ちゃんと言われた通り練習すればなれますね」
「ほんとだね?」
「本当です。養成所へ行ったら、
ちゃんと言われた通りに練習するんですよ?」
『田中君、君を信じる』
と私は思いました。
思ったので、
私は養成所の門を叩くことにしたのでした。
次回、私は声優さんの養成所へ行っちゃいますよ~!
(第2回『声優さんの養成所へ行こう!』へ続きます)