もくじ
第0回わたしの好きなもの。 2016-06-02-Thu

「ほぼ日の塾」の生徒のなかで、
おそらく一番ベンチプレスを挙げます(120kg)。
どうぞよろしくお願いいたします。

担当・よしたにごろう

あなたの好きなものについて
自由に書いてください。

いざ、そう言われてみると、
ずいぶんと頭を抱えてしまうのです。

好きなスポーツもあるし、
応援しているサッカークラブもあるし、
ひいきにしているたべものや
お店だって、たくさんある。
わたしは、わりと多趣味なほうなので、
語りだしたらとまらないような
モノ・コトもたくさん存在する。

いっそ、「嫌いなもの」だったら、
もうすこしラクなのかもしれない。
嫌いなものには、なにか理由がある。
けれど、好きなものというのは、
もう、「とにかく好き」なのだ。

‥‥さて、そんなことを考えているうちに、
「父親、っていうのもあるなぁ」と思いました。

実の父を「好きなもの」と表現するのは、
どこかペットをかわいがっているようで
立場が逆転しているような違和感があるけれど、
「好き」なものは「好き」だから、
書こうとおもったわけであります。

父のなまえは「きよし」です。

わたしと父は、
50歳、年齢が離れている。

高校生のとき、
授業で50歳くらいの先生が、
「みんなのお父さんよりも、
 老けているかもしれませんアハハ」
なんて笑いを誘っているのを聞いて、
「絶対にそんなことないぞ」と思っていた。

父は、年齢よりずいぶん若々しく見えて、
じぶんの父が同級生の父親たちより
そこまで年老いてるとは思わなかった。

還暦をすぎても、
ずっと働いていたからかもしれないし、
父にずっと寄り添ってきた母が、
父よりひとまわり以上若いからかもしれない。

父は、必要以上にしゃべらない。
ほとんど怒られた記憶もない。
(それはもっぱら母の役目だった)
手をあげられたのは、2〜3回かなぁ。
小さい頃、ひどく母に叱られたあと、
「ジュースでも買うてこよか」と
そっけないけれど、
やさしく声をかけてくれるのは父だった。

父は、実に手が器用で、絵がとてもうまい。
機械のことにかなり詳しくて、
家にある家電は、ほぼすべて直せる。
大学時代は体育会のラグビー部に所属していて、
スポーツもだいすきだった。

父は、シャイだ。
わたし自身も父の影響を受けてなのか
大学のラグビー部に所属していたのだが、
いつも試合をこっそり観にきていた。
グラウンドの端っこで、こっそりと。
もっと大きなスタジアムでやる
ビッグゲームのS席なんかに
招待してあげたかったけど、
それはぼくの実力不足で、叶わなかった。
よく、もうしわけない、と思っていた。

‥‥こうやって書いてきて、
ほんとうに自分によく似ていると思う。

そりゃまったくの他人じゃないので、
似ているのは当然かもしれないけれど、
今のじぶんをつくっているのは、
まぎれもなく、父だと思っている。

父のことは、
「尊敬している」というより「憧れ」に近い。
近くにいるはずなのに、決して触れられない。
自分にないものをもっている、憧れの存在。
アイドルのファンのようなキモチなのかな。
だから、「好き」とも、いえるのだと思う。

そんな父は、
加速度的に、老いている。

大学生のときのことだ。

リビングのソファでうたた寝をしてる父がいた。
なぜそうしようと思ったのかわからないけれど、
近寄ってみて、正面から顔をのぞきこんでみた。

しわの多い顔。
白髪の目立つ頭。

突然、父の母であるおばあちゃんの
お葬式の日がフラッシュバックした。

棺桶のなかで花にかこまれて、
静かに目をつむっているおばあちゃん。

目をつむって、静かに寝ている父が、
その姿と重なった。

「いつか、その日はくるんだよなぁ」

そんなふうに思った日から、
父のことを、考える時間がふえた。

好きな子のことで頭がいっぱいの高校生、
とまではいかないけれど、
やっぱり、これは「好き」なのだと思う。

今は、病気もなく父は元気だ。
けれど、この世に生を受けた人は、
だれもが平等に、死を迎える。
悲しいけど、じぶんだって、いつかはそうなる。

生まれたとき、すでに50歳だった父に、
まだまだ親孝行したりない。

だから、ずっと元気でいてね、きよしさん。
あと、きみえさん(母)も、ね。