もくじ
第0回浅草銀座ブラジルのカツサンド 2016-06-02-Thu

1990年、
山形県生まれ、
山形県育ち。

シティ・ボーイに
憧れて、
片田舎から上京。

音楽界隈で、
荒波に飲まれつつ、
サバイブ中。

たのしいことばかり
ありますように。

ぼくの好きなもの
浅草銀座ブラジルの
ロースカツサンド

担当・シータカワタナベ

とてもおいしい、カツサンドがあります。
東京の浅草にある喫茶店、
『銀座ブラジル』のロースカツサンドです。
ここでは親しみをこめて、
『浅草銀座ブラジルのカツサンド』と呼ぶことにします。
この読み物は、そのカツサンドを大好物とする男が、
徒然なるままに、自分の気持ちを綴った文章です。

浅草銀座ブラジルのカツサンド

とびきりおいしいカツサンドが、東京にある。

浅草の喫茶店、『銀座ブラジル』の
ロースカツサンドだ。

僕はそのカツサンドが、好きだ。
はじめて食べたときの驚きを、今も忘れられない。

おいしいものを食べると、
ほっぺたが落ちる。

なんて表現がよく使われるけど、
それを見聞きする度に、
「いや、落ちっこねーだろうよ。」
と、そんなふうに思っていた。

だけど、
そのカツサンドを食べて、
はじめて思ったのだ。

ほっぺたが落ちるってのは、
もしかすると、
こういう感覚なのかもしれないぞ、と。

きっと、
料理に詳しい人からすれば、
専門的な言葉で
そのおいしさを語る術は、
いくらでもあるのかもしれない。

だけど恥ずかしながら、
その術をまったく持ち合わせていない自分は、
ただただいつも、こう思うのだ。

ああ、
なんてやさしくて、
なんて元気の出る、
おいしさなんだろう。

好きだなぁ。
浅草銀座ブラジルのカツサンド。

日曜日の朝いちばんに、
まだお客さんがまばらな店内で、
窓の外を眺めながら、食べるのが好きだ。
休日の朝の、最高の贅沢だ。

仕事や用事が近くであるとき、
ちょっと早めに家を出て、
遠回りしてお店に寄って、
予定が始まる前に、食べるのが好きだ。
その日の自分は、いつもより上機嫌だ。

どうにも調子の出ない日が続くとき、
気晴らしのように、
1人でもくもくと食べるのが好きだ。
食べ終えてお店を出る頃には、
数パーセント、元気になってる気がする。

友人や大切なひとを連れて、
いっしょに食べるのが好きだ。
それを食べているとき、
みんなうれしそうな顔になる。
たぶん見ているこちらも、
おんなじような顔になってる。

ああ、好きだなぁ。
浅草銀座ブラジルのカツサンド。

お店に向かうまでの、道のりが好きだ。
朝はやくから、観光客と地元のひとで賑う
浅草の商店街を抜けていくあの感じは、
いつだって心地いい。

ネーミングが好きだ。
なんせ、浅草で銀座でブラジルだ。
ちなみに、同じビルの一階に入ってる
靴屋さんの名前は『シカゴ』だ。
ちょっとおかしくて、笑える。

お店のおばちゃんが好きだ。
いつもチャーミングで、とても元気だ。
みんな私から元気をもらって帰るのよ。
と、笑いながら言う。
うん、そうだろうなぁ。
と、すごく思う。

注文をして、
カツサンドが出てくるのを待っている時間は、
そんなに好きではないのだけれど、
読みかけの本の続きを読んだり、
お店の壁に飾られた
往年の名俳優と名女優のポスターを眺めたり、
常連さんたちの会話に耳を澄ましたりしている内に、
意外とすぐに時間が経過してくれるのは、好きだ。

なにより、
食べている時間が好きだ。
これはもう、ダントツに好きだ。
他に解説する言葉はない。
おいしい。ほんとうに、おいしい。
おいしくて、やさしくて、元気が出る。
みんな、ほんと、食べにくればいいのに。

食べ終えたあと、
アイスコーヒーを飲んでいるのが好きだ。
おいしかったなぁという余韻が残っていて、
コーヒーを飲み終える頃には一度、
消えかかるんだけれど、
飲み終えて席を立とうとすると、
ああ、おいしかったなぁという気持ちが
またやってくる。

レジに並んで、
会計を済ますときが好きだ。
おいしかったです。
と、おばちゃんに伝える。
またいつでも来てちょうだい。
おばちゃんは笑顔で答える。
もちろん、また来ます。
僕は心の中でつぶやく。

お店を出て、階段を降りて、
商店街へ戻っていく、
その帰り道が好きだ。
つぎは、いつ来ようか。だれと来ようか。
そんなことを考えている自分が、
もうすでにいる。

徒然と、自分の気持ちを書き出してみた。
そしてやっぱり今、こう思っている。

とびきりおいしいカツサンドが、東京にある。

浅草の喫茶店、『銀座ブラジル』の
ロースカツサンドだ。

僕はそのカツサンドが、好きだ。
うん。すごく、好きだ。

(おわり)