第3回 今の仕事は「天職」ですか?

柳瀬 ちょっと、さきほどの前川さんのお話に
戻しますと‥‥
「自分をもっと成長させたい」と思ってる人は、
「今の仕事は天職じゃない」と
思っているってことなんでしょうね。
前川 ええ、そうでしょう。
柳瀬 それじゃあ、どうやったら
「これだ!」という仕事にめぐり合えるのか。

‥‥渋谷さん、今の仕事、天職ですか?
渋谷 そうですね‥‥。

今まではたらいてきて、
思い返してみると、天職だったんだろうなって。

ぼくが『日経ビジネス』の記者として
社会人をスタートしたのが、1984年のこと。
でも、はたらきはじめた当初は、
もう、すぐに辞めようって思ってたんです。
柳瀬 あ、そうなんですか!
渋谷 だって、忙しいし、タイヘンだし、怒られるし‥‥(笑)。

取材に行っても、門前払い食わされたりなんかして、
なんだか、とにかくタイヘンだったんですよ。

でも、2〜3年目ぐらいから、
だんだん、おもしろくなってきたんです。

柳瀬 そうだったんですか。
渋谷 たしかにね、「天職」、
つまり、自分に向いてる仕事を見つけるのって
なかなか難しいと思うんですよ。

だって、実際その仕事をやってみないと、
わかりませんからね、そんなの。
ですからね、ぼくは
こう考えたらどうかな、と思ってるんです。
柳瀬 はい。
渋谷 毎年、年末になると、いろんなメディアが
「10大ニュース」ってやるじゃないですか。

同じように、自分にとっての「10大ニュース」、
それが難しければ「3大ニュース」でもいいので、
1年とか、半年とかのタームで書き出してみる。

そうすると、友だちとどこかに遊びに行ったことだとか
あるいは、
仕事をしていて、すごくお客さんに喜ばれたことだとか
何かしら出てくるじゃないですか。

柳瀬 ええ。
渋谷 それを考えることで、自分の傾向が掴めると思うんです。

つまり、自分は人に喜ばれるのが好きだから、
このことを「3大ニュース」に選んだんだな、とかね。
自分のことを分析することができるんです。

そこから「自分の仕事」というものを
考えてみたらいいんじゃないかなと思ってるんですよね。
柳瀬 なるほど‥‥川上さんは、どう思われますか?
ご自身のお話も含めて。
川上 わたし自身、今の仕事が天職かどうかについては、
正直言って、まだ、わからないと思ってるんです。

じつはわたし、新入社員の時代にですね、
「ノー・モチベーション」という
あまり、ありがたくないあだ名を付けられてまして(笑)。
柳瀬 ノー・モチベーション?
なんでまた、そんな‥‥(笑)。

川上 高校・大学時代、野球に打ち込んでいたんですよ。

その後、社会人となり、今の会社に入るわけですけど
一生懸命やってるつもりでも
やっぱり学生時代の「野球」ほど
仕事に燃えてない自分が
まわりの先輩にも、見えてしまったのかもしれません。
柳瀬 でも、そういうことって、
けっこう、ありそうなお話ですよね。
川上 ええ、若手の社員のかたには、けっこう多いです。
とくに、学生時代、
部活動やサークルに打ち込んでいた人ほど‥‥。
柳瀬 うん、うん。
川上 でも、わたしの場合、「サラリーマンの常」で、
入社以来、いろんな職種を経験しているんですね。

「ノー・モチベーション」と言われながらも。
柳瀬 ええ(笑)。
川上 だから、今の「編集長」という仕事が
「天職」かどうかは、まだ、わからないけれども、
少なくとも、
これまでやってきたことの「集大成」だな‥‥と
とらえてはいて、今は楽しんでいますね。
柳瀬 なるほど‥‥糸井さんは、いかがです?

そもそも「コピーライター」というのは
「天職」であると、
オレの生きる道だと思って選んだんですか?
糸井 いや、あんまり自分のことを主体に
考えたことが少なかったのかもしれませんね、ぼくは。
柳瀬 ‥‥と言いますと?
糸井 つまり「オレのやり甲斐」について
考えたことってあんまりないんですよ。
柳瀬 えっと、そうなんですか?
糸井 ただ「食えるか、食えないか」については考えました。
つまり「食えないのは困る」だろうと。
柳瀬 うん、そりゃあ、困りますよね。
糸井 でも、「こうなりたい」とか、
「こういう職業に就きたい」とか、
「こんな活躍をしてみたい」とかって
正直、思ったことなかったんです。

‥‥来た球を打ってきただけ、というか。

柳瀬 来た球を打つ。
糸井 そのつど、ダメだったり、よかったりしてね。

で、よかったところを見てくれてた人が
「じゃ、これは打てる?」って
こんどは、ちがう球を投げてくれたり‥‥。

来た球を打つだけでも、おもしろいんですよ。
柳瀬 うん、うん。
糸井 知らないと思いますが、
ぼくの処女作って『スナック芸大全』ていうんです。
柳瀬 存じております。
糸井 みんな、ぼくの著書として
カウントしてないのかもしれませんけど‥‥。
柳瀬 ぼくは持ってます。
糸井 ありがとうございます(笑)。

雑誌づくりの手伝いをしていたころがあるんですけど、
あるとき、飲みに行こうかって誘われて。

で、その席で、スナックでやる芸みたいなことを
いろいろやって遊んでいたら、
「‥‥そういうの、いっぱいある?
 あるんだったら、書いてみないか」って言われて。
柳瀬 ははぁ‥‥そうだったんですか。
糸井 だれか、こういうことやればいいのにって思ったことを、
やる人がいないからって
ぼくがやることになったという例が、けっこう多いんです。

今やってる『ほぼ日刊イトイ新聞』も、そうですし。



<つづきます>


2008-07-02-WED


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN