第2回 社会人の「不満」ランキング?

柳瀬 大学生の人気就職ランキングって、
だれのために、どんな目的でやってるのか‥‥と。

川上 まず、学生の人気企業ランキングに関していえば、
ひとつ、
上位に入りやすい条件というのがあるんですよ。
柳瀬 ええと、それは?
川上 新卒採用の人数、です。

つまり、新卒採用人数の多い企業が、
上位にランクされる傾向がある。
柳瀬 オレにも入れるかも、と。
川上 ええ。それに「採用人数が多い」ということは、
それだけ採用広報が盛んになされるということ。

つまり、学生がその会社の情報を見聞きする機会が
ひじょうに多くなってくるんですね。

実際、ランキング上位の企業にたいする
学生のコメントを見てみると、
「セミナーで社員のかたのお話を聞いて」だとか、
「企業理念に共感して」なんてのが目立ちます。
柳瀬 ははぁ‥‥なるほど。
川上 今年のランキングに関しても、
三菱東京UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ、
三井住友銀行の「3大メガバンク」が
上位5位以内に返り咲いていますが、
やはり、採用数はひじょうに多いですね。

柳瀬 あとは、最近、よくメディアで、
「ワーク・ライフ・バランス」などの必要性が
叫ばれているじゃないですか。

仕事と家庭を両立させよう、という。

そういう「はたらきやすい会社ランキング」で、
上位にくるような企業が
目立ってきてるような感じもするんですけど。
前川 そうですね、今、注目されているのは
「ワーク・ライフ・バランス」や
「ダイバーシティ(多様性)」という概念がひとつ。
柳瀬 ええ。
前川 プラス、もうひとつ挙げるとするなら
たぶん「成長」というキーワードじゃないでしょうか。
柳瀬 学生が企業を選ぶにさいして
「どんなところを重視しているか」のランキングで
トップだった項目ですよね。

「自分を大きく成長させられそう」という。
前川 そうです。ぼくは今、企業の人事役員のかたや
経営者のみなさんと
お話をさせていただく機会が多いんですけど‥‥。
柳瀬 はい。
前川 なんでも、
最近、入社して間もない20代の若手社員が
「辞めます」と言ってくるときって、
ひとつ、お決まりのセリフがあるんだそうです。
柳瀬 それは?
前川 「今の仕事のままでは、ぼくは成長できない」。

柳瀬 ああー‥‥。
前川 だから、辞めます、と。

別の職場で、もっともっとスキルアップして、
大きな仕事をやってみたいから退職しますと。

そういう視点から
この学生の人気就職ランキングを見ると、
若いうちからチャンスがありそうだとか、
仕事が公平に回って来そうだとか、
そういうランキングとしても、読めるんじゃないかと。
柳瀬 なるほど、そうですね。
渋谷 ひとつね、思うんですけれども、
学生にとっての「会社」って
そこではたらいたことがないわけだから
たんなる「印象」、
それもメディアから受けとった「印象」が
ほぼすべてだと思うんです。

柳瀬 ええ、ええ。
渋谷 つまり、なにか元気がありそうだぞとか、
なんとなく、ノってるんじゃないかと思われた会社が
上位にランクインしがちというか。

見ている側のぼくらとしては
まぁ「へえ〜」とは思うんだけれども‥‥(笑)。
柳瀬 毎年、常連的にランクインしている
人気企業の社員なら、気にもなるんでしょうけどね。
渋谷 そうそう、ウチはランクインしてないからって
ケースが、大半なわけですよ、社会人の場合。

でも、今回「ほぼ日」さんと日経BP社がやった
「社会人がえらぶ人気企業ランキング」、
こっちのほうは、ぼくらにとってもおもしろい。

たとえば、日経ビジネスオンラインの1位は、
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン。
ゴールドマン・サックスみたいな
超高給外資とよばれる企業も上位に入ってる。

一方で、「ほぼ日」側のランキングでは
任天堂とかオリエンタルランドとか、
エンターテインメントのサービスや商品をあつかう企業が
上位にランクインしていますよね。
糸井 たとえばね、オリエンタルランドについては
ぼく自身、冗談めかして
「ライバルはディズニーだ!」とか言ってますし、
任天堂についても、社長の岩田聡さんご本人が
「ほぼ日」に登場してくれるので、
読者にとって、親しみがあるのは事実でしょう。
渋谷 そうでしょうね。
糸井 でもね、3位に入ったベネッセなんかは
特集とかをしたこともないですし‥‥。
柳瀬 ええ。
糸井 そういう意味では、今回の社会人ランキングって
けっこう、はたらく人たちの
本音が集まったんじゃないかと思うんですよね。

柳瀬 うん、うん。
渋谷 ですから、そのあたりの
学生の人気企業と社会人の人気企業との「ちがい」が
まず、興味深いんです。

でも、それ以上に、
「なぜ、その会社をえらんだのか」という
理由のランキングが、おもしろいなと。

転職したいと思う企業を選んだ理由
ほぼ日版(複数回答可)
1位  仕事がおもしろそうだから 47.3%
2位 ユーザーとして、
製品もしくはサービスに
好感が持てるから
33.2%
3位 新しいことに挑戦を
させてもらえそうだから
25.6%
4位 高い技術力を持っているから 23.8%
5位 将来性があると思うから 17.0%

転職したいと思う企業を選んだ理由
NBO版(複数回答可)
1位  仕事がおもしろそうだから 45.9%
2位 新しいことに挑戦を
させてもらえそうだから
37.6%
3位 ユーザーとして、
製品もしくはサービスに
好感が持てるから
29.2%
4位 将来性があると思うから 25.7%
5位 高い技術力を持っているから 25.0%

渋谷 「仕事がおもしろそうだから」という理由が
トップなのは、まぁ、わかりますよね。

でも、そのあとに続くものとして、
「人事が公平に行われていそう」とか、
「成長性がありそう」とか、
そういう、わりと実践的で具体的な理由が
上のほうに来てるじゃないですか。
柳瀬 はい。
渋谷 つまりこれ、今、会社ではたらいていて、
「オレの会社、人事が公平じゃないしな」とか、
「ウチは、この先、ちょっと将来が見えにくいな」とか
ようするに、現時点の環境に「足りてないもの」を、
みなさん、選んでるような気がするんです。
柳瀬 社会人が、自分の会社に「足りない」と思っている
要素のランキングと、読み替える?
渋谷 そう、で、その「足りないもの」を
満たしてくれそうな会社として、
P&Gやゴールドマン・サックス、
あるいは任天堂なんかが
上位に選ばれたんじゃないかと思うんです。

柳瀬 現代のビジネスパーソンが抱いている
「不満」や「欠乏感」のランキングでもある、と。
渋谷 そういうふうに読めて、おもしろかったんです。

<つづきます>


2008-07-01-TUE


HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN