商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里 商人が仕掛けた真剣勝負 株式会社ジンズ 田中仁 代表取締役社長×糸井重里
(2)自分で選んだ道だから
糸井
田中さんはもともと、
自分が商売に向いているものだと思って
会社を始めたんですよね。
田中
そうですね。
ただ、商売が向いていると思って
会社を始めたというよりは、
「商売でしか身を立てられないんじゃないか」
という感覚があったからですね。
なんと言えばいいのでしょうか、
自分の中にどこか、負け犬意識があって。
糸井
負け犬意識ですか。若い時に?
田中
高校に入った時点ですね。
私は中学3年生の頃、
たくさん遊びたい時期だったんです。
友達と深夜まで遊ぶようになって‥‥。
糸井
ずいぶん遊んだんでしょうねえ。
田中
そんな中学3年生の当時、
私と同じぐらいの成績だった子が、
将来の目標を決めたんですよ。
「自分は理科の先生になるんだ。
そのためにはまず前橋高校へ、
そして国立大学に行きたい」
と言って、彼は本当に前橋高校に行くんです。
私とのギャップが、ものすごく大きかった。
糸井
見つけちゃったんだ、目標を。
田中
そうそうそう。
その彼は本当にその通り、
今、学校の先生をやってますよ。
糸井
へぇーっ!
田中
私は子どもだし、出来が悪いから、
将来のこともよくわかってないんです。
ただ、何かモヤモヤしたものが出てきて。
糸井
そいつを見ていたから(笑)。
田中
あと、同級生のいとこの女の子が
小学校、中学校とずっと一緒なんですけど、
その子は小学校でも中学校でも、ずっと1番。
その子と自分は、いつも比べられるんです。
糸井
「俺はどうも負けてるなぁ」と?
田中
ええ。負けていることもそうですし、
子どもながらに、モヤモヤした気持ちが‥‥。
高校に入ってから、なんとなく
将来の自分の進路を考えていた時に、
「あ、これは自分で商売やったほうが
いいんじゃないかな」と思って。
糸井
へえ、それはどうして。
田中
私が中学の時に親が商売を始めたり、
お袋の実家が商人だったりして、
身近にそういう環境があったんですよね。
商売をやるなら、勉強できるのは金融だと思って、
地元の信用金庫に入ったんですよ。
糸井
自分で商売をやる前提で
就職したんですか?
田中
そうですね。
深く考えたわけじゃないですけど、
ぼんやりと考えていましたね。
糸井
高校では、もう遊びはやめたんですか?
田中
いや、遊んでましたね。
糸井
相変わらず遊んでた(笑)。
多少は勉強もしたんですか?
田中
ほとんどしませんでしたね。
糸井
勉強しなくてもなんとかなったんだ。
じゃあ学校の中では、
「あいつはできる子」みたいな
扱いをされていたんじゃない?
田中
できる子っていう感じでもないですよね。
ちゃらんぽらんでしたよ。
糸井
決意を固めて頑張るタイプじゃないんですね。
田中
学校の勉強に関して言えば、
努力の「ど」の字もありませんでした。
糸井
それは、ぼくも同じですね。
田中
私は努力の「ど」の字もなく、
とにかく凡庸で、人並み以下の
高校生活と人格をしていた気がします。
糸井
遊んでばかりだった高校生の田中さんが
「これしかない」と思ったのが、
お店屋さんごっこの延長だったんだ。
田中
そういうことですね。
糸井
田中さんの半生をまとめた本
『振り切る勇気 メガネを変えるJINSの挑戦』
を読んだけど、油断ばっかりの本ですよね。
田中
ははは、油断ばっかりしてますよ。
糸井
油断ばっかりで、おもしろいんです(笑)。
普通はビジネス書って、
「会社のためになればなぁ」ぐらいの気持ちで
出す人が多いんだけど、これはねえ‥‥。
田中
暴露本に近いですね。
糸井
本当にそう(笑)。
宣伝じみているのは後ろの5分の1くらいで、
あとは「この頃はダメだった」の話ばかり(笑)。
田中
「ダメだった」を連呼してますよね。
この本を出した時は前橋で地域活動を始めた頃で、
地元の子たちに向けて、
「こんなにダメな俺でもこの程度にはなれたから、
みんなに勇気を持たせよう」
と思って書いたんですよ。
糸井
いやあ、勇気は持てましたよ。ぼくも(笑)。
勇気を持たせるという意味では
大成功してるんじゃないですか。
田中
前橋の何人かには、
たぶん効いていると思います。
糸井
買った人は「よかった」と思うだろうなぁ。
田中さんは夢に向かって燃えている人でもないし、
「あぁダメだ」って飲んだくれちゃうし(笑)。
田中
(笑)
糸井
飲んだくれてはいるんだけど、
「このままじゃいけないな」と思っていたら、
「あ、こういうことか」って
必ず段差を見つけて、ちょっと上がるんですよ。
絶えず、なんとかしてこぎつけている。
案外頑張り屋さんなんですよね。
田中
振り返ってみると、そうですね。
商売に関しては努力ができているんです。
商売は好きだから。
糸井
学生の時とは違って、
「ここで負けちゃいけない」があったから。
田中
やらされる勉強は一切したくないけど、
商売は自分で選んだ道ですから。
糸井
あぁ、なるほど。
(つづきます)
2017-12-22-FRI